第二章「黄金の鈴・漆黒の鎌」・4
翼たちの暮らしている高等部第一寮から学園のある駅までは片道五分。
だいたいなんで学校の寮から電車通学やねん、と最初は突っ込んだものだが、今では帰りに遊べるし、と思うことにした。
さらに電車で一駅。特に話す話題もなく駅に着く。
《次は〜学宮学園前〜、学宮学年前〜》
「バスじゃねえんだからな」
「まったくだ」
そんな意味のない会話を校舎につくまで続けた。
「梓はどうした? って生徒会だったか」
翼は上履きをロッカーから出しながら独り言のようにつぶやいた。
「ん? そのこと言ったか?」
「いや……」
翼は何となく記憶を消すってのは昨日をまたやり直すってことなんだろう、と思った。もしくは消した分に新しいものを上書きするのか。
朝からデジャヴを見ている感じだ。
「翼っ! 何? あたしの話してた?」
「ん、まあそんなとこ」
「なによー、翼。はっきりしない」
梓は頬を膨らませ、翼を小突いた。その間にも翼は先に進む。
「それで? 用事ってのは何だったんだ?」
新明が梓に並びながら訊く。
「ああ、今日転校生が来るのよ。それでクラスをどこにするかなってやつ」
「翼の言った通りだな、おい」
「え? 翼、転校生のこと知ってるの?」
意外そうな表情で梓は翼を見上げた。梓は翼とちょうど頭一つ分違う。翼は頷いて受け流した。
「で、その転校生ってのは何組に来るんだ?」
新明の方は興味津々で話に食いつく。
「うちのクラスだよ」
驚いたのは新明だけだった。
教室に入ると隣の席は梓のものだった。こちらが声をかけないでいると彼女の方も大して気にしない様子だった。そういう性格なのだ。
少し経つと担任の荒崎が入って来た。一人でだ。廊下では真咲がスタンバってるのだろう。
「二回目ってのはしんどいな」
翼はため息を一つつくと、窓の外を眺めた。
気がつくとHRは終わっていた。
「翼も行こうよ。天城さんトコ」
「ん、ああ」
梓は乗り気で、翼の腕を引いた。
真咲は昨日――それがあるのは真咲と翼だけだが――と同じ質問攻めにあっていた。
その先頭はもちろん新明。集まるのはほぼクラス全員。
「ねえねえ、翼も連れて来たよ」
「お? 来たか。お前が最後だぞ」
どうやら全員自己紹介をしていたらしく、翼が最後ということだ。
「あ、っと」
強引に押し出され席を囲んでいる一番前に出される。
「天城真咲です。HRの時間も外向いてたんで一応私から自己紹介しときます」
ちょっと嫌味が入っている気がするのは俺だけだろうか、と思う翼。
「ああ、折笠翼だ。一応自己紹介しておく」
面倒くさそうに頭をかきながら言った。あくまで一応。
「なんだよ。一応って」
「ああ、何でもない」
と、ちょうどいいところで一時間目始業のチャイムが鳴った。