㉚
「マルーはどうしたんだろう?
仲の良い友人でも見つけたのかな。」
風のように去っていく妹の後ろ姿を見ながら
クロードは不思議そうに言う。
セルジュはといえば
口元を緩め、くすくすと笑っている。
自分の顔を見るやいなや、
視線を逸らし、顔を下に向けた。
久しぶりに見るマルグレーテは、セルジュが想像していたよりずっと大人っぽく成長していた。
来ているドレスの効果もあってそう見えるのだろうが、
マルーはクロードと同じ童顔のため、
きれいというよりは、可愛いといった見た目をしている。
身長も同じ16歳の少女達に比べると少し低いぐらいだし、
誰とでも分け隔てなく笑顔で話す。
(………だから勘違いされる。)
小柄で可愛らしい少女が
自分に笑顔を見せながら話しかけてくれる。
勘違いする異性の友人も多くいたはずだ。
アカデミーにいる間ぐらいまでは、自由にさせてあげようと決めていた。
だから風の便りでマルーの近況を知っても、
セルジュは特に何もしなかった。
ただ、両親には伝えておいた。
ーーーーマルーと、婚約したい。と
「そういえばセルジュ!
父上と母上から聞いたけど、
おまえ、マルーに婚約を申し込むつもりなのか?」
そう言って友人であり、
想い人の兄が驚いた様子で聞いてくる。
「あぁ
ほんとうはマルーがアカデミーに入学する前に話をもっていきたかったんだけど……
まだ小さいマルーに婚約の話をしても
ピンと来ないんじゃないかと思って。」
それらしい言葉を並べて返事をする。
「………いつから、
そんなふうに考えてたんだ?」
怪訝そうにクロードがセルジュを見る。
たしかにマルーは友人である自分の妹だ、幼い頃から少なからず交流はあった。
でも異国を飛び回る生活のなか、たまに帰国した時に会う程度のものだった妹を、なぜ急に婚約者にしたいなどと言い出したのか。
……女性関係には困っていないはずた。
セルジュが幾人もの女性から言い寄られていることは知っている。
現にさっきも女性達に囲まれていた。
選ばれる側ではなく、選ぶ側にいる男だ。
それがなぜ、マルグレーテを選んだのか。
「いつから?
………んー、ずっと前からだよ。」
ずっと前?
ずっと前からマルーを婚約者にするつもりでいたのか?
「ずっと前って、いつ………。」
「だってマルー、可愛いからね。」
「可愛いって……
そりゃマルーは可愛いけど、
お前ならもっと他にいただろう?」
あれやこれやと問いただしたいクロードだが、
のらりくらりと、セルジュに交わされてしまう。
「心配するなよ、クロード。
正式に婚約者になれたら、
前よりずっと、マルーのことを大事にするから。」
「?!
なんだよ、いったい……
前よりずっと大事にするってどういう意味だ?
小さな時に数回会っただけなのに、
どうして今も昔もみたいな言い方………。」
「ほら、クロード。
国王のありがたいお話が始まるよ。」
そういうと、セルジュはもうクロードと会話を続けるつもりはないかのように、正面を向いた。
皆の前に出てきた国王が、アカデミーを卒業した者達に賛辞の言葉をおくりはじめる。
(………大丈夫だよ、クロード。)
マルーのことは大事にする。
ベタベタに甘やかして、骨抜きにして、
自分がいないと生きていけないようにするから。
あの大輪の薔薇は、俺だけの薔薇。
それならば、ちゃんと棘になって守ってあげる。
(もう二度と、離してやらない。)
セルジュは心の中の黒い感情を
少しずつ、解き放とうとしていた。




