表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンダーグラウンドへようこそ  作者: 遠野 文弓
第三章 死者蘇生(リザレクション)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/72

60.魂の差し換え

 バルドは、淡々と整理するように言った。


「触媒化には本人の同意が要る。自主的だろうと差し押さえだろうと、献体である必要がある。必要なら、死者問答(ダイアログ)を同意に使うこともあるが、こいつらは《出力なし》だ。……全員、生前の同意があるのか。それとも、」


 声が、少し低くなる。


「屍体に問われたら困る、何かがあるのか」


 それは質問ではなかったが、シャガは少しだけ首を傾げて、口を開いた。


「同意ねえ……。言葉を聞かずに済ませたいんじゃないの?」


「それじゃ、同意とは言えないだろ」


「そうでもないよ」


 シャガは作業机の上に、細長いケースをおく。金具の擦れる音と共に蓋を開くと、中の道具が整然と並んでいるのが見えた。手袋を引き、指先を確かめる。


「抜け道はある。喋らせなくても、同意が()()()()()()にできる。……ま、トランスミューター側の理屈だけどさ。拒否するんなら術が弾かれるはず。通ったなら『同意した』ってこと」


 バルドが視線だけで促す。目は冷えたままだ。冗談か、本気か。どちらにせよ、聞き捨てならない。


「何を言ってる?」


「何て言えばいいかなぁ……」


 シャガは腰のケースから、指輪ほどの薄い金属輪を取り出した。内側に細い刻印がびっしり刻まれている。親指で輪をくるりと回し、刻印の向きを揃える。


「……『誰かを生き返らせたい』から、わざわざネクロマンサーが呼ばれた。ってことは、その人は、死んでから時間が経ってるんだろうね。少なくとも、一週間以上」


「一ヶ月だ」


 シャガは笑った。笑いというより、当たりを引いたというような反応だ。


「やっぱり」


 バルドは薄い嫌悪を混ぜて眉を寄せた。推理遊びに付き合っているつもりはない。


「はっきり言え。死んで日が浅かったら何だ?」


「一週間以内なら、変成術(トランスミュート)で充分だったってこと」


「なにが?」


「死んだ人間を蘇らせること」


 バルドは絶句した。薬で感情の波は浅いはずなのに、言葉が深く刺さってくる。

 シャガはぽつぽつと続ける。言い聞かせる調子ではない。手順を読み上げるような、仕事の一環で説明するような声色だった。


「〈転生(リーンカーネイト)〉。変成術の秘術だよ。死んだ対象の《魂》を、別の肉体に移すわけ。制約はきついけど」


 変成術(トランスミュート)

 器と中身を切り分けて、別のものに()()()()()専門領域。


 有機物から炭素を抜き出してダイヤに。骨の無機成分をシリカに差し換えてオパールに。

 それを、人間そのものにも当てはめられるというのか。


(人間の中身も同じだって言うのか。《魂》も、()()として扱えると?)


 バルドの表情が硬くなる。脳裏に、一瞬だけ〝彼女〟がよぎった。――自分の脳を持たないはずなのに、意識を保ち続けている存在。肉体を転々とし続けている異端の存在。


「……ばかばかしい。魂は証明されてない。脳が止まれば意識は終わる。残るのは痕跡だけだ」


「ネクロマンサーくんはそう言うだろうと思った。でもね、トランスミューターにとっては、()()の」


 シャガは口角を上げる。目はまったく笑っていなかった。説得する気は最初からない。


「同意があれば成功する。成功するなら魂が存在するって? 結果論だ」


「あたしたちは魂を()()()からそう呼ぶ。〈転生〉が通る条件を定義して、外したら失敗する。揃えたら通る。――再現性があるなら、単なる結果論じゃない」


「わかるのは、おまえらが成功事例を《魂》と呼んでるってことだけだ」


「それでも、理論体系に()()()。あんたたちのいう《魂》とは定義が違うってことでしょうねえ。魂はあらゆる《モノ》に宿る。それが変成術(トランスミュート)の教え」


「あらゆるモノに、ね。――屍体にも?」


「もちろん、屍体にも」


 バルドは二の句を告げなかった。

 点滴の管が、腕の動きに合わせてわずかに揺れた。


 バルドは再び、二体の屍体を見る。

 ダイヤモンド化されるには、同意が必要だ。しかし、この二体は、どちらも同意を問えない屍体であるはずだ。


 シャガは、「魂はある」と言う。


 ――じゃあ、どうしてこいつらは黙ったままなんだ。

 魂があると言うのならば、どうして?


 それなら、その首根っこを掴んで文句を言いたい奴はいくらでもいる。

 自分にAATを押し付けて死んだ両親。勝手に自分を守って屍体になった武装班もいた。妻子を残して事故死したあの屍体は今なお《出力なし》のままだ。そして、エレゲイア。

 なぜ。

 どうして、何も話してくれない?


 バルドは、その問いを口にはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ