召喚?されました
大好♪な 転移、年の差、年齢逆転物 書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
今、私はピンチ?です。人通りの少ない昼下がりの駅の裏通り、
高架下にあるトイレで
二人のド派手な少女に壁ドン状態、カッターで脅されている。(カッターの刃は出ていない…)
「アンタがユーヤと親しくしてんのは分かってんだよ。」
「街中で仲良く歩いてんの何回もみてるしぃ?」
(そりゃそうでしょ。勇也は私の二歳下の義弟だ。父さんの再婚相手の連れ子だ。
ちょっとチャラいとこは有るが、お互い一人っ子だったから仲良くしてる。色々とあって姓はちがうけど。)
「入学した時からあたしが目ぇ付けてんだから手ぇ出すんじゃないよ。」
「えっとですねえ、」と説明しようとしたところでトイレの床が光りだした。
ふわっとして目がくらむ。目眩がして床に座り込んだ。
ざわざわとした人の気配にゆっくりと目を開けた。
「へっ、ここどこ?」
「やったぁ~、これって異世界召喚ってやつじゃね?」
「ラッキー、チートとか魔法とか使えたりするんじゃね?」
(いやいや、この状況で手放しでは喜べないでしょう。)
周りを見渡してみる。
私たちは祭壇らしき所に座り込んでいる。
目の前には、煌びやかな衣装を纏ったキラキラ王子様っぽい青年?
その向かい側に、クッションに乗ったでっかい水晶玉を両手で掲げる神父っぽい出立のご老人。
両脇の椅子に座っている、見るからに身分の高そうな面々。その後ろに立つ鎧姿に帯剣した騎士団?
祭壇下には中世欧風貴族風衣装の人々。
やっぱり異世界っぽい?
皆さん一様に目を見開いて、中には口まで開いている人もいる。
「どういう事だ。」「い、いや私にもさっぱり・・・」
「あのー、神殿長…恐れながら…」
「なんだ?申してみよ。」
「す、水晶の色が違うのではないかと・・・」
「はあ?!こ、これはひょっとして勇者様召喚用・・・」
「いったいどうしたというのじゃ?」
「はっ、陛下…大変な間違いをしてしまいました。本来であれば王太子の成人の儀式で、祈りの言葉と共に掲げるのは薔薇水晶玉。何かの手違いで間違って勇者召喚の儀式用の紫水晶玉を使ってしまったのが原因ではないかと・・・。」
一応会話されている言葉は解る。ちょっとした安堵感。しかし間違えたって・・・
必要ないのに召喚された?三人も?この三人に勇者の資質ある?
あらためて周りの人々の視線が集まる。
「あのー、元の世界へ返して貰えま…「「ダメダメダメッ~~~」」」
私の発言に二人の声が被ってきた。
「申し訳ないが、帰るには魔王を倒していただかないと・・・」
「魔王、いるんですか!?」
「いや、300年前に勇者殿に倒され、今のこの世には存在しておらん。」
「「やったー!」」
「いやいやいや、私は帰りたいです。間違って召喚て、異世界に必要ないですよねぇ。」
「すまんが帰す手立ては無い。」
「困ります。こんな何も知らない、知り合いもいない世界に一人なんて。」
「友人と一緒ではないか。」
「「「全然違います!!!」」」
「とりあえず、落ち着いて話せる所はないですか。此処は人の目も多いし余計に混乱します。」
「ああ。ひとまず客間に案内しよう。」
就職試験を控え、真面目に黒髪、薄化粧の高校三年生の夏休み。
体験もかねて北海道の民宿でバイトしようと、空港に向かっていたところ、この二人組につかっまた。
足元にはキャリーケースが転がっている。それをずるずると引きずっていくと、
あちこちから怪訝な目を向けられた。案内された部屋は割と広く、
テーブルを囲んで三人掛けのソファーが四つ。
「暫く掛けてお待ちください」という事で
一つに私、もう一つに二人が座った。
~~~ ~~~ ~~~
「どうするのじゃ。三人も召喚しよって。こちらに責任がある上に、勇者様に準ずるかもしれん方々だぞ。ぞんざいには出来ん。」
「一人、二人なら兎も角・・・」
「書物によりますと、前代勇者様は金の髪に青い瞳と記載されております。桃髪に金目、金の髪に紫の目のお二人は勇者様の可能性が高いかと存じます。」
「そうじゃな。あのお二人は城に滞在いただくとして、ありふれた黒髪黒目の者は如何したものか。」
「丁度、シュナイダー辺境伯爵が上都しておられるのでは?彼の領地は奇しくも勇者様が魔王を討伐された土地。シュナイダー領で引き取って貰っては如何かな。」
「それは名案であるな。彼の地は辺境。王都から離れておるから簡単には戻ってこれまい。」
「帰らせろと色々煩くされても、たまりませんからな。」
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大きな扉が開き、神殿長と呼ばれていた老人、立派な髭に豪奢な衣装の壮年の男性、続けて重鎮らしき人々。最後に騎士が扉近くに控えた。
「重鎮たちとの話し合いで、そちらのお二方は城に。あなた様は勇者様の活躍の地を訪れ、勇者様のご功績を讃えた記念の碑に参拝して頂いたのち、しばしシュナイダー領にご滞在いただきたい。」
「私だけですか?」…まあ、あの二人と一緒ってのも不安しかないけど・・・
「ああ。勇者様が魔王討伐を果たした土地であれば、異世界に帰る手掛かりが見つかるやもしれんでのう。」
~~~ ~~~ ~~~
「はじめまして。わたくし、ヘンリー・シュナイダーと申します。この度あなた様とシュナイダー領迄ご一緒し、わが館にてご滞在いただきます。」
「ご丁寧にありがとうございます。私は凜香・篠山と申します。これからよろしくお願いします。」
「先ずはタウンハウスで一泊してから明日出発します。今回は12歳の愚息も同行しております。十日ほどの道中、煩いかもしれませんがよろしく頼みます。」
「賑やかになりそうで楽しみです。」
馬車で城門を抜けタウンハウスへ向かいます。
「はじめまして。キース・シュナイダーと申します。
これからよろしくお願いします。」
「ご丁寧にありがとう。リンカ・シノヤマです。
リンカと呼んでね。道中仲良くしましょ。」
「はい。」
~~~ ~~~ ~~~
リンカを最初に見た時は綺麗な男の人だと思った。髪は肩の下で綺麗にそろえて切ってある。年も僕の2,3歳くらい上にみえる。
背だって僕より頭一つ分も高くない。服装も変わっている。ひらひらのシャツにズボンをはいている。
17歳って聞いて驚いた。あと1年で成人じゃないか。
僕の14歳の姉と同じくらいに見える。
一緒に食事したけど、きれいに食べるのに時々変な顔をしていた。
馬車に乗って暫くしたら「これ、食べてみる?」と銀色の小さな四角い物を渡された。不思議に思って見ていると、「こうやって食べるの。嚙まないでなめててね。」と銀色のものをめくってミルクティー色の中身を口に入れた。
真似して口に入れたとたんに甘くて、コクの有る不思議な香りと味が口の中に広がった。
「キャラメルっていって、ミルクとお砂糖、バターでできてるの。ここにもあるのかしら?」
「初めて食べました。とってもおいしくて不思議な味です。」
「粘り気があるから噛むと歯にくっ付いちゃうからね。」
リンカとの旅は楽しかった。異世界から持ってきたオカリナなるものを取り出して音楽を奏でたり、聞いたことのない歌を歌ったり、休憩の時、棒で地面に書いた九つのマスに自分の印を並べるゲームしたり。そして異世界の話を聞いたり。
相変わらず食事していると時々変な顔をするけど、嫌いで食べられない物があるわけでもなさそうだ。
立ち寄った町のいろいろなお店で、お金の使い方や、町での生活を教えて歩く。
変な人に絡まれそうになると僕が前に出てリンカを庇う。
そうやってだんだん打ち解けていった。
気になるのは馬車に揺られている時、掌くらいの平たい板みたいな物をのぞき込んでは暗い顔をする事だ。
そんな時「だいじょうぶですか?」と声を掛けると
「ごめんね。ちょっとだけ良い?」って聞いてから僕の肩に額をのせる。
サラサラの髪が僕の肩に落ちる。
僕はそっとリンカの背中に手をまわす。
「ありがとう。義弟を思い出しちゃった。落ち着けたわ。」
そんな事が何回かあった・・・
でも領地が近くなってからは、板みたいな物を取り出す事もなくなった。
領地に入って先ず勇者様の石碑を見舞った。
石碑には勇者が倒した魔王から出てきたとされる魔石が嵌め込まれている。
リンカは長い間、手を合わせて黙禱していた。
きっと帰れるように祈っていたのだろう。僕は願いが叶うといいな、と思いながらなんとなく淋しく思った。
屋敷に帰ると姉さんが飛び出してきた。前から「兄か姉が欲しかった」って言ってたから、先ぶれがあって楽しみにしていたのだろう。3つ違いで丁度いい。
領地での生活が始まると、気が紛れるから、とよく厨房で手伝いをするようになった。市場に一緒に出掛け薬草や木の実を買って帰る。それを使って料理を作ると、今まで食べたこと無い味や香りがしてとても美味しくなる。
キャラメルも硬さ加減が難しいらしいが悪戦苦闘して作ってくれた。
リンカが「前から馬に乗ってみたかった。」というので、僕が乗馬を教えてあげた。
すぐに上手になって一緒に遠出もするようになった。
勉強も算術は得意らしく、変わった計算の仕方も教えてくれる。領地経営の勉強とか毎日が大変だけど、リンカが作った弁当をもって出かける休みが楽しみで頑張っている。
姉のアンリエッタともとても仲が良い。刺繍やダンスの時間は一緒に勉強している。
母上と三人でよくお茶会をしている。
最初に作った刺繍のハンカチを「あまりいい出来でないけど使ってちょうだいね。」と渡されたが、「宝物にするから」と言って引き出しの奥にしまってある。
僕の13歳の誕生日には簡単なものしか作れないけど、と言いながらも初めて目にするパウンドケーキという物を作ってくれた。そして色々な色の糸で編み込んだ、異世界の腕飾りをプレゼントしてくれた。
この頃には僕はリンカと同じくらいの背の高さになっていた。
お返しにリンカの誕生日に僕の瞳の色と同じダークブルーの魔石のペンダントを送った。
彼女が此処へ来て一年が経つ頃には、僕の家族にとってリンカのいない生活は考えられなくなっていた。
リンカも暗い顔をする事が無くなってきたと思っていた。
ある日、夕食が済んでダイニングでくつろぐ時間、ほかの家族は席を外していて、リンカと二人並んで紅茶を飲んでいた。
「キース、あのね、いつも私を元気にさせてくれてありがとう。
一人でこの世界に来てすぐの不安だった時に、いつもあなたが一緒にいてくれて本当に心強かったの。わたしより小さいのにとても紳士で優しくて頼りになって。
素敵なナイトだわ。あなたには感謝してもしきれない。
こんな私にできる事なら何時でも頼ってね。まだあまり力になれる事はないけど。」
「僕も家族もリンカが来てくれてとても嬉しかった。これまでも、これからもずっと一緒にいるよ。みんなリンカのいない生活は考えられないよ。」
「本当に家族同様に大切にしてくれてとしてありがとう。
これからもよろしくね。」
次の日、邸内を探したがリンカも父上も見当たらない。
「ヘンリー様は魔物の活性化の報告をうけて騎士団を率いて魔の森に向かわれました。
リンカ様は昼過ぎに厩舎でお見掛けしましたが・・・」
「まさか一人で遠出したのか?」
「そこまでは。”ちょっと出かけます”としか…行き先を聞いておりませんので」「僕も出かける」
「魔の森にはお近付にならないように。」
「リンカはおそらく記念碑に行ったんだ。僕も向かう。」
「お待ちください、危険です」「リンカを放ってはおけない」
厩舎から馬を出し飛び乗る。
昨日、”これからもよろしく”って言ったじゃないか。”頼ってほしい”って言ったじゃないか。”ずっと一緒にいる”って言ったのに・・・
本当は帰りたかったのか?というという思いで押し潰されそうになる。
次から次へと涙が出てくる。袖も顔も涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
石碑が見えてきた。やっぱりリンカが膝をついて黙禱してる。
その時、森の方が騒がしくなってきた。
魔物の声、蹄の音、飛び立つ鳥の羽音、騎士たちの怒号。音が彼女の方へ近づいていく。
「リンカ!」と叫びながら僕は馬の腹を蹴った。
体勢を低くより早く・・・森から魔物達が飛び出してきた。馬から飛び降り、真っ青になったリンカの前に立つ。「キース…」彼女が僕の名を呼ぶ。
間に合った。僕は必死で剣を振るう。遅れて森から騎士団も飛び出してきた。
ほっとした一瞬の隙をついて魔物の爪が振り下ろされる。
振り向きざまにリンカを庇った僕の脇腹を鋭い爪が深くえぐった。
唖然とするリンカを抱え込みながら僕は膝から崩れ落ちた。
僕の背中に手をまわしながらしゃがみ込んだ彼女が悲鳴をあげた。
「!!!いや~~~っ!!!」
その瞬間、彼女の周りから、ぶわっと、風と共に淡い光が噴きだした。
一瞬で魔物達が塵になっていく。血を流す騎士たちの傷が癒えていく。
僕は淡い光に包まれて遠のいていた意識が覚醒してきた。
そして見開いた彼女の瞳と目が合った。
その時突然、石碑の魔石が眩く輝いた。まぶしくて目を閉じる。
光が収まって目を開けた瞬間、僕は絶望した。
今日も石碑のある場所に僕は佇む。あれから二年の時が流れていった。
石碑の魔石はあの光が消えた後、ほとんど色が無くなってしまった。
彼女が最初に祈っていた時、確かに濃い紫色だった。今ではラベンダーより淡い。
きっと勇者が帰還する時もこの魔石が作用したのだろう。
彼女が召喚されたのは、きっと聖女の力を持っていたからだ。
魔物を倒したことで元の世界に転移してしまったに違いない。
あの時、けして「帰りたい」と祈っていたのでは無いと思いたい。
「15歳になったから、王都の学園に行ってくっるよ。暫く帰れないけど、何処にいても想っているよ。
できる事なら戻ってきてほしい・・・」
王都で三年間学園に通った。学園は貴族の交流の場だ。同性同士人脈を作ったり、伴侶を見つけたり。
俺は三年間図書室で勉強したり、騎士団へ出向いて訓練に参加したりで、学生とはほとんど交流を持たなかった。
時々令嬢から告白されたけど興味はなかった。
男友達も騎士団に一緒に行っていた数人だけだ。辺境伯なんてあまり王家以外との交流は必要ない。
噂に聞いたところではリンカと一緒に召喚された二人は、半年後には、頭は黒い皿を被せた様になり、目の色は片方だけが黒く不気味になったそうだ。また暫くすると髪も目も真っ黒になったらしい。
リンカは居なくなってしまったのに、何故あの二人は此処に残っているのだろう。
卒業後領地に戻り一年が経った頃、第三王子の成人の儀式に参加する為に領地から登城した。
父に代わり、参列させてほしいと頼み込んだ。
第二王子の時は成人していないからと許可してもらえなっかった。
どうしても諦めきれない。儀式で何か起こる事を期待して。
成人の儀式に参列し、壇上で神殿長が水晶を掲げて祈りを捧げるのに合わせ、彼女に貰った腕飾りを強く握り込みながら祈る。
「もう一度、リンカに会わせてほしい。彼女の笑顔が見たい。
彼女が望むなら一緒にいたい。」
力を入れすぎたのか、大事にしてきた腕飾りが切れて床に落ちた。
その時、水晶が淡く輝いた。周りが騒然とする。
俺はぱっと顔を上げ、あたりを見まわしたが他には何も変わったことは無く、落胆して拾った腕飾りを、彼女のくれたハンカチに包み込んで強く握りしめた。
参列を終え、重い足を引きずって領地へとむかった。
~~~ ~~~ ~~~
「神殿長、大変です。」「どうした?」
「宝物庫へ薔薇水晶を返しに行ったのですが…二つになってしまいました。」
「割ったのか!」「いえ、まるっと二つです。」「はぁ?]
「薔薇水晶が二個、紫水晶が見当たりません。」
「どういう事じゃ?」
「おそらく、王太子の時に使った紫水晶が何らかの原因で少しずつ色が抜け、今回薔薇水晶と間違えて使用してしまったのではないかと。並べてみれば明らかに色が違うのですが・・・」
「それであの光か…今回はなにも無かった様じゃから、良しとしよう。」・・・
~~~ ~~~ ~~~
キースに胸の内を打ち明けた翌日、私は日本での生活を思う気持ちに別れを告げる事を石碑に誓った。日本では本当に頼れる人はいない。物心つく前に母が亡くなり、再婚した父に引き取られる7歳まで祖父母の所で暮らした。義母も働いているから2つ下の義弟の世話が私の仕事。大きくなるにつれ、こなす家事は増えたが、元々少なかった家族の時間は減っていった。義弟も最近は都合の良い時だけ甘えてくる。義務だけで一緒に居る家族だったと、異世界での生活が気付かせてくれた。
キースが人に頼れる事の安心感を教えてくれた。
傍にいるだけで心が温かくなる事を教えてくれた。
跪いて思いを誓っていると森の方が騒がしくなってきた。
驚いて立ち上がるとキースが呼び声とともに駆けてきた・・・
私を庇ってひどい怪我を負ったキース。私の所為だ。血が溢れ出てくる。死んでしまう。そう思った時、体中が熱くなって無意識のうちに叫んでいた。
温かい光に包まれていた彼が目を開けた時、私の体が覚えの有る浮遊感に襲われた。
眩暈が収まると私は見覚えのあるトイレにいた。
暫く放心状態だった。キースはどうなったろう。
光が収まった後、傷は消えていた様に見えた。
服についた大量の血も消えていた。多分大丈夫。
そう自分に言い聞かせ立ち上がる。鏡に自分の姿を映す。
酷い顔色以外はおかしいところは無いだろう。
今日は騎乗するのにパンツスタイルだった。
財布も何もない。バス代を借りようと交番に駆け込んだ。
「あの、置き引きに会いまして・・・」
カレンダーで日付を確認・・・召喚された日!!!
「こちらに座って被害届を書いて下さい。」
渡された用紙にボールペンで記入しながら、それとなく日時を確認する。
間違いなく召喚された日、時間も同じくらい。
記入が終わり、それを確認する警官に「バス代をお借りしたいのですが。」
というと、もう一枚紙を渡される。
「電話もお借りしても?」弟に鍵がないからと連絡する。
とりあえず家に帰ってからこれからの事を考えよう。
家に帰ってから数日は何もする気力が無かった。
只々、恋しくて、寂しくて、悲しくて、空しくて・・・
その後重い体にムチ打ちスマホやキャッシュカード、証明書などの手続きに追われた。
バイトするはずだった夏休みは、ほとんど家でだらだら過ごした。
休みが明け、気を紛らわそうと就活や友達とのおしゃべりに明け暮れた。
寒さを感じる季節を迎え、ただ一つ、あの世界から持ってきたペンダントを握りしめ、深く澄んだ星空を見上げて涙を流す。
いつになったら忘れる事ができるだろう。
年末の慌ただしい今日、クリスマスイブ。
両親は仕事や年末の付き合い。義弟は友達とカラオケ。
いつも付き合ってくれた友達は彼氏ができた。
一人で街へ出て寂しさを紛らすためにやけ買いをすることにした。
どうせ家族とのプレゼントのやり取りはない。自分の欲しい物を買いまくろう。
ウインドウを覗きながら、あれはアンリエッタに似合いそうとか、シュナイダー夫妻はワインを喜ぶだろうかとか・・・
ジュエリーコナーでペアのネックレスに目が留まる。ちょっとお高いけど、
ええ~い、ままよっ!と衝動買い。
気が付くと、たくさんの荷物を抱えて、「バカな事をした・・・」と
昼下がりの広場のクリスマスツリーの前に立っていた。
突然胸元のペンダントが淡く光りだす。全身を強い光が包み込み三度目の浮遊感に襲われた。
「ピシッ」という音に、座り込んだその場所で目を開ける。
目の前の、見覚え有る石碑に嵌め込まれた魔石が音とともに砕け散った。
暫くして、戻って来れたんだ、と、じわじわと嬉しさがこみ上げてきた。
程なくして馬車が近づいて来て近くに停まる。見覚えのない青年が降りてきて、馬車の扉の方へ手を差し出す。
中から「ほら、女の感は凄いでしょ。」という声とともに、見知った面影が色濃い女性が降りてきた。
「ごきげんよう、リンカ。あなたちっとも変わってないわ。」
「アンリエッタ・・・だよね?」
「そうよ、私21歳になったわ。こちら婚約者のカール・シエロ伯爵令息」
「私…あのっ、キースは?」
「まあ、私の婚約者には興味なし?フフフ、一番の心配がキースって、本人が聞いたら大喜びね。」
「あっ…」
「まあいいわ。キースは無事よ。馬車の中で話しましょ。それにしてもすごく暑そうな衣装ね。それに大量の荷物・・・」
馬車の中で改めて顔を合わせると、熱いものが込み上げてきた。二人でそっと抱き合っているとお互い涙が出て止まらくなった。シエロ伯爵令息は、何も言わずに見守ってくれる優しい人だった。
落ち着いてからアンと色々話しをした。
私は、元の世界に転移した時、転移して来た時の時間に戻った事、あちらに戻ってから5ヶ月しか経ってない事などを話した。こちらでは6年がたったらしい。
キースは、今日行われた筈の第三王子成人の儀式に参加する為、数日前から上都している。2,3日で帰ってくるという事だ。
「早馬で知らせましょう。」シエロ伯爵令息が提案する。
「いいのよ。6年も待ったんですもの。2,3日くらいどうという事ないでしょ。その間リンカを独り占めできるわ。行き違いになる事も考えられるでしょ。」
シュナイダー邸に到着し、懐かしい人たちと再会を祝ってもらった。
そわそわと迎えた三日目、エントランスが慌ただしくなるとアンが私をリビングに押し込んだ。
「フフフ、出てきちゃダメよ。」嬉しそうに玄関へ消えて行った。
「お帰りなさい、キース。どうだった?」
「ああ、姉さん。暫く部屋で休むから…後で。」
「あなたに会ってみたいって、来てくださった方がいるの。
もう諦めて新しい出会いをしてみるのも良くなくて?」
「まだすぐにはそんな気持ちにはなれない。疲れたから断っておいて。」
「本当に遠くから来て下さったの。お断りするにしても、キース本人からお断りして頂戴。」
「はぁ~、今回はしょうがないけど、今後こういう強引な事はお断りだよ。」
「ええ。最後にすると誓うわ。リビングにいらっしゃるからお願いね。」
リビングに押し込められて暫くして ”トントン”と扉がノックされた。
「はい、どうぞ」と返事しながら立ち上がる。間を置かず「申し訳ないが…」
と言いながら、見紛う事なき青年が入ってきた。
「キース…」背が高く精悍になった姿に涙が止まらない。
気付いた時には強く抱きしめられていた。
「リンカ…俺と結婚して。もうどこにも行かないで。」
私の返事は決まってる。
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お礼の文が遅くなりましたが、評価、リアクションありがとうございました!
また、少しでも楽しんで頂ける作品が書けるよう、頑張りたいと思いました!




