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漆黒の闇から  作者: 一宮 沙耶


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6話 殺人犯

1人は、私と同じIT開発部門の女性社員だった。

彼女は、1年かけて1億円の案件の受注に成功したと言い張っている。

でも、私が自分の成果だと上司に言って、手柄を横取りされたと言っているらしい。


周りに毎日のように私への文句を言い、殺してやるって話していたとのことだった。

私の黒歴史というか、どうもこの女性とは相性が悪く、いつも喧嘩ばかりしていた。


「ひどいじゃない。私が1年もかけて受注した案件を横取りするなんて。」

「何言っているの。あなた知らないから言ってあげるけど、この案件は、私がお客様の社長さんと飲みに行って、そこで約束した案件なのよ。私がクロージングしたんだから、私が受注したって言って何が悪のよ。」

「枕営業したってこと。汚い女ね。私が、担当者から部長にまで話しを通して、会社に貢献するって毎日のように提案して、どれだけ苦労したと思っているの。」


彼女は目が吊り上がり、とても冷静に会話できる状況ではない。

ただ、放置しておけば、私が悪者になってしまう。


「私は、寝たりなんてしていないわ。社長さんが悩んでいたから、他社の成功例とか説明して説得したのよ。私がいなければ、他社に流れていたんだから。あなたの努力と実力なんて、そんなもんよ。だいたい、下から積み上げなんて、今は、そんな時代じゃないのよ。」

「あなたは、いつも、そんなやり方なのね。私が提案していることを知っているんだから、私にアドバイスすればいいでしょう。そんなんだから、みんなから嫌われるのよ。」

「別に、嫌われていないし。実力がないからって、逆恨みしないでよ。まあ、実力がない人ほど、吠えるのよね。黙っていればいいのに。」

「本当に、腹立つ人ね。」

「くだらない人は黙っていればいいのよ。」


その後、彼女は私の髪をひっぱり、職場が騒然とするような喧嘩になってしまった。

男性達が喧嘩を抑え、その後、私達は、課長から30分も説教を受ける。

課長の配慮で、職場の外に、その事件のことが漏れることはなかった。


当時は、できない人を見ると無性に腹が立ち、叱りつけていた自分が恥ずかしい。

その時は、正論を言っているだけなのに、どうして恨まれるのかと相手のせいにしていた。

あなただけじゃ受注できなかったのに、それを私が横取りしたなんて、いいがかりだと。


今なら、こんなにこじれる前に、どこかで合意点を見出せたかもしれない。

でも、二人の間には大きな溝ができてしまい、未だに仲良くはできていない。


もう1人は、総務部の備品係の女性で、私が、事あるごと叱っていた人だった。


「あなたね。私、ホワイトボードのマーカー頼んでるのに、いつになったら来るのよ。もう2日も経っているのよ。どんだけ仕事できないんだか。給料泥棒さん、聞いてる?」

「あの、頼んだ会社に在庫がなくて、今、発注しているということだったんですけど。」


まるで自分はやるべきことはやっていると責任逃れをするような態度に腹がたった。


「理由なんてどうでもいいのよ。あなたが買いに行けばいいでしょう。そんなことも考えられないの。」

「社員が、直接、買いにはいけないルールなので。」


言葉尻を捉え、すぐに言い訳をする。こんな女性に給料を出すのはおかしい。

やり方は1つしかないと思い込んでるから仕事ができないのだと思う。

目的を達成するためには、手段はいくつもある。


それがわからないと、一生、使えない。

私はあなたのために教育してあげているのだから、授業料をもらいたいぐらい。


「そんなこと言っているんじゃないわよ。他にも手段があるでしょうっていうこと。別のマーカーとかはないのか検討したの? あなた、幼稚園児じゃないんだから、少しは頭を使いなさいよ。幼稚園児よりひどいわね。私たちは、お客様から日々、嫌味も言われて頑張っているのよ。そんな中で、あなたたちは、快適なオフィスでダラダラと席に座っているだけなんでしょ。少しぐらい、頑張ってみたらどうなの。」

「そんなことはないですが・・・。」

「本当に使えない人ね。そもそも、人間だってことがおこがましいの。死んじゃえば。その方が会社のためね。」


そんなことが何回も続く。当時は、こんな社員をみるだけで、怒りを抑えられなかった。

その後、その時のことが原因で、その女性社員はメンタルになって休んでいると聞いた。

当社では、メンタルになっても給料が出るから、本当に会社のお荷物だと不満が募る。

もしかしたら、仮病なのかもしれない。この世の中は、ずるい人が得するとも考えていた。


総務部の知り合いに聞いたら、この子が廊下で私をひどい形相で睨んでいたらしい。

会社に医者の診断書を持ってくるために出社した日に。

しかも、その日は、私がエスカレーターから落ちた日だった。


その子のカバンの中でナイフを見たという噂もある。

精神的に病んでいて、傷害に及んだのかもしれない。


今だったら分かる。正しいことなら、何でも言っていいわけではないことを。

人によっては心が弱く、少しでも否定される言葉を聞くと、心を病む人がいることを。

でも、だからと言って、私を骨折にまで追い込むのはやりすぎ。


ただ、あの子はそんな度胸ないと思う。

ビルの防犯カメラを見ても、確実な証拠が出てこなかった。


「結翔、心配かけてしまって、ごめんね。でも、私には結翔がいるから、怪我したけど、それだけで幸せなの。」

「僕も、同じ気持ちだよ。ところで、落ちたエスカレータの脇にある監視カメラには、琴葉が後ろから押されたように見えるらしいと聞いた。犯人は僕が突き止めるから、琴葉は、治療に専念していればいい。当面は、労災ということで治療費は会社負担になるらしいし。」

「結翔は、本当に頼りになるんだから。」


翌日、澪が再び、お見舞いに来る。


「琴葉、あの後、気になったの。なんか、カーテンの裏に何かが見えたような気がしたから。」

「怖いなあ。本当なの?」

「本当、今、あの壁の前に女性の霊がいる。」

「そんな・・・。」


長い髪の毛が逆立ち、両手を前に押し出して、今にも琴葉に襲い掛かろうとしている。

指からは強い邪気が出ていて、琴葉の首に巻き付けば、息ができなくなるに違いない。

その女性も、怒りに我を失い、ただ琴葉を殺すことだけに執念を燃やしている。


琴葉を殺しても、生き返るわけでもないのに、何をそんなに憤っているのかしら。

琴葉は気づいていないかもしれないけど、部屋は黒い闇に覆われ、天井から針が降り注ぐ。

私の気で琴葉を針から守っているけど、いつまで持つか分からない。


「その女性は、結翔のことが好きで、離れろと怒っているわ。だから、先日、エスカレーターで突き飛ばしたと言っている。」

「結翔は、私のもの。誰にも渡さない。」


私は、黙って壁を睨みつけ、大声を出す。


「もう、あなたはこの世にいないのよ。だから、結翔には、あなたは見えないし、あなたの声は聞こえないから相手にされることもない。」


この病室は暴風雨のようになって、物が飛び散る。

琴葉の体にも、置物とか、軽いものがあたる。

窓には手を出していないのは、外にはこのことを知らせないつもりかもしれない。


霊の女性は髪を振り乱し、口から切り裂くような甲高い叫びを部屋中に響き渡らせる。

どうして、こんなに醜い姿になってしまうの?

人間の業はここまで醜いものだと気づく。


そんな余裕もなく、このままでは私も吹き飛ばされてしまう。

でも、何も不安がないように虚勢を張るしかない。


「炎を出して私を睨んでも、悲鳴をあげても、意味はないわよ。私の霊気は強いの。あなたなんかに負けることはない。」


その時、結翔が病室に入ってきて琴葉を守ろうと抱きしめた。

その姿を見たからか、暴風雨はおさまり、さっきまでの騒然とした状況は静かになる。

琴葉が騙したのではなく、結翔の意思で琴葉を愛しているのだと気づいたのだと思う。


粉々となった花瓶が、さっきまでの悲惨な状態が嘘のように、床に静かに転がっている。

ただ、その女性の霊は、消える直前に何かをつぶやいた。


私は、そのことを琴葉に話すことをためらう。それが正しいかどうかも分らないから。

消える間際に人を邪推させるために偽りを言ったのかもしれない。

そんなことを琴葉に言って不安にさせる必要もない。


琴葉は怪我も完治して、結翔から紅葉の日光に行こうと誘われたと聞いた。

琴葉は、楽しみだと即答したらしい。

日光にある結翔のコテージからは、素晴らしい紅葉が見えるとも話していた。


琴葉が、結翔に笑顔で会話している姿が目に浮かぶ。


「今日は、結翔とこのコテージに来れて、すごく良かった。本当に、紅葉の真ん中にいるって感じで、誰にも邪魔されない、結翔と二人だけの世界ね。とっても幸せ。」

「僕も、琴葉と一緒にいれて幸せだよ。」

「嬉しいな。そろそろ、お昼に買ってきたお肉をお庭で焼いて、お酒を飲もうよ。」

「そうだね。」


お酒を飲んでベッドで寝ている時だった。苦しい。そして、重い。

真っ黒な大きな影が私に覆いかぶさって、首を絞めている。

助けてと声を出そうとしたけど、声を出せない。


首絞めてる人の顔をみると、そこにいたのは結翔だった。

どうして、結翔がこんなことをするのか分からない。

手で結翔を押したけど、びくともせず、気が遠くなってきた。


その時だった。澪と2人の警官がガラスを割って入ってきて、結翔を押さえつける。

結翔も抵抗したけど、プロの2人の警官には敵わない。

コテージ近辺には警察が何人もきて、結翔を連れて行った。


「澪、どうして、ここにいるの?」

「この前の女性の霊が言っていたの。」

「何て?」

「結翔は、ステキな人で、その女性には結翔しかいなかったと。でも、周りの女性たちが結翔に群がって、結翔を騙すんだとも。結翔は自分は一生、一緒にいるって約束していたから、そんな女性達は、結翔にとって迷惑で、そんな女性たちを殺して、山中に埋めていたと言っていた。」

「その女性が殺人犯だったということ?」

「いえ、その女性の霊が言うには、結翔が女性のクビを締め殺すときの女性の顔を見るのが好きで犯行を重ねていたと言うの。女性はいくらでも言い寄ってくるので、探す必要はなかったらしい。」

「なんか、話しが変わっていない?」

「霊って、時々、混乱して、話しが一貫しないことがあるの。よく分からなかったから、迷惑かと思ったけど、琴葉の後をつけて、警官にも来てもらっていた。」


警察は、澪が女性の霊から聞いたというコテージの裏を掘り返す。

そうすると5人の女性の遺体が出てくる。


霊のことは半信半疑だったけど、結翔が5人の女性を殺害したことを自供する。

手錠をかけられた結翔は、ニュースで取り上げられ、社内では大騒ぎになった。

社長は、即時、懲戒解雇で、個人の問題であり、会社は一切、関わりはないと発表する。


私は、自分を守ってくれる男性がいない寂しさと、将来が見えない不安の中にいた。

でも、結翔がいなくても、同期のみんなはいつものように励ましてくれる。ありがとう。


でも、これまで、周りの人に攻撃的に接してきたことは反省している。

いくら正しくても、相手のことを全て否定したら気分が悪いに違いない。

芽衣のように、まずは相手に同調することも必要かなと思い始めていた。


私は、人の気持ちは分かるし、人に優しいと思う。

誰にでも優しく接することができる、自慢できる自分にならないと。

そう思っていたら、ある日、私は、自分の部屋で違和感を感じた。


「私は、今、浮いている?」


そう、さっき、会社から帰ってきて、ドアに鍵を入れたんだけど、その後の記憶がない。

少しづつ記憶が戻ってきた。


ドアに鍵を入れた時だった、後ろに人の気配を感じる。

振り返ると、いきなりお腹に激痛が走り、その場で倒れ込んでしまう。

力を出して、人影の方を見ると、総務部の備品係の女性が震えている。

血がべったりついた包丁を手に持っていた。


「あなたは、この世の中にいない方がいいのよ。私は、あなたと出会ったことが、本当に不幸だった。これで、私の人生は幸せになるわ。」

「人を殺したら、幸せになれないでしょ。そんなことぐらい分かるでしょう。早く救急車呼んで。」

「あなたは死ななきゃいけないのよ。救急車を呼ぶぐらいなら、こんなことしない。早く死になさいよ。」


だんだん周りが見えなくなっていき、意識が遠のいていった。

そして、倒れ込んだ私の目の前には血の池が広がっていく。

私は死んでしまうの? いえ、もう死んでいるから宙に浮いているのだと思う。


目の前は暗闇に覆われていく。鉄の匂いがする血のうえに横たわる。

体を動かそうと思っても、とてつもない重いものが私の体に覆いかぶさる。

やっと、指が動かせるぐらい。


そして、寒さが体中を凍りつかせ、感覚が失われていく。

暗闇が私に覆いかぶさる。

何も見えない。寒い。もうだめなのかな。


隣人が警察に通報したみたい。

廊下に呆然と立ちつくす総務部の女性は警察に連行されていった。

私の心臓は止まり、その体は、ブルーシートをかけられ運ばれていく。


ただ、私は、部屋の中で浮いていた。

私には気づくことなく、多くの捜査員が私の部屋に入ってくるのが見える。


「そうだ、私、刺されたんだ。やめて、私の部屋に入らないで。どうして、気づいてくれないの?」


だんだん意識も薄れてきた。体も透明になり、私の体は消えていく。

同期のみんな、先にいなくなってしまって、ごめんね。あの世で待っているから。

怨念としてこの世に残り、浮遊することにならなかっただけでも良かったかもしれない。


同期の4人は琴葉のお葬式に出席していた。


「澪、琴葉がいなくなって寂しくなるね。」

「本当。いつも、私のことに気をかけてくれて、守ってくれていたのに。」

「琴葉が生きたはずの時間も私たちで充実して過ごしていこうよ。4人になってしまったけど、琴葉が羨むくらい幸せになろうね。」

「そうね。」


雨が涙のように降りしきるお寺の中から、読経の声が響き渡る。

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