第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・9
「さて、と。俺は帰るかな」
「何でよ。もう少しいてもいいんじゃない?」
真咲が翼を引き止めようとしたとき、教室のドアが強引に開かれた。
「お前ら! いつまで騒いでいるつもりだ!」
入って来たのはこの学校の教頭だ。入学式当時は髪が寂しい人だったが、今では十年少し髪が若返っているのではないのだろうか。無意味な努力だな、ずれるだろうし、と翼以下クラス全員はそう思っている。 神経質そうな顔つきで細いフレームの眼鏡をしている。
「教頭?」
クラス内でざわめきが起こる。
それもそのはずだ。いきなり、怒鳴られては誰でもそうなる。
「倉本。どういうことだ? 今日は文化祭の準備をするんじゃなかったのか?」
驚きの表情をする梓に教頭は訊く。
「あ、そういうことか……」
クラスの中で最初に現状を理解したのは翼だった。
「はは、これは……ですね」
言い訳を言い出すような切り出しで、梓は口を開いた。口はぱくぱくと魚のように動くだけだ。
「教頭! 大変なことになったんですよ」
と、声を上げたのは新明だ。
彼もこの状況を理解したらしい。
強引にも教頭と肩を組むと廊下に出た。やや演技が大げさなのはこの際目をつむろう。
「相変わらずむりやりだが、今のうちだな」
翼は教室のベランダへ通じるドアを開けた。そして我先に脱出する。
「あ、私も……」
横にいた真咲が続く。それに教室にいた生徒たちも。
最後は梓だった。