14話 刺殺
私は、仕事が終わらず、深夜、休憩のために廊下を歩いていた。
その時、背広に身を包み込んだ高野さんが、笑いながら通り過ぎる。
大勢の社員が自殺したのに、社長の息子の高野さんが、廊下を笑いながら歩く。
親の会社なのだから、少しは社員のことを心配すべきだと思う。
でも、高野さんは自分のことだけしか考えていない。
「お客様のトラブルも、朱音に責任を押し付けたから安泰だな。まさか、あいつが自殺するなんて思っていなかったけど、死人に口無しだ。しかも、労基署に訴える? なんてバカなことを言っているんだ。そんなことをすれば、会社の名誉は傷つくし、俺が社長になることもなくなってしまうだろう。あいつは、自分のことしか考えていないから、レベルが低いって言われるんだ。まずは会社のために行動しろって言うんだよ。まあ、最後は自殺して、責任をとったとは言えるな。まあ、あのバカができる最高の仕事だったのかもな。」
朱音を陥れたのは、やっぱりこの高野さんだったんだ。
この言葉を聞いて、朱音からは炎が燃え始め、口からは甲高い攻撃の声が叫ばれる。
霊が見える私にしか分からないけど、朱音の怒りは止まることを知らない。
その結果、大勢が亡くなり、次は高野さんに向かっている。
でも、高野さんは、自分は大丈夫だと過信している。
霊を見たことがない人は、霊の恐ろしさを知らない。
高野さんは、私にも気づかないのか、大声で不満をぶちまける。
社員達が、あんなメールを出して自殺しちゃうなんて、本当に迷惑だと。
そんな時、また、朱音の気配を感じる。
水の垂れる音が聞こえた。
水浸しの髪が顔に垂れ、顔がみえない朱音が、今、高野さんに近づいて行く。
そして、手を高野さんの肩にかける。高野さんには、気づいた様子は全くない。
怒りに任せて朱音が壁を叩く大きな音が廊下に響き渡る。
そして、朱音は、高野さんの前に立って、歩くのを遮り、また、耳元でささやき始めた。
「あなたが引き起こしたミスを、私に押し付けて責任逃れするなんて許せない。しかも、婚約者と子供を作り、楽しい生活を送っているなんて、あまりに不条理。あの世に、道連れにしてあげる。あなたは、父親と婚約者をナイフで殺して、その後に自分の目を刺して死になさい。」
その後、すぐに高野さんの顔からは表情が消えた。
横にいた同僚と、警備員に何か囁いて、自宅に帰っていく。
理由は分からないけど、高野さんの自宅の映像が頭に投影される。
朱音に見えているものが、親友の私と共鳴しているのかもしれない。
自宅では、お父様がお笑い番組で大笑いしながら、ウィスキーのグラスを傾けていた。
「おお、隆、帰ってきたか。なんか暗いじゃないか。仕事ができない社員達は、本当に迷惑だが、今日、大勢が自殺をして、リストラすることなく解決できそうだな。良かっただろう。まあ、そんなことは忘れて一緒に飲もう。ちょうど、面白いお笑いをやってるぞ。」
高野さんは、お父様の後ろから無言で近づいていく。そこに生気はない。
お父様は、高野さんの雰囲気とは真逆で、笑い声を部屋に響かせている。
そんな声にはそぐわない光を放つナイフをお父様の後ろから振り上げ、背中を切りつけた。
「なんで、そんなことを。」
それだけ言って、振り返ったお父様は、ソファーから崩れ落ちた。
もう気絶して、それ以上動くことができず、何も言えない。
出血多量で生き残れるようには見えない。
高野さんは、階段を登り、すでに同居を始めていた婚約者の部屋に向かう。
やや古くなった階段は、登るたびに、軋む音をあげる。
お風呂上がりで、肌の手入れをしていた婚約者に後ろから高野さんは近づく。
「遅かったのね、隆。そういえば、この前、あなたの会社で若い女性が自殺したでしょう。あなたは、あの会社では社長に上り詰める人なんだから、そんなバカな女性のせいで責任とかとらされないでね。まあ、そんなくだらないことは良くて、今夜もシャンパンで楽しみましょう。顔、暗いわよ。まあ、休んで。」
高野さんは、婚約者を抱きしめると、婚約者のお腹に、背中に隠していたナイフを刺した。
ナイフを切り上げた裂け目から、胎児が床に転げ落ちる。
そして、心臓に向けてナイフで切り上げた。
「あなた、なんでこんなことを・・・。」
婚約者は床に倒れ、血しぶきは壁一面に飛び散り、その後も、床は血で溢れる。
それを見た高野さんは、床にあふれた血を手ですくっていた。
まるで子供が雨上がりの道端で、どろんこの水たまりで遊ぶように。
大笑いをしながら、窓から見える月を見ている。
そして5分が経った頃、婚約者の血を頬に塗って、床におとしたナイフを手にとる。
そのナイフで、自分の目を突き刺して倒れた。
この囁きで亡くなった社員たちは、それぞれ2人ずつ、あの世に連れていった。
ある人は、車に轢かれ、ある人は家が火事になり、この世を去っていった。
気づくと、この2日間で、私のオフィスにいる人は、私以外、もう誰もこの世にはいない。
この勢いで、私の会社の人は次々と自殺していく。
1週間が経つ頃には、もう私以外の人は全て亡くなっていた。
もう、この流れは止まらない。
日本全体に広がっていくのかもしれない。




