中央世界の反応
中央世界諸国の内、大日本帝国に対して最も友好的な態度をとったのは「ダウナー連合王国」であったのに対し、敵対的姿勢を隠さなかったのが「セーネス王国」だ。
どちらも大日本帝国が浮かぶ大西洋に面する国家であり、南方世界や新世界に対して植民地を広げる国家である。その為、大西洋における交易船の数も他国に比べて格段に多く、大日本帝国に関する情報はこの2国がずば抜けて把握していた。
「ニポンの艦隊がギーナに表れただと?」
「はい、奴隷1匹を購入して港を離れたとのことです」
「魔力を持たぬ劣等種の分際で小癪な……」
最近、セーネス国王アン6世は日本という未知の国に執心であった。なぜなら、既にその国の領土に近寄った商船・軍艦が3隻撃沈される事態となっており、その出来事は王権に泥を塗られたと同義だと考えていたからである。
因みに、その3隻はいずれも海軍保安局に対して先制攻撃を行っており、日本側は正当防衛という認識であった。
「アトゥス帝国の混乱はどうだ」
「皇帝は正教権威の維持に躍起になっており、未だ新教の弾圧を続けておりますが、新教勢力は増えつつある一方です。いずれは大きな内戦になるかと」
「では、そのタイミングだ。その時、ニポンは崩壊するだろう」
アン6世は大日本帝国への進行を企てていた。中央世界においてセーネスと競争関係になる国はいくつか存在するが、そのどれもが現在何かしらの内部不安を抱えていた。完全な中央集権社会を構築し、宗教分裂騒動も早期に抑え込むことに成功したセーネスにとって、今が勢力拡大の好機であったのだ。
「ニポンのからくり技術は中央世界にもない素晴らしいものらしい。しかし、魔法魔導が扱えないようではそれは獣が金を持っているに過ぎない。その技術、我が国の糧にしてくれようぞ」
こうして、セーネスでは日本侵攻艦隊の編成が王権の下で行われることとなる。
この世界では魔導通信によるスパイ合戦が積極的に行われており、大日本帝国が連合王国と接触したことはセーネス側も把握していた。よって、連合王国内のアトゥス教徒(セーネス人や帝国人をはじめとした人間の文化を尊重する宗教コミュニティ)を用いて同盟締結という最悪が無いようロビー活動を展開することになる。
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「ほう、セーネスが日本侵攻とな」
「はい、確かなようです」
連合王国内にセーネスのスパイがいるように、セーネス王権下にも連合王国のスパイは多数存在している。艦隊の編成という大規模な動きが漏れないはずもなく、すぐに連合王国側にもその情報は伝えられていた。
セーネスと連合王国、そして、今はあまり登場していないアトゥス帝国の3ヶ国は常に三つ巴であり、幾度となく戦争が繰り返されてきた歴史がある。しかし、通信とスパイ網の発達により、植民地での戦争は何度もあれど本国同士の戦争はここ200年程行われていなかった。
「静観が安全な選択肢ではありますな。我が国はまだ日本軍の力を信用することができない」
「大層に喧伝される機械文明の軍事力は果たして我々の魔法魔導に対抗してくるのだろうか」
「しかし、もし彼らが我らを圧倒するようであれば、世界のバランスはひっくり返る」
「パルサリョールを呑み込んだことでセーネスの海軍力はもはや我らと互角。いや、新世界の独立戦争で失った分を考えれば劣勢になりつつある。もし日本の力が強大であれば、ここで協力することが後の優位に繋がる」
「しかし、もし参戦でもして負けてしまえば、セーネスの力を更に増長させることになってしまう」
連合王国の政権内では何度も議論が重ねられた。日本に期待する声は大きかったが、反対に疑問視する声も少なくなかった。
これまで世界最強であった連合王国だが、近年はセーネスの工作によって新世界の植民地に独立されてしまったばかりであった。また、かの国は過去に最強を誇ったパルサリョールの艦隊を国ごと継承しており、海軍力は実際のところ互角である。陸軍には数倍の差をつけられている。
よって、参戦に対しては慎重な者が多数派であった。
こうして、連合王国は日本への支援を内部的に否決。今後の対セーネス関係も鑑みて情報提供も一切行われないこととなった。
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セーネスによる侵攻計画が日本側に初めて伝わったのは、意外にも西方派遣艦隊からであった。そこにあるのは中央世界人から「新世界」と呼ばれる地域であり、日本と接触したのは元連合王国植民地のカンブル連邦である。
彼らはセーネスの助けによって連合王国から独立したものの、国土の西には広大なセーネス領カランビナ植民地が広がっており、いつ侵攻されるかというリスクに直面していた。そのため、連合王国と同様にセーネス領にスパイ網を張り巡らせていたのだ。結果、新世界セーネス軍にも動きがあることを察知していた。
「遂に侵攻か……!?」
「いや、標的は俺らじゃない。ニポンという国らしい」
「ニポン?」
カンブル連邦の人々はまだ日本の存在を知らず、困惑していた。独立したての彼らはまだ自前の商船団や海軍を持たず、中央世界に貿易を依存していたからである。
そんな中、日本の西方派遣艦隊はまだ新世界に残る連合王国領ニウドルイドから南下を続け、カンブル人の前にも姿を現した。
「はえー、これがニポン人の船ですか。何というか……桁違いに大きいですね……。まさか飛べるんですか?」
「日本人です。我々の船は飛べません」
セーネスに浸透したスパイの情報を得ていた彼らは日本側の高官をもてなした。そして、様々な情報交換を行った。その際、遂にあの情報も飛び出すことになる。
「ところで、日本はセーネスと戦争なさるんで? いやー凄いですね。もし勝ってしまったら世界がひっくり返りますよ」
「…………え?」
日本側、ここで初めてセーネスの侵攻作戦を知ることになる。
この情報はすぐさま大本営へと上げられ、対策が練られることとなった。