夢記録(ドリームログ)
「玲、ごめんね」
「その——ノイズみたいに“見えちゃったり聞こえちゃったり”する力。あれ、もともとは、私の能力だったの」
母の響 翠は、どこか申し訳なさそうに玲に言った。
「……まあ、私も母から受け継いだんだけどね。遺伝っていうより、これは“継承”って感じなのかもしれない」
玲を授かって以降、自分から“あれ”が消えたことを、翠ははっきりと自覚していた。
「でもママ、玲は怖くないよ!話しかけても、みんな同じことを繰り返すだけで、悪いことなんて何も——」
「駄目!」
突然、翠の顔がこわばった。
「いい?玲。“何かしてあげよう”なんて考えちゃだめ」
「おばあちゃんにも言われたでしょ?動物の死体を見ても、可哀そうって思っちゃダメって」
「それはね——感情を、自分から相手に合わせにいく行為なの」
「この世界には、私たちじゃ手に負えないものもいる。だから余計に“見えてしまう”。聞こえてしまうの」
「お願いだから、気をつけて」
夢だった。
突然、目を覚ました玲は、布団の中でぽつりとつぶやいた。
「……なんでいきなり、この夢?」
夢の中であんなに怒っていた母の顔が、なぜかやけにリアルだった。
「……たまには帰って来いってことか」
「——うん。週末、久しぶりに帰ってみるか」