第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・14
屋上のドアは端がさびついてはいたが、重く軋む音がして開いた。
「どこもかしこも、ったくちゃんと整備しとけよな」
翼は愚痴りながらも外へ出た。
ぎち……ぎち……
貯水タンク。エアコンの室外機。何かわからないがフェンスで囲まれた機械。いくつものパイプ。
ぎち……ち……
「おい、真咲、何だか足元がおかしい気がするんだが?」
翼は先ほどから音を立てているのが自分の足だということに気がついた。
「そうね。できるだけ聞かない、見ないことをおすすめするわ」
「……?」
疑問符を浮かべる翼。
真咲は彼にお構いなしに進む。
地上から見上げた場所は屋上出入り口の反対側にあった。貯水タンクを回る形となったので最初、その姿がタンクの陰に隠れて見えなかった。
――りりーん。
鈴の鳴るような、涼しげな音が聞こえた。風が音をつれて真咲の髪を撫でる。
それはそこにいた。
そこはネオンがきらめく看板。
その裏。まるで白と黒。相反するもの、光と闇のような場所。
一人の少年がいた。
彼がいる位置はちょうど落下したネオンのあった場所だ。
真咲が絶句するのが雰囲気でわかった。
顔立ちはまだ幼く、歳は十代前半もいいとこで、十二、三ぐらいだろう。耳までかかる黒い髪。身長に不釣合いな黒いロングコートを着ている。全身黒ずくめ、その身で光るものは耳からイヤリングのように垂れる金色の鈴。そしてそれと同じ、金色の瞳。光のない金色の瞳。
「やあ、きみたちも来たのかい? 星がきれいなんだ」
少年がこちらを見ずに口を開いた。顔は空を見上げている。口から漏れる声はボーイソプラノのように高かった。透き通るように美しい声。
二人も空を見上げた。
空に星など見えない。見えるはずもない。
「おかしいね。空にはあんなに星があるのに……それを誰も見ようとしない……」
まるで独り言をつぶやくような口調。いや、本当に独り言として言っているのかもしれない。そして静かだが他人を納得させるような調子。
「やはり、ここに資格を持つものはいない」
そこまで言うと、翼たちの方を向き直った。
――りりーん。
耳についた鈴が鳴る。