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魔信

 この世界の通信技術である「魔信」は、3つの全く異なる技術の総称である。

 1つ目は昔ながらの魔法使い同士による通信魔法。遠距離で直接会話ができる魔法なのだが、消費魔力が距離に比例して膨大になること、他の魔法使いによる傍聴が可能であることから、使用されることは稀である。

 2つ目はこちらも昔から用いられている動物を媒介にした通信魔法。鳥類や猫、まれに爬虫類などといった使い魔に魔力情報を乗せ、届けてもらう魔法である。こちらは使い魔が辿り着ける限り距離に制限はなく、情報も暗号化できるため基本的にはこちらが用いられてきた。

 3つ目は、連合王国の魔導革命により誕生した発明の1つ、魔導通信。これは上記2つとは異なり魔法使いでなくても扱うことのできる「魔導」である。魔導とは機械を用いて擬似的に魔法を発現させる技術だ。魔鉱を細く伸ばしたケーブルを使えば新地球の反対にある大陸とも通信が可能だが、無線の出力ではまだまだ魔法には敵わないという欠点も抱えている。




——————————


「海上異常なーし」

「異常なーし」

「上空異常なー……なんだあッ」


 日本による水際作戦が実行された頃に近海を運悪く航行していたセーネス海軍艦艇は13隻、その内7隻が海軍旗を確認されたことで撃沈対象となった。

 乗船していた魔法使いたちは、何が起きたかを理解する前にはミサイル攻撃によって海の藻屑となってしまい、情報を発信することは叶わなかった。

 軍艦に搭載されていた魔信機の方は破壊されるとその旨を発信する様に設計されており、無事に破壊情報を伝えられたのが11機中の6機。これを少し離れた海軍艦艇や民間船がキャッチしたことで、攻撃されている事実のみが本国に伝わった。


 侵攻作戦の計画立案にあたりセーネス海軍上層部は日本側の戦力研究を始める訳だが、彼らはどの様な攻撃を受けたのか掴むことができず、情報不足の中で常識の範囲内から推測する他なかった。


 魔導砲や魔法使いによる遠距離詠唱攻撃、航空艦船が存在しないことは事前に伝わっていた。

 また、鋼鉄の巨大艦船や飛行機械といったものを多数保有していることが海鳥の使い魔による偵察活動によって明らかにされていた。


 魔法魔導による遠距離での砲戦が海戦の主流となったこの世界では、重装甲よりも機動力が優先され、中央世界の戦闘艦は航空艦、海上艦問わず、大型艦であったとしても5人級魔法を防げる程度の軽装甲が設計の基本となっている。


 これらの情報から、海空共に大質量による衝角突撃で艦艇もろとも魔法使いを無力化したという説が有力となった。

 であれば、相手の鋼鉄装甲を魔導砲で遠距離から貫通、無力化できれば海戦には勝利できる。800隻もの艦隊であれば多少の犠牲はあれど日本を制圧できると上層部の誰もが確信することになる。


「国王陛下、ニポン討伐艦隊、出港いたします!」

「うむ。アトゥス教の教義に基づき、野蛮な劣等種に魔法の素晴らしさを叩き込んでくるのだ」

「承知!!!!」


 こうして、この世界でもまれに見る大艦隊が日本に向けて出港した。




——————————


「奴ら、艦隊を4つに分けました」


 日本側は偵察衛星と高高度偵察機を用いてセーネス艦隊の動向を全て把握していた。既に迎撃とその後のセーネス侵攻に向けて軍隊の編成も済んでいる。


 空母2隻を主軸とする連合艦隊が敵艦隊の迎撃に動いており、強襲揚陸艦4隻を中心とした陸軍部隊はセーネス本土上陸を今か今かと待ちわびていた。


 セーネス艦隊が出港してから14日が経過し、遂に最初の敵部隊が日本の第2警戒域へと侵入した。これを受けて日本側も行動を開始する。


「威力偵察のつもりでしょうが、1隻も生かして返すつもりはありませんよ、状況開始」


 大本営空軍参謀の一声により、日本空軍0式戦闘攻撃機32機が入間基地から飛び立った。

 彼らはセーネス艦隊に迫り、視界に入る前にミサイルを発射、即座に帰投した。


「状況終了」


 飛行隊隊長の放ったその一言には、憐れみがこもっていた。

 彼らが放ったミサイルは全て事前に上空で展開していた99式早期警戒管制機の管制下にあり、何の問題も無く全弾が敵艦に命中した。それは戦闘と呼べるものではなく、一方的な蹂躙であった。




——————————


『敵は遠距離武器を持っている』

『空飛ぶ槍が大量に飛んできて、全ての船が同時に爆散した』


 セーネス艦隊先遣隊50隻は成すすべもなく消失したが、これだけいると全ての人員が即死することはなかった。運良く生き延びた魔法使いも数人ほどおり、彼らは今見た光景をありのままに本隊へと報告した。


「奴らが魔法を使えないというのは嘘だったのか」

「遠距離武器の保有は想定されていた」

「しかし先遣隊が早々に全滅とは」


 先遣隊全滅というショッキングな結果を冷静に受け止めていたのはセーネス艦隊第3部隊の司令部であった。


「我が方には防御魔法の専門家がいる」

「防御魔法の専門家というと……うちのパルサリョール第2戦隊ですか」

「そうだ、第1部隊と第2部隊は慎重を期すため再合流するだろう。であれば、我々第3部隊は彼らの成功のため、陽動を試みる必要がある」

「敵の遠距離攻撃を耐えつつ南方地点のどこかに上陸するということですね」

「その通りだ」


 彼らは何の目標も定めずに侵攻部隊を送り出したわけではない。海鳥の使い魔を利用することである程度詳細に地形情報の収集が行われていた。

 第2部隊は北方、第3部隊は南方、そして本命の第1部隊は首都と思われる地域への3方面同時強襲が当初の目標であった。しかし、先遣隊の全滅によって作戦は練り直さざるを得なくなった。


 陽動による敵戦力の誘引を戦略目標に定めた第3部隊。彼らが新たな目標とした島は、大日本帝国屈指の要塞島であった。

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― 新着の感想 ―
セーネス王国、未だ自分たちの愚かさに気付いていませんね。自分たちの動きが日本に筒抜けになっていることにも、気付いていない。 それに、大日本帝国屈指の要塞島? どこかは想像がつきます。しかしセーネス王国…
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