第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・15
「今は、真咲って呼べばいいのかな?」
「ええ、構わないわ。それで、あなたはなんて呼ばれたい?」
「そうだね…………シェイドなんてどうかな」
何年もつき合った友人のような口調で二人は言葉を交わした。だが間に漂う雰囲気は親しい者同士のものではない。
「隣にいるのが翼君か。魔魂の所持者。初めまして、だよね」
いきなり話を振られて、翼は一瞬だじろいだ。
「……ああ。随分とちっこいんだな。『化け物』ってのは」
「外見に騙されちゃだめよ。問題は本体。その力なんだから、それに……こいつは私の言う『化け物』じゃないわ。まぁ、もともとあちら側だったけれど、もっと厄介よ」
真咲の声がいつも以上に緊張していることに翼は気づいた。
「あはは、随分と仲良くしてるんだね? 真咲」
言葉は真咲の台詞を遮るように出た。シェイドと名乗る少年の外見、口調は子供そのものだが、その金色の瞳から発せられる静かな殺気ともいうべきものは本物だった。
「それに……僕が斬った傷、再生したのかな?」
「何年前の話をしているのかしらね。それにあなたもあれだけの肉片からよく戻ったわね」
真咲がしれっと応えると、シェイドはいつだったか思い出すように首を傾げた。
――りりーん。りん……
鈴の音は涼しげに響く。
「ん……十年ぐらい前かな。よく考えたらだいぶ久しぶりだったんだね」
「そうね。それで? 言いたいことはそれだけ? 今回は前回よりも多くの肉片に変えてあげるわ」
あくまで冷たい口調で言い捨てる。
そして縦長に伸びた赤い瞳でシェイドを睨みつける。
真咲の横で翼は呆けたような顔で立っていた。シェイドは真咲の殺気のこもった視線を手で制すと、
「翼君は何も知らないみたいだけど?」
興味があるようにシェイドは語りかける。その自然な言動に翼は思わず頷いてしまう。小さく真咲が舌打ちするのが聞こえた。
「突然のことばかりだって顔してるよ。真咲ってけっこうノリで突き進むタイプだからね。苦労するでしょ? 着いて行けないっていうかさ……」
「……だから裏切ったのか?」
シェイドは翼の言葉に意外そうな表情を作った。