表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の闇から  作者: 一宮 沙耶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

2話 同期

子供の頃から、人には馴染めなかった。

それでも、先生は、恐怖の笑顔で、幼稚園では人の輪に入れと言う。

それが本当に嫌だった。人と話すたびに、相手は嫌な顔をして去って行ってしまう。


春に桜が咲き、夏にセミが鳴く。秋に紅葉となって葉が散り、雪が降る冬になる。

そういう、いつも変わらないものがあることは分かっている。

でも、そうじゃない世界もあってもいい。


私の理解者が誰もいない毎日が暗闇に包まれていく。

朝起きても、心を開いて話せる人がいない学校なんて行きたくない。

学校でも、家でも、ただ机にうつぶせになるだけ。


高校でも、大学でも同じで、学校が終わるとすぐ帰り、部屋に閉じこもる。

私に見える世界は、自分の部屋にあるベッドから見る天井だけだった。

そして、私の部屋には、ずっと私を見つめている存在がいる。

いつも、私を真っ暗で、凍りつく世界に引き込む存在が。


部屋の壁は、紫色のネバネバしたような液体が飛び散っているように見える。

寝ているうちに、死後に両生類のような形に変わった霊が、私の周りを徘徊したみたい。

それに加え、長い髪を前に垂らした、白いワンピース姿の霊も部屋にひっそりと佇む。


この女性に何があったのかしら。

そういえば3年前、この家の前で、自転車に乗った30代女性が車に跳ねられたと聞いた。

顔は髪の毛で見えないけど、30歳ぐらいのようにも見える。


ひどく落ち込んだ様子で、絶望したように肩を落としている。

子供を家に置いたまま、亡くなってしまったのかもしれない。

気づかなかったけど、頭からは勢いよく血が流れ出て、床に溜まっていく。

私の気持ちに波長が重なったのかしら。暗い日々が続く。


それは会社に入っても続く。環境が変わったのは、会社に出社しなくて良くなったこと。

これなら仕事を続けることができる。親が会社に頼み込んだのかもしれない。

それでも、生きている実感を感じられない日々は続いていた。

そんな生活を変えてくれたのが、同期の4人だった。


暗い私を、同期の女性4人が明るくしようと飲み会に誘ってくれる。

このグループを率先してリードするのが、琴葉と呼ばれている女性。

このグループでは、みんな下の名前で呼んでいる。


「澪、もっと、仲良くしようよ。」

「私のこと分からないなら、放っといて欲しい。」

「分からないから、澪と仲良くなって、もっと澪のことを知りたいのよ。」

「ごめんなさい。」

「私は、琴葉。澪とお酒を飲んで女子トークをしたいな。」


琴葉に加えて、芽衣、柚月、朱音という女性達も次々と私に話しかける。

こんなことが半年も続き、私も、この人達なら話せるという気になっていた。

しばらく4人を見てきて、少なくとも私に攻撃を加える人達ではないことは分った。


そんな4人に助けられて、私の心の病は直っていく。

この4人には、何でも受け入れてくれるという安心があるから、全てを話せる。

今日、渋谷の居酒屋に5人で来ていて、芽衣が変顔をするので、私は吹き出してしまう。


「澪は笑顔が一番だよね。今日は、どんな1日だった?」

「いつもと同じ。製薬会社のセキュリティレベルをクイックサーベイをして、そのレポートを出すだけ。」

「澪は優秀だから、羨ましいな。私なんて、朝から晩まで、嫌味しか言わないおじさん達に怒鳴られて、プログラムをひたすら作っているんだから。」

「大変ね。こんな会社は、転職しようなんて考えないの?」

「私は、仕事はお金のためだと割り切っていて、将来は、趣味の作家業で生計を立てたいと思っているの。今、SNSで小説を投稿しているのよ。」

「すごいね。その作品とか読みたいから、ペンネームを教えてよ。」

「まだ駆け出しで恥ずかしいから、秘密。大傑作ができたら、教える。」

「そうなんだ。じゃあ、待っている。」


私が悩んでいるときには、きちんとアドバイスをしてくれる。


「この前、ハッキングのテクニックで、何も知らないおじさんの先輩が、口を出してくるから、どうしようか悩んじゃった。そんなことをしたら、相手に自分のIDが伝わって危険なのに、そうしろと言うのよ。全く、ハッキングが分かっていない。でも、その場では、おじさんが怒鳴ったら怖いから、そうですねと、ただ下を向いていたの。それで良かったのかな?」

「澪、きちんと言った方がいいよ。何も言わないから、おじさん達がつけあがるのよ。澪は優秀で、おじさん達はレベルが低いって知らしめるべきなの。」

「朱音、そう考えるのはよく分かるけど、そんなこと言ったら雰囲気が悪くなるって澪は心配しているんでしょう。何がいいかしら。一旦はそうですねと言っておいて、その後に、調べたら、こんなこともあるんじゃないですかと言ってみるとか。」

「私は、芽衣より朱音に近いかな。はっきり言った方が、相手にきちんと通じるから。」

「みんな、私のために、喧嘩をしないで。もう、こんなこと相談しないから。」

「澪、私たちは喧嘩しているんじゃないのよ。相手の意見を聞いたうえで、しっかりと自分の意見を言う、これがとっても大切なことなの。これからも、こういう相談、いつでもして。私達は、ただ、思ったことを言うだけだから、気にしなくていいわよ。」

「琴葉、ありがとう。何となく、みんなが活き活きと過ごしている理由が分かった気がする。」


心が沈み、一人の殻に閉じこもっていたから、人との付き合い方が分からなかった。

そんな私に、この仲間達は、いろいろなことを教えてくれた。

全ての考えを実行できないとは思う。でも、その中で自分にでもできそうなことはある。


この仲間は、適当にごまかさずに、真摯に前に進んでいる。

その誠実な生き方が、私を揺り動かしたんだと思う。本当に信頼できる。


どうして、こんな私に声をかけたのか分からないけど、感謝している。

この4人と話す時は、自然の自分でいられる。本当に、ありがとう。

居酒屋で、笑いながら同期と話している自分がいるなんて想像もしたことがなかった。


みんな、本当にいい仲間たち。

私は、これからも、この人達と仲良くしていきたい。

特に、琴葉とは気が合って、よく二人で飲みに行っていた。


そんな時、琴葉と二人で飲んでいたとき、琴葉が驚くことを言い出す。


「澪、恥ずかしくて他の人には言えないんだけど、3ヶ月ぐらい前から、寝ていると、生理の時も含めて、毎日、何かが私を抱いてきて、胸とか、体が舐め尽くされたあと、私の体に男性の大事な所が入ってきて犯されるの。部屋に誰もいないし、いつも、私がいっちゃうまで止めないないから、毎晩、体はぐったりで、困っているの。でも、本当に秘密にしてね。特に、結翔には聞かれたくないから。」


結翔というのは、琴葉の彼氏。たしかに、そんなことは彼氏には聞かれたくないと思う。


「秘密のことは分かった。でも、生理の時もなの?」

「そうなのよ。そんな時はベッドとかも汚れちゃって、いつもより困っちゃう。」


恥ずかしそうにしているけど、本心から困っているみたい。


「これは霊の仕業だと思う。私ね、霊感があって、少しは助けることができるかも。」

「澪って、そっち系なの? 初めて聞いた。でも、それなら助けて欲しい。」


今まで、しゃべって楽になりたいという雰囲気から、お願いモードの顔になる。


「できるかは分からないけど、やれることはやってみる。こんなことでしか、琴葉達に恩返しできないから。」

「恩返しなんて考えなくていいよ。私達は友達でしょう。」

「そうは言っても、いつも感謝しているのよ。ところで、何かキッカケとかあったの?」

「よく分からないけど、3ヶ月前ぐらいに大阪に行って、幽霊経験をしたっていうか、なんか不思議な経験をしたけど、それから始まった気がする。」

「どんな経験?」

「夜、チェックインして、シャワー浴びて、そのあと、寝ていたら、頭の上の方からシャワーの声が聞こえてきたの。多分、横の部屋の浴室がベッドの横にあるのかなと思ったんだけど、なんか、音は明らかに自分の頭に接している、自分の部屋の浴室から聞こえてきて、不思議だなと思っていたわ。」

「それで。」

「翌日にチェックアウトする時に聞いてみたら、部屋の構造はみんな同じだということで、そうなると、横の部屋では、私のベッドの横にはTVとかあって、浴室とかはないのよね。でも、特に乱暴されるとか、何かが見えたとかじゃないのよ。だから、変だなぐらいに思っていただけで、別に気にしていなかった。」

「多分、原因はそれね。部屋から琴葉についてきてしまったんだと思う。でも、毎晩だと疲れるでしょう。今度、琴葉の部屋を見せて。」

「分かった。本当に助かる。お願い。」


翌日の土曜日の昼、琴葉の部屋に入ってみる。


「おじゃまします。え・・・。」

「どうしたの?」

「あまりに、ベタついた嫌な空気で、吐き気を感じる。」


琴葉は不安な表情を浮かべる。


壁は、黄色いネバネバしたような塊が一面に飛び散っている。

床も、歩くたびにベタベタと歩きにくい。

カエルとかサンショウウオとか大きな両生類が住み着いているみたい。


お昼で、外では爽やかな風が流れているはずなのに、部屋の空気は、重ささえ感じる。

目に見えない黒い蜘蛛の糸があたり中に張られているようにも見える。

歩くたびに、顔にべっとりとした何かがくっつく。


そして、ジメジメとした湿気が体にこびりつく。

掃除は行き届いていて、普通の人には、陽があたって爽やかな部屋に見えるのだと思う。

だけど、私には耐えられないぐらいの気持ち悪い部屋。こんな部屋は初めて。


琴葉には、この雰囲気は感じられないのかしら。

部屋はとてもきれいに整頓されているから、おそらく感じていないんだと思う。

だから、この邪気は霊によるものに違いない。


「何かいるわね。」


何かがいる気配はするけど、霊は話しかけてこない。

アクセスできずに時間がかかっていた。


「ごめん。なかなか話しができないので、ちょっと、ベッドで寝てくれない。」

「寝れるか分からないけど、じゃあベッドで横になってみる。」


琴葉がベッドで横になると、思ったより早く眠りに落ちていった。

そして、寝てから10分ぐらい経った頃から、琴葉が喘ぎ声を上げ始める。


Tシャツは着たままだけど、胸は上下に動かされてる。

琴葉の手は、ベッドに置かれたままだから、明らかに別の誰かから触られている。

ブラは外され、バストを直接手で揉まれている。


そのあと、足が上げられ、腰は上下に動いていた。

ショーツは脱がされ、明らかに何かが入って動き、琴葉のあそこから白い液体が飛び散る。

見ていて、グロテスクで吐きそうだった。


それに輪をかけて、1人で体が激しく動き、不思議な光景。

琴葉は、大きな声を出し、両手を上げながら体をのけぞって、急に脱力した。

その時、うっすらと男性の姿が見えてくる。


「あなた、琴葉が困っているの分かっているの?」

「困っているんだって。この子も楽しんでるじゃないか。見てただろう。女だって性欲はあるんだよ。それを満たしてあげているんだから、感謝してもらいたいぐらいだ。お前も俺が好きだったら、やってやるよ。」


エレガントな背広に包まれたその男性の肌は艶やかで、死んでいるようには見えない。

ただ、髪は左右にはっきり分け、大きなメガネをかけて、今時は見かけない外見といえる。

自分本位で、女性なら誰でも自分になびくと、人をバカにする視線を私に向ける。


長年、霊をみていると、こんな紳士な姿はすぐに崩れる。

紳士な人は、死んでも霊になんかにならない。

何か醜い心や憎悪、やり残したことがあって後悔しているとか、歪んだ人が多い。

この男性も、醜い本来の姿を隠し、なんとか紳士のふりをしているに違いない。


「私はやらない。また、琴葉については、あなたの一方的な思い込み。多くの女性は、好きな人としたいと思っていて、琴葉にとって、それは、あなたとじゃない。」

「お前こそ、勝手な思い込みをしているんじゃないよ。見てたろ。抵抗せずに、気持ちよさそうに、俺に抱かれていたじゃないか。」

「それは、寝ていて本人もよく分からないまま、あなたの霊力で、無理やり犯しているからでしょ。」

「2人の間の問題なんだから、他人が口を出してくるなよ。」


いきなり、顔から炎が吹き出し、私を睨みつけ、もう人とは思えない醜い姿になる。

さっきまで紳士だった男性が、いきなり、猛獣のように襲いかかる。

熱い。口から出る炎が私の顔にあたり、火傷しそうな感覚に襲われる。


部屋にいきなり暴風が吹き荒れる。立っているのも辛いぐらいの強い風。

カーテンは破れ、宙を舞う。もう、正気をなくしているのかもしれない。

女性を守るというさっきまでの仕草は、どこにも感じられない。


少しでも、気に食わないことがあると、品性のない本性がほとばしる。

このままだと、食器棚のガラスとかが投げつけられて、琴葉や私の身に危険が及ぶ。

まずは冷静にさせなければならない。


「もしかしたら、あなた、死んでると気づいていない?」

「死んでるって? お前、何いっているんだ?」

「やっぱり、気づいていないのね。あなたは、何歳、いつ生まれたの? 何しているの?。」

「俺は、30歳で昭和39年生まれ。神戸で商社マンをやっているんだ。すごいだろ。女はみんな、すごいすごいって、俺に集まって来るんだ。ある晩、俺が大阪のホテルに泊まっている時に、この女が俺の部屋に入ってきて、ベッドで俺を誘うから、気持ちよくさせてあげたんだ。こいつが一緒にいてと言うから、相手してあげているんで、他人が入ってくるなよ。」


仕事はできるのだと思う。そうなら、論理的に矛盾点をつくのがいい。


「そうなんだ。でも今は2025年だから、昭和39年生れだと、あなたは60歳過ぎになるけど、30歳って、矛盾してるね。」

「そんなことはないだろう。あれ、新聞には確かに2025年と書いてある。どうしてなんだ? そういえば、なんか、思い出してきた。そう、大阪で酔っ払って電車のホームから落ちたような。それで、助かった? いや、俺が手術台に載せられ、それを俺が上から見ていて不思議な感覚だったが、医者は助からなかったと言っていた。それから、気づいたら、ホテルの部屋にいたんだ。どういうことだ?」


男性の霊の体は揺れ始め、目線も定まらない。

強気の男性は、少しでも自信を失うと、もろくも壊れていく。

やはり芯が通った男性ではなく、生前も、ただ表面だけを飾った男性だったに違いない。


「そうなのよ。あなたの話しからすると、あなたはホームから落ちて、亡くなったんだわ。気づいたでしょう。琴葉は、あなたのことも知らないの。あなたを好きなこともないし、誰か分からない人に犯されることに毎日悩んでたわ。もう、そろそろ解放してあげて。」

「あれ、なんか事故のこと思い出したら、体が消えてきた。そうだったんだね。この子には迷惑をかけた。謝っていたと伝えておいてくれ。気づかせてくれて、あり・・・。」


消えた。これで、琴葉に今後、このようなことはないと思う。良かった。


「起きて。」

「あれ、寝ていた。やっぱり犯されていたでしょう。でも、なんか体が軽い気もする。」

「やっぱり、男の人が憑いていたわ。30年ぐらい前に亡くなった人だったけど、琴葉のことを恋人だと思っていて、他人が口を出すなとか言っていたわよ。ただ、本人は亡くなっていると気づいていなくて、気づいたら、琴葉に迷惑をかけたって謝っていたわ。これで、毎日、何もなく過ごせると思います。

「本当にありがとう。」


すっかり明るい表情になった琴葉の顔をみて、私も肩の荷が降りた気がした。

琴葉の部屋で、ワインも交えて女子トークがずっと続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ