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漆黒の闇から  作者: 一宮 沙耶


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4話 暴力

帰宅のため新宿駅のホームに降りた時だった。異様な雰囲気が漂っていることに気づく。

多くの霊が、どこかに引き寄せられていく。

どの霊も弱いようだけど、その数は半端ではない。その後を追った。

その先には、一人の女性がいる。並んでいる人達の先頭にいてふらついている。


こんな光景は、自殺する人がいる時に多い。

多くの邪悪なものが人にまとわりつき、人は正常な思考力を奪われる。

霊に取り憑かれると、絶望し、命を終わらせようと考えることが多い。


自殺するか否かは紙一重。

その女性の顔をみた時に衝撃が走る。あそこにいるのは芽衣だ。

その時、そのホームに電車が迫る。


「芽衣、危ない。」


私は、芽衣の手を掴み、ホームに引いた。

芽衣は、その場にお尻から倒れ込み、呆然としている。


「芽衣、しっかりしてよ。」

「澪・・・、私、どうしたの?」

「電車が来る線路に飛び込もうとしていたのよ。気づいていなかった?」


いきなり芽衣は泣き出してしまう。

それよりも、まずはここに集まっている霊を取り払わなければならない。

霊達は、自殺しなくてがっかりだと、つまらなそうな顔つきで私達を見ている。


もう少し力をかければ再度自殺する気になるかもと牙を向ける霊もいた。

その横の霊は、芽衣をホームの縁に押し出そうと風を吹きかける。

霊に取り憑かれたことがない人なら、それでも影響を受けてしまうかもしれない。

でも、いずれも霊力は弱そうで、私が睨んでいると、霊はそれぞれの方向に消えて行く。


「どうしたの。顔が真っ青よ。」

「あのね、安易に男性と一緒に寝て、妊娠しちゃって、今、堕してきたところなの。とんでもないことをしちゃった。子供にも申し訳ないし、この体も傷つけちゃった。」


芽衣はぼろぼろと泣いて、何を言っているのかはっきり聞き取れない。

でも、このままにはできないから、代々木にある芽衣の家まで送ることにした。

芽衣の家にあがり、芽衣の部屋でお酒も交えて話しを聞く。


自分から男性に近づいたこと、一泊の旅行をしたこと。

その男性には婚約者がいて、セフレとしてこれからも付き合おうと言われたこと。

妊娠して堕したこと、2時間も芽衣の話しは続いた。


「澪に話して、少し楽になった。私が、本当にバカだったのよ。」

「そうじゃない。誰でも幸せになりたいと思うもの。それが少しだけ、間違った方向に行ってしまっただけなのよ。」

「ありがとう。」

「芽衣も知っている通り、私も自殺しようとしたことがあるから分かるけど、自殺しようと考えている時は、霊に取り憑かれていて、正常な判断力が奪われているんだと思う。琴葉から聞いていると思うけど、私には、霊が見えるの。そして、芽衣は、あの時、大量の霊に取り囲まれていた。」

「そうだったんだ。でも、澪に気づいてもらえて助かった。もう忘れることにする。悔やんだからといって、元に戻せるわけじゃないし。」

「それがいい。芽衣は強いのね。今は、芽衣に何も取り憑いていないから、これからは大丈夫。」


芽衣の顔は、いつもの笑顔に戻っていたので、そろそろ帰ることにした。

芽衣は自分の気持ちを隠すのが得意だから、まだ不安もある。

琴葉にも内緒で伝えて、しばらく、二人で注意して見ていくことにする。


代々木の駅から、新宿に戻り、中野の家に向かう。

電車の中では、弱った心に霊が取り憑くのか、目の席に座る人達に幽霊が取り憑いている。

私は、できるだけ見ないように、出入口にいて窓から外を見ていた。


でも、霊は大声で叫び、つい目を向けてしまう。

気づいていたのかと、その霊は私も巻き込んでいく。

こういう時は無視をするしかない。


人間は、嫌なことがあっても、笑顔で隠せる。

でも、霊は、その不幸、憎しみ、悲しみがそのまま顔の形となる。

だから、その表情を見れば、その苦しみは分かる。


目の前の霊は、憎しみが満ちているだけでなく、血だらけだった。

どうして、こんなに不幸な霊で溢れているのかしら。

戦争とかないし、そんなに不幸な人ばかりではないように見える。


人間は欲望が尽きないから、誰でも、死ぬ時にやり残したことがあるのだと思う。

行方不明者でも、実は殺されていて、この世に未練がある霊が多いのかもしれない。

踏み台にされて悩み続けている人が多いのかもしれない。


そう言えば、最近、霊どうしでは、お互いに見えていないのではないかと思う。

あまりに人間への憎しみが深く、その人だけしか見えないのかもしれないけど。


ところで、霊が一つも付いていない人もいる。

本人自身も穏やかに生きているように見える。

でも、そんな人に限って、強い守護霊が背後にいて、守っている。


そういうご加護がないと、人は穏やかに生きていけない生き物なのかもしれない。

もともと、人を憎み、蹴落とし、攻撃する生き物のような気もする。


前に座っている女性に目を向けると、女性の霊がものすごい形相で睨んでる。

この女性が略奪愛をしたせいで、彼との関係を潰され、それを苦に自殺したと叫んでいる。

よく見ると、頭はパックリと割れ、乾ききっていない血がベッタリと張り付く。


右側の目玉は顔から垂れ下がり、紐のようなものでかろうじて繋がる。

飛び降り自殺でもしたのかもしれない。

座っている女性の頬を、尖った爪でかきむしる。

女性の肌が荒れているのは、この霊のせいなのだと思う。


座っている女性は、女性どうしで醜く争うドラマをスマホで楽しそうに見る。

もともと品性のない女性が、霊のせいで、より残虐な気持ちに陥れられている。

ちょっとしたことだけでは満足できずに、犯罪に手を染めるかもしれない。

心臓を手で強く掴んで潰そうとしているから、心臓病でこの女性は死ぬのかもしれない。


横にいる男性には、おじさんの霊が憑いてる。

銀行の審査でNGにした結果、倒産し、死んでしまったことを恨んでいると呟く。

火に包まれ、肌はケロイド状にただれている。


下半身は炭となっていて、足の半分はすすとなって床に崩れ落ちていく。

足がなくなっても、男性の霊は宙に浮く。

その最中にも、上半身も顔も炎に包まれ、どんどん炭となっていく。

顔が焼け爛れ、とても見ていられないぐらい悲惨な姿。


首吊り自殺をした時に、家に火を放ったのかもしれない。

いえ、座る男性が、自分と妻を自殺に偽装して、その後に焼き殺したと叫んでいる。

倒産した後、ストーカーのように男性に付きまとい、放火で殺されたと。


目の前で座る男性は、聞けば聞くほど、酷い人。

自分は何も苦労せずに机に座り、人が苦労した成果を、いとも簡単に踏みにじる。

それで高給をもらい、自分は支配する側だと人を見下す。

この世の中は、苦労する人が報われない仕組みになっている。


今度の旅行で、お前とその家族を炎に包み込んで殺すぞと、目からは怒りがほとばしる。

旅館で火事を起こすのかもしれない。他の人達も巻き込んでしまうことには気が回らない。

そんなことも知らずに、座る男性は、スマホでゲームにあけくれる。


助けるに値しないぐらいの低レベルの品格。

だから霊に取り憑かれるし、人を死に追いやり、醜い霊を作り出してしまう。


いずれも、今生きているこの女性と男性が悪いのだと思う。

霊が見える私には、周りで、恨み、憎しみ、憎悪等が渦巻き、地獄絵が広がる。

どうして、人間は死んでからも、こんなに醜い生き物なのかしら。

死んでしまった人は、憎さを忘れ、心穏やかに過ごす方がいい。


ただ、そんな正論でみんなが生きていけるわけじゃない。

そう言う私も、自殺までして、ずっと心を病んできた。人のことは言えない。

今は、席で目をつぶり、寝たふりをして、自宅に向かうだけ。


翌朝、多摩川の河川敷を散歩していた。

橙色に包まれた太陽が、多摩川の水面に映り、幻想的な雰囲気を醸し出す。

私は、久しぶりにカメラで風景を撮ることにした。


このカメラには.何回も助けられた。

お父さんが、寂しそうにしている私に、一人でもできる趣味として買ってくれたカメラ。

もしかしたら、カメラをきっかけにして友人ができればと思ったのかもしれない。


いずれにしても、当時、私は写真の魅力にはまっていった。

周りからいじめられ一人で孤独だった時に、雄大な自然美だけは私に微笑んでくれる。

陽の光が花や草木を透過し、氷面に反射する輝く姿を何牧も撮って、一人で感動する。


でも今日は、私の心が弱っていたのだと思う。

闇の世界から邪悪な者達が、再び私に襲いかかる。

写真に、それが映り込んだのを最初に気づいたのは、多摩川の写真を見た時だった。

今まで気づかなかったけど、写真に怒った男性の顔のようなものが写り込んでいる。


でも、直ぐに忘れてしまい、SNSに投稿したままにしていた。

そのうちに、足が腫れてきて痛みに耐えきれず、病院に行った。でも、原因が分からない。

これは、あの男性の霊力によるものだと直感した。


私は、その日から、その男性の霊に怯える日々が続く。

この霊は、単なる霊ではなく、実際に人間の体を攻撃する力を持っている。

そんな霊に取り憑かれれば、近いうちにこの世を去ることにもなりかねない。


その霊は、朝起きても、昼食時も、夜ベッドに入っても、私を憎み、怒鳴りつける。

病院の寝巻きのようなものを着た、同年齢の男性で、体は痩せ細っている。

河原の近くの病院で亡くなり、その地に縛られた霊なのかもしれない。


その写真をSNSから削除したところ、足の腫れはひいていき、その男性の姿も消えた。

そのことを忘れた頃、カフェでランチの写真を、そのカメラで撮る。

その写真をSNSにアップすると、また足が腫れていくことに気づいた。


まさかと思い、その写真を見ると、また、その男性の顔が映っている。

その顔は、以前よりも激怒する顔つきで、SNSから削除し、カメラのデータも初期化する。

でも今度は治らなくて、どんどん酷くなっていく。


私が振り向くと、いきなり、その男性が突進してきて、私を壁に押し付ける。

何に怒りを感じているのか分からないけど、もう自制心を失っている。

ただ、目の前に見えた私をあの世に引きずり込むことしか考えていない。


喉元に腕を押し付けられ、動けない。こんなに強い力は初めて。

私をあの世に引きづりこもうとし、息ができずに気が遠くなる寸前で朝を迎える。

このままでは、明日の朝を迎えられない。


どうすればいいかしら。これは写真ではなく、このカメラが原因だと気づいた。

多摩川の河川敷で、無念の死を遂げた男性がいたのかもしれない。

それをカメラが拾ってきて、カメラに住み着いたのだと思う。


このカメラには思い出もあるけど、手放すことにした。

ただ、壊すと手に負えない怒りを買う気がしたので、中古で買い取ってもらう。

今では製造されていない人気の大手製品なので、それなりのお金をもらえる。


これを次に買い取った人がどうなるかは、私は考えないことにした。

その日から、足の痛みはなくなる。


でも、私の周りには、邪悪な霊が増えていく。

何度も霊に取り憑かれる日々が続いた。

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