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硫黄島沖の戦い・前編

「敵イ群の殲滅を確認、入間の作戦機隊は全機無事に帰投中とのこと」

「よしッ」

「ふぅ、一先ずは我が方の有利が証明されましたね」


 大本営では初戦の勝利に安堵の声が漏れる。

 帝国上層部では楽観論が主流になっていたが、前線に立たされる兵士はそうでもなく、ベトナムや中国で格下だと侮り敗北した米軍を見ている世代の軍人などは実際に戦ってみるまで情報部の立てた相手の戦力評価を疑問視していた。

 その為、作戦部はなるべく少数部隊を各個撃破するよう位置情報の優位を活かした水際防衛、誘引戦術を立案したのだ。

 しかし、情報部の想定通りの技術アドバンテージがこちらに存在することが明らかになった。それは、油断を生むことにも繋がった。


「敵ハ群、侵攻方向変えました」

「どこに向かっている」

「このまま直進する場合ですと、硫黄島が目標と考えられます」

「であれば、我が海軍の役目ですな」


 大本営は海軍参謀部に敵ハ群の対応を一任。そして彼らは間もなく硫黄島に駐屯している第403航空隊(403空)に出撃を命じた。


「出撃命令! 出撃命令!」

「まさか俺らに出撃命令が出るなんてな」

「入間の空軍さんはどうだったんですか」

「ミサイルポチで終わったらしい」


 上層部の油断は現場にも伝わるものである。403空の隊員達は油断しきっていた。


「なんだあ楽勝じゃないっすか」

「何言ってんだバカ浜田、気ィ引き締めろ」

「いでッ、すみません隊長殿」


 この弛緩した空気に一番あてられていたのが403空の最年少である浜田少尉であった。隊長に活を入れられたものの、どうにも油断が抜けないまま彼は空へと飛び立つことになる。


「こちら403空、浜田機、離陸求む」

「硫黄島管制、離陸を許可します、ご武運を」

「ありがとう」


 32機の0式戦闘攻撃機が次々と舞い上がる。彼らはそれぞれ2本の空対空ミサイルと誘導爆弾を抱えて、夕日を背に東の空へと飛び立って行った。




——————————


「フアナ殿」

「どうしたの?」

「我々は、勝てるのでしょうか」

「不安なのかしら」

「ええ、少々不安にございます」


 同じく夕日を背に会話をする杖を持った少女と老人。彼らは魔法使いだ。それも、このセーネス艦隊随一の防御魔法の使い手である。


「魔法圧を受け止めるために組まれた戦略級防御魔法、これの魔法式を物理攻撃用に改組するのは骨が折れたわね」

「ええ、寿命が更に縮まりました」

「私達の編んだこの魔法は絶対よ、絶対に破られない」


 フアナと呼ばれた少女の目には強い確信が籠っていた。

 パルサリョール艦隊主席魔法使い、それが彼女の肩書であった。鉄壁のフアナという2つ名の通り戦略防御魔法の専門家である。


「もうすぐ夜でございます、そろそろお休みになられては」

「いや、敵襲は夜に来るものよ、そうそう休んでられないわ」

「ではいつお休みになるのです……」


 老人が呆れて座り込んだとき、少女の耳が揺れる。


「8時の方向、くる」


 少女が呟いた。その瞬間、艦隊は慌ただしくなる。魔力レーダーに反応が現れたからだ。


「ええっ!? フアナ殿、どうして分かったのじゃ」

「そんなことは後!」

「は、はい」

「敵は先遣隊に何の反撃もさせず壊滅させられるだけの力があるのよ!」


(まさかこんなに早く来るなんて)


 想定外の事態に内心焦りながらも、少女は力いっぱいに叫ぶ。


「術式展開準備!!!!!!」


 中央前方に位置する大型艦の甲板にぞろぞろと魔法使いたちが現れる。


「「「「術式展開準備!!」」」」


 甲板に表れた緑の魔法陣はみるみる拡大し、150隻もいる艦隊全てを飲み込んだ。


(これだけの戦略防御魔法、そう何度も発動できない。だからこそ今よ、ニポン軍、撃ってきなさい)


「術式、発動!!!!!!!!」


 フアナの号令で魔法陣は強く発光した後に、巨大なカプセルとなって艦隊全てを包み込んだ。

 直後、そのカプセルは大きく振動し、艦隊全体を押しつぶすかのごとく重たい轟音が響き渡る。


「間に、あった……」


 魔法陣の中心で杖を振っていた少女はそう呟くと同時、力が抜けたのかその場でフニャリと座り込むのであった。




——————————


 ミサイルと一口に言っても、使用用途や方法により様々な種類が存在する。

 初戦で先遣隊に対して発射されたのは全て、遠距離空対艦ミサイルと呼ばれる大変高価なものである。

 対して今回403空が装備していたのは短距離空対空ミサイルと呼ばれる比較的安価なものだ。

 安価な代わり、母機側で視界内に納めてロックオンしなければならないという欠点を持つ。


「ほーう、あれが敵艦隊か」


 夕日の方から侵入した彼らは、セーネス側に察知される前にいち早く視界に捉えることができていた。

 彼らの任務は空対空ミサイルで敵の航空艦艇を全滅させた後、誘導爆弾と機銃で出来うる限り残りの戦力も無力化させる事であった。


「全機管制に従い敵機捕捉せよ」

「「「「敵機捕捉」」」」


 高機能ヘッド(H)アップ(U)ディスプレイ(D)に表示される指示通りの標的を彼らは各々ロックオンする。そして、直ぐに引き金を引く時が来る。


「発射!!」


 全60発の空対空ミサイルが敵飛行艦艇に向けて真っ直ぐ白い尾を描きながら飛んでいく。それらはミサイルに対する防御策を持たない相手に何の問題もなく命中するはずだった。


「なんだこのオーロラは!」


 しかし、あのバリアが出現したのだ。実際にはカプセル状になっているのだが、目前にそれが出現すると、まるで巨大な美しいオーロラに見えた。

 しかし、その半透明の膜は全ての物体を通さない。発射されたミサイルは全て緑の膜に衝突し、爆砕した。


「はっ、見とれている場合ではないぞこれは。全機散開!!」


 全ての物体を通さないというのは勿論、戦闘機自体も例外ではない。隊長は直ぐにそれを察知し、隊の全機に散開を命じる。

 しかし、反応が間に合わなかった者もいた。


「浜田ァァァァァァ!!!!」


 緑の膜に衝突したのは32機中の5機。それらは全て衝突した瞬間に粉々になり、緑の膜の縁を滑り落ちるように落下していった。彼らは日セ戦争において最初で最後の日本側の戦死者となった。


「これだけの空対空ミサイルで破れないのは厄介だぞ……」


 隊長は緑の膜から距離を取りつつ管制に指示を仰ぐ。


「こちら403空。目標の撃破に失敗した。また、我が方の喪失5機。至急帰還の指示を仰ぎたい」

「こちら管制ハ02号。作戦失敗を認む。速やかに帰還せよ」


 こうして403空は任務を完遂できぬまま帰還の途についた。彼らは涙を流しながら、これが戦争なのだという現実を噛み締めていた。


 この時点でセーネス第3部隊の硫黄島までの距離、およそ600km。

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― 新着の感想 ―
あれ? 待ってください? 自衛隊ではなく大日本帝国軍なのですから、戦闘による軍の死者は、「殉職者」ではなく「戦死者」と呼称するのでは?
やはり硫黄島でしたか。 セーネス側に強力な防御魔法が有る。その可能性に気付かなかったのは、確かに日本側の油断です。 しかし今回防がれたのは、威力の弱い対空ミサイル。 より威力の大きい対艦ミサイルや誘…
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