第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・5
「ねえねえ、今日は食堂行かない?」「昨日、テレビでさ――」「悪い、金ねえや
「え〜お弁当作って来ちゃった」「マジで? それって――」「あれあれ最近――」「まずい! 俺も金欠だ!」「ははははは―――」「――おしかったよなぁ〜」「今月パケ代がさぁ」「おっ、出た出た〜」
昼休み。雑談に紛れるようにして翼は真咲の席まで行った。
真咲は席につき食堂で販売されているやきそばパンを食べていた。翼はもう食事を済ませている。
「真咲、少し話がある」
「ん……そろそろ来るころかと思っていたところよ。少し、待って」
傍らにあったパックを掴むと中身の牛乳でパンを流し込んだ。
「……さて、なるべく人気がないところがいいんだけど?」
「それなら心当たりがある」
翼は足早に廊下へ出た。真咲もそれに続く。
「どこに行くの?」
「屋上だ。普段はカギがかかっていて誰も入れない」
屋上は翼たちのいる校舎にはなく、東館という別館にある。教室と同じ階に連絡通路があり、そこから行くことができる。屋上にはテニスコートが二つ引かれて体育の授業に使ったりもする。
「それで? カギがかかってるのにどうやって開けるの?」
真咲は屋上に出るための扉の前に立った。
「これがあるんだな」
ポケットから針がねやら鉄の針やらがついたキーホルダーを取り出した。
「そんなの持ち歩いてるの?」
「悪いか?」
「ヘンよ」
真咲が言い返すのとほぼ同時にカギが音をたてて開いた。たまにしか開けないのか扉は重く軋んだ。
「今日、五時間目に使われる予定はない。それにここは他よりも高いところだ。他から見られることはない」
「そんなことわざわざ声に出して確認することじゃないでしょ、誰に言ってんのよ」
二人はテニスコート脇にあるベンチに腰をかけた。
一年ほど前までは昼休み中にこの屋上を開放していたのだが、何かの事故で普段は閉鎖するようにしたのだと翼は聞いていた。
今日も快晴だった。梅雨の中休みは今日で最後らしく、週間天気予報では明日から一週間雨続きになるらしい。直射日光が厳しいがベンチは日除けの屋根がある分少しはましだった。
「話ってのは、何からすればいい? 昨日は全部話せなかったからね。……それとも私のこともっと知りたい?」
ふざけたような調子でそう言う真咲に翼は首を横に振った。
「連れないわね」