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アンダーグラウンドへようこそ  作者: 遠野 文弓
第四章 転生(リーンカーネイト)

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77.サウィンの速報

 サウィンは真鍮の調整器を鞄に押し込んでから、ジェーン・ドゥを見た。

 彼女は何も尋ねなかった。鎖骨の下に刻印を焼かれた皮膚は、冷めてすっかり黒くなっている。


 行く場所の当てはあった。


 死霊術士(ネクロマンサー)エレゲイアの――バルドの師匠の葬儀が、本日執り行われるはずだった。


 バルドは必ず、そこを訪れるだろう。

 師匠の葬儀だからという理由だけではない。エレゲイアが死者蘇生(リザレクション)の第一人者であったからだ。蘇生の当事者であり、政治的な要人でもあるアルギロス卿は、自らを生かした功労者の葬儀に必ず顔を出す。



 大聖堂へ到着すると、すでに関係者だけの葬儀は終わり、一般向けに大聖堂が解放されていた。表は白百合の香りと人の声で満ちている。大聖堂の厚い石壁が、外の喧騒を遠いささやき声のように変えていた。

 

 サウィンは裏門から通り、回廊の陰にある回線へ手を伸ばした。受話器を上げ、ダイヤルを回す指先には、落としきれなかったインクの汚れがまだこびりついている。


 機械的な交換音の後、ノイズの向こうから聞き慣れた声が通った。


『――緊急回線まで使って、一体何の用だ、サウィン』


 サウィンは息を吸った。グレイヴスは回りくどい言葉を嫌う。彼の興味を引くために、もっとも強烈な言葉を選ぶ。


「グレイヴス。このままでは、バルドがアルギロス卿ごと()()()()()()をしてしまう」


『……なんだって?』


 案の定、グレイヴスは食いついた。サウィンはぽつぽつと続ける。


「バルドが死者蘇生(リザレクション)の術式にそう仕組んだ。あいつは自分自身を燃料にする形でアルギロス卿を復活させたんだ。バルドが死ねば、アルギロス卿を動かす燃料も断たれる。アルギロス卿を確実に道連れにするつもりだ」


 サウィンは受話器を握りしめた。


(僕は止められたはずなのに……)


 アルギロス卿の第三者照会を、通してしまった。痕跡が多すぎるという違和感はあったが、それでも痕跡は一致しているように見えた。


 だが、もっと疑うべきだったのだ。目撃した事実に対して、「不可解な点がある」と、結論を先送りにするべきだった。――バルドの仕事ぶりがそうであるように。


 そうすれば、こんな大事になることもなかった。早めに片を付ければ、被害はもっと小さく済んだ。こんな形になる前に、バルドをもっと早く()かせてやれた。彼自身が、それを望んでいたはずなのに。


 ――僕が、結論を急いだせいで。


 そもそもバルドがこんなことをやらなければよかったのに、なんてサウィンは思わなかった。すべてを他責にしてしまったら、自分にできることはもう何もない。サウィンにとって、それは職能の敗北だった。


 グレイヴスは沈黙したが、それも一瞬だった。低い声で問いかける。


『巻き込み自殺と言ったな。アルギロスが死ぬだけじゃすまないということだろう。バルド本体を叩いたらどうなる』


「術式は止まるが、被害が出る。――アルギロスの屍体が一瞬で汚染される」


 サウィンの声が尻すぼみになる。自信はなかった。だが、それでもきっぱりと言葉を繋いだ。


「バルドが死ねば、回路は強引に焼き切られる。そうやってアルギロス卿が屍体になった途端、これまで彼を動かしていた《燃料》が高濃度の汚染となってぶちまけられる。……卿の周囲は、更地になるだろう」


 受話器の向こうで、グレイヴスが短く息を吐く音が聞こえた。彼は倫理を問わない。ただ、数字を弾き出す。


『止め方の当てがあるのか』


「ある。ジェーン・ドゥを接続する。彼女は《出力なし》を止められる。……人の多い場所での暴走だけは、防げる」


 返事はすぐには来なかった。回線の向こうで紙をめくる音がする。曖昧さを嫌う人間が、権限と責任を天秤にかけ、最短の質問に組み替えている。


『……ジェーン・ドゥの権限はお前にあるな、サウィン。どれくらい持ちそうだ?』


「長時間は無理だ。彼女がパンクする前に、バルドの術式を再固定(リフィックス)して、供給を止めなければ」


『わかった。それで、何を手配すればいい』


『封印班の応援を要請する。ジェーン・ドゥがアルギロス卿を押さえた後に、バルドの術式の再構築を行ってもらいたい」


 しばしの沈黙。だが、グレイヴスの判断は速い。彼の声に迷いはなかった。


『封印班を回す。サウィン、アルギロス卿を先回りして押さえろ』


「……了解」


 サウィンがフックを押すと、受話器は重い金属音を立てて定位置に戻った。彼は隣に立つジェーンを見た。彼女の鎖骨の下の刻印は、まだ静かだ。


「来てくれ、ジェーン・ドゥ。バルドのところへ行こう」


「うん」


 ジェーンは短く頷いた。公開葬儀という舞台の裏側で、管理局はすでに二つに分かれて動き始めていた。

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