翌日、午前。フォノン・ラボにて
(研究室に入る玲。昨日座っていた“あの椅子”が、うっすら光っている)
玲「お疲れ様です、教授」
湯川「おお、早いね。今日は一人か? ちょうど今、スペアナの電源を入れたところなんだ。すまんが——もう少し、待ってもらえるか」
(机の上は昨日までの測定機器の山が消え、すっかり片付いている)
湯川「おーい、水野くん。お茶、3つ頼めるかな?」
(静かに振り向いた玲の背後に、鬼のオーラが立つ)
水野「……教授」
(その声に、玲の肩がピクリと動く。一瞬で背後を、生死与奪権を取られたと硬直)
水野(眉間にシワを寄せ) 「私、“お茶くみ係”じゃないんですけど!? 教授のすぐ隣に冷蔵庫あるんですから、自分で取り出してください!!」
(冷蔵庫を無言で開け、ペットボトル入りのお茶を机の上に“バンッ!”)
玲(心の声) ……生死与奪権、握られたの、私じゃないっぽい……
湯川「あ…有難う…」
水野はそのまま背を向け、何か呪文を呟きながらズカズカと退出していった。
湯川「……このお茶、多分、水野の怒りが転写されてるよな…」
玲「教授…そのうち刺されますよ…」
湯川「いや、こんなもん計測したらビープ音だけで怒られそうだわ…」
玲「教授……」