第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・20
ゥゥゥゥゥゥン!
男が咄嗟に、おそらく最後の気力を振り絞り放った弾丸はいとも簡単に避けられた。
「はい、これで最後」
シェイドは鎌を引く。
男の首は音もなく体から分離させられた。やけに重たそうな音を立てて血の海に落ちる。
「…………任務完了。優先順位の変更」
なにやらつぶやくと、シェイドは翼の方に向き直った。
「今日はもう終わりだ。真咲にはこれ以上弱くならないように言っておいて」
「……こいつらは、全員お前が?」
屋上に溜まる血に浮かぶ肉片を指差し、翼は問う。
「そうだけど?」
きょとんとした顔で訊き返すシェイド。
「べつにいいじゃないの? だってこいつらは君たちの命を狙っていたわけだし。君だって大切な人とか自分が殺されそうだったら、相手を殺すのは当たり前でしょ? ただ僕はそのサポートをしただけだよ?」
目の前で一つの命を奪い、今は助けたと言う。
「ふざけんな! こっちは誰の命も奪っちゃいねぇんだよ! それは手前勝手な理由だろうが!」
所詮、結果論であるとわかっていても、思わず言葉に力がこもってしまった。
「へぇ、君もそこまで言えるんだ。まぁ当たり前か。じゃあさ、真咲に訊いてみなよ。彼女だってたくさん、それはもう僕とは桁が違うほどに人間と悪魔を殺したよ? さも当たり前みたいにね。それでも『こっちは』なんて言える? たぶん今言った『こっち』には真咲のことも含まれていたと思うけど、誰も殺していなのは君だけだよ、翼。君の隣にいるのは非道な悪魔さ」
真咲の手が翼の肩にかかっていた。
「帰れ、さも……ないと今度は本気で殺……すわよ?」
切れ切れの呼吸で真咲が言う。
「真実でしょ? そんな相手でも協力できる? 翼」
翼は言葉に詰まった。
自分が迂闊だった。つい頭に来て言い返してしまったが、逆にこちらが丸め込まれてしまう。そして真咲との間に流れる嫌な空気。
桁が違う?
人間、悪魔かまわず?
それが、真実?
「ま、いいよ。翼、君がこちらに協力してくれるならね」
「なに?」
シェイドの口から出たのは意外な言葉だった。
つまり、本当の狙いは俺?
翼はそう思った。初めから、真咲を捕獲することではなく。
「いきなりって言っても無理か。今のままじゃ。そうだな……」
シェイドはしばらく顎に手を当て考えると、手を開いて突き出す。