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漆黒の闇から  作者: 一宮 沙耶


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1話 再起

蛍光灯が目に入り、眩しい。ここはどこだろう。

私はマンションの屋上から飛び降りたはず。


「先生、桜井さんが目を覚ましました。先生!」


同年齢の看護師が、あわてて大声をあげながら部屋を飛び出していく。

周りを見渡すと、ここは病室のように見える。

医師がかけつけ、私のバイタルをチェックする。


「桜井さん、意識はありますね。」

「ええ。たしか、私はマンションから飛び降りたはず。」

「そうです。何があったかは存じ上げませんが、そんなことをしてはダメでしょう。ただ、幸運にも、ちょうど、その時に、たくさんの古着のゴミを運ぶトラックが道路を通り過ぎ、その荷台に桜井さんは落ちました。それがクッションになって、奇跡的に、ほとんど傷がなく生きているということです。」

「そうなんですか。」

「もうすぐご両親も来ると連絡を受けていますが、もう自殺をしようなんて考えてはだめですよ。」

「でも、私なんかが生きていても、この世の中には全く役に立たないので。」

「そんなことはありません。どんな方でも、必ず誰かの役には立つ存在なのですから。今回、助かったのは、神様からのメッセージだと思います。」


神様が本当にいるのなら、もっと早く私を助けてくれていたはず。

だから、そんな言葉は心に響かない。

10分ぐらいすると両親も駆けつけ、私の姿を見て泣き崩れた。


「澪、ごめんね。そんなに悩んでいたことに気づけなくて。大丈夫、仕事を辞めたければ、それでもいいから、まずは自殺なんてしないで。」


大学を卒業してIT会社に就職していた記憶が頭に浮かぶ。

私は、適性検査で、組織人としては向かないという傾向が出ていたのだと思う。

入社直後の人事面談で、技術面では高いレベルだから専門職に進むのがいいと言われた。


大学時代ではハッキングを学び、警察でも、ホワイトハッカーのアルバイトをしていた。

その経験を買われて、この会社に入社できたのだと思う。

その仕事なら、会社の人と話さず、自分だけでできるから。


そんな私は、思っていたとおり、職場には馴染めなかった。

自分一人でできる仕事だと言っても、会社に出勤しなければならない。


一番、印象深いのは、新入社員歓迎会の時。

酔っ払った先輩のおじさん達の怒鳴り声しか記憶にない。

クダを巻いているおじさん達には3人の霊が憑いていた。


いずれも、顔は真っ青で正気がなく、ただひたすらおじさん達を絶望の顔つきで見下す。

一人は首に縄が巻きつき、そこから下は透けている。

息ができないのか、歪む口からは泡を出し、手で首をかきむしり、もがいている。

首を起点に左右に揺れ、その度に苦しそうな悲鳴をあげる。


横の男性は、手にカミソリで切った跡があり、おじさんの肩に手をかけ、血を降り注ぐ。

体は干からび、痩せ細って手足は骨だけになり、お腹だけが膨らむ。餓鬼のような姿。

指先の爪は、鋭く尖り、自分の胸を切り裂き、顔には後悔の表情が滲む。


最後の一人は女性で、ひどい咳をしていて、その度に、おじさんの顔に血を吐きつける。

髪の毛は乱れ、顔はシミだらけ。生前もメイクする時間もなかったのだと思う。

長い間、お風呂に入れなかったのか、とてつもない異臭を放つ。


その姿には、一向に気づかず、おじさん達の会話は続く。


「この頃の、若い奴ら、本当にやわだよな。用事があるから5時に失礼させてもらいたいだって。そんな用事、会社に関係ないじゃないか。俺たちの頃は、終電がなくなっても働いて、翌日は朝7時には会社に来て、新聞のスクラップとかしていたのによ。本当に、ワガママというか、クズだな。」


どの時代の話しをしているのかしら。


「毎日18時間働かせて、教育してたら、ある朝来ないので1人暮らしの部屋に行ってみたら首つって死んでるんだよ。俺のせいだとか言われて、本当に迷惑だ。まあ、早く死んで良かったんじゃねぇか。」


その人がどれだけ苦しんだのか全く理解していない。

あまりにエネルギッシュで、心が弱い人の気持ちは永遠に分からないと思う。

横のおじさんも、同調して、自分の部下の話しを続ける。


「本当にそうだよな。俺も、そんな理由で、サボってばかりの木村ってやつ、いびり倒したんだけど、会社に来れないので辞めるって。今でもメンタルで家を出れないって噂だ。その分、俺の仕事量が増えて賠償請求したいぐらいだ。」


取り憑いた霊の様子をみると、その男性も今は亡くなっているに違いない。


「そうそう、うちも、女性社員が口から血を吐いて倒れちゃって、なんか俺が悪いみたいに言われて、本当に迷惑なんだよ。その女が、のろまで仕事ができないから、できるまで帰るなと言ったら、自分の判断で毎日、深夜まで残業していただけじゃないか。仕事ができないなら、時間をかけるしかないだろう。おい、若者達、聞いているか?」


上司が、まあまあと言って、おじさん達が伸ばした手を払う。

その手が、女性の霊の体をすり抜ける。その女性社員も過労で死んだのだと思う。

上司は、すぐ退職するから余計な揉め事を起こさずに放置する方が楽だと、注意をしない。


私は、こんな会話を聞いていて、吐きそうになっていた。おじさん達こそ死んだ方がいい。

会社では、おじさん達は、自分のやり方が最高で、それしか方法はないと信じ切っている。

世の中は変わり、価値観も多様化してきたことに気づかない。


仕事のやり方、人との接し方、組織のあり方は、時代とともに大きく変わる。

それなのに、昔の価値観を押し付け、それについて行けない人は排除すべきだという。

だから、あまりの理不尽さに、こんな若者の霊が増えてしまう。


3人の霊は、気力をなくし、ただおじさん達の肩に垂れかかる。

ただ、どんなに弱い力でも、長時間、負担をかけ続ければ、体に影響がでる。

おじさん達は、2年後には健康を害し、心筋梗塞とかで、この世を去るのだと思う。


そんなおじさんの本音を見たこともあり、この会社に出勤するのは本当に嫌だった。

それに心を消耗し、私は自殺事件を起こす。

もう会社を辞めようと考えていた時、全世界で感染症が大流行した。


その対策として、日本全体が、自宅中心の業務となって平静心を保つことができた。

感染症が明けても、私は、全日、リモート勤務で過ごすことを希望する。


毎日、あるサイトに入り込めと言われ、そのレポートを出す。

セキュリティホールがないかクイックサーベイをすることは自宅でもできる。

私の能力はずば抜けていたから、リモート勤務の希望は受け入れられた。


こうやって、私の社会人としての人生はなんとか走り出した。

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