第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・16
「へえ、ある程度は聞いているみたいだね。そう、その通りだよ。正確には目的の違いもあったけどね。所詮、真咲は堕天使……『元』天使。完全に悪魔の目的を理解したわけじゃない。組織の頭としてこれほど適さないやつはいないよ」
真咲が苦渋で満ちた顔でいた。どうやら嘘ではないらしい。
「ま、それで反乱さ。人間の間でもよくあることだろ? ストライキとか、日本じゃ、昔の下克上とかね。それと同じものだよ。ただし規模というレベルが違うけどね」
「それじゃ、お前がリーダーなのか?」
「いや、違うよ。僕だって幹部クラスになるのが精一杯。上はいるよ。僕たち悪魔の考えをわかってくれる『お方』がね」
無意識だろうが「悪魔」という部分に強さがあった気がした。
「それで真咲は自分を裏切った僕たちに復讐をしようってわけだよ。ここは本人から聞いていたかな?」
「そんなことはどうでもいいわ。それより、今回の黒幕は誰?」
真咲の言葉にシェイドは微笑した。
「さて、ね。言えることは、黒幕は僕たちの側じゃないよ」
「どういうこと?」
「……ああ、そうだ。君はまだ眠りから覚めたばかりだったね。十年も寝ていたなんて、それで僕が『執行官』になったのも知らないわけだ」
シェイドは合点がいったように頷く。
「なに?」
「『執行官』だよ『執行官』。離反したのさ」
「どういうことだ?」
翼が真意を量り兼ね、真咲に訊ねる。
「こいつは……また仲間を売ったのよ。『執行官』っていうのは聖警察と同等の力を持つ滅魔機関の一つの、簡単に言えば役職名よ」
「つまり、悪魔の敵?」
「それも簡単に言えばね」
真咲が説明している間にもシェイドは微笑を絶やさず、二人を見ていた。
「説明終わった?」
「ああ。納得したぜ」
「そう、ならこちらとしても仕事があるからね。《第一級魔埋葬機関第十七支部》から拘束又は逮捕状が出ている。おとなしく捕まってくれるとありがたいけど……」
「却下よ。前にも白河のを断ったことぐらい知ってるでしょ?」
シェイドは一瞬考えるような素振りを見せ、
「……ああ、白河。聖警察の。まったくあんな恥ずかしい名前の組織にいるなんてね。こっちとしては意外だったよ。所詮警察なんて弱小組織だからね」
「翼、下がってて」
「はいはい」
すでに人外の戦いには関われないと納得済みの翼はそそくさと物陰に隠れる。