戦災清算機構
西暦2028年初頭からアトゥス帝国は新兵器「潜水艦」を用いた通商破壊作戦――「無制限潜水艦作戦」を発動。これは北海や大西洋においては連合王国の本土と植民地を分断し、干上がらせ、疲弊させることが目的であった。南海においては孤軍奮闘を続けるセーネス自由国やエスニア帝国に対する支援の遮断が目的だった。
連合王国においても既に潜水艦の発想はあり、研究もされていたものの、まだこの時点で対潜戦闘の概念は存在しておらず、対人魚種魔法しか対抗手段がない状況であった。対人魚種魔法の威力程度では帝国潜水艦の耐水圧隔壁を破壊することは難しく、対処は困難を極めた。
そんな状況でも大日本帝国とアトゥス帝国はカラリーの地で話し合いを続けていた。しかし、遂に南海で日本の商船が撃沈されてしまう事故が発生する。この商船はエスニア帝国に対して支援物資を届けるためにその海域を航行していた。
日本としては邦人の命が失われたことは許し難く、アトゥス帝国も敵国への物資支援を許容する程に甘くはなかった。
日本の民間人は既にエスニアから完全退避が完了している。憂いのなくなった日本は遂にアトゥス帝国へと宣戦布告。すぐに東部戦線における爆撃が開始された。
連合王国にはカラリー港の使用許可が与えられた。日本の機甲師団を先頭に上陸軍は旧セーネス領を次々と奪還、短期間の内にセーネス自由国を死守していたデ・ベルトラン将軍の部隊と合流する。ここに西部戦線は復活した。
大日本帝国海軍は大西洋、北海、南海に艦隊を派遣した。元地球では対アメリカ、対ロシア潜水艦に対して劣勢と言われていた帝国艦隊の対潜部隊であっても、潜水艦黎明期の新地球においては無類の強さを誇る。虫の蔓延る巣に殺虫剤を吹きかけるが如く全海域でアトゥス帝国潜水艦を駆逐していったのである。
オキャル攻勢の大勝利後、エスニア帝国軍内部では日式部隊の拡充を更に進めていた。前線の武器は次々と火薬で発射される銃に置き換わっていき、大規模魔導砲は迫撃砲によってその座を追われた。
軍の花形だったガニツェッリは完全に過去のものとなり、今では9割の部隊がクヴァッテリに置き換わっていた。魔法使いですら自動小銃を持つ時代だ。
前線将軍から参謀部作戦局長となっていたオキャル中将。西部で日本機甲師団が暴れ回っていた頃に、彼が策定した新たな作戦が実行される。それは後に第2次オキャル攻勢と呼ばれるものであり、日本から持ち込まれた兵法書に書かれていた「バグラチオン作戦」に影響を受けたこの世界で初めての縦深攻撃であった。
これを真正面から受けたアトゥス帝国軍東部戦線は瞬く間に崩壊。最高指揮官の皇帝には事態の収拾などできるはずもなかった。帝都東方の要塞地帯、アンガルン地方は要塞が機能する前に陥落。帝国を見限った中北部の諸侯たちは神教典派であっても次々と離脱し、民教典派であるドムニ連邦への加盟を宣言する状況に陥った。南部のイタロ半島の諸侯たちもパルサリョールに倣って次々に独立していく。
2028年夏、帝都ワイエンが陥落した。それまでに皇帝は亡命先を見つけることができずエスニア軍に捕らえられた。無制限潜水艦作戦を実行した東部方面参謀長フォン・ヒルデブランドは帝都陥落直前に自殺した。
西部にいた帝国中央軍参謀総長のフォン・アンワースは帝国諸侯の統合と和平の道を模索するも失敗に終わり、連合王国に亡命する道を選ぶ。しかし、その道中で帝国から離反した伯爵私兵によって殺害されてしまった。
離反した帝国諸侯を多く受け入れたドムニ連邦共和国だが、帝国の後継国家となることを否定し、戦争責任も負わないとした。
戦争相手を失った合同軍諸国は元帝国諸侯を相手に欠席裁判を開廷。どれだけ戦争に関与したかという指標で戦争責任を追及することとなる。
大日本帝国、ダウナー連合王国、セーネス共和国、パルサリョール共和国、エスニア帝国による「戦災清算機構」が創設された。この組織の目的は、被害の軽微だった日本やパルサリョールから被害の大きかった国への支援。それと、戦争責任を負うとされた元帝国諸侯に圧力を掛けるためのものであった。
ドムニ連邦共和国は「内政干渉である」として非難声明を出したが、今次戦争で大きな被害を出した合同軍諸国はこれを無視した。
責任から逃れるため帝国を見捨てた諸侯たちだったが、帝国中央軍という盾を失った彼らが列強諸国に対抗できる筈もなかった。連合王国やセーネスは堂々とドムニ連邦共和国への内政干渉を強めていった。
エスニア帝国はより苛烈で、アトゥス帝国東部の占領地では貴族に財産と領地を手放すか、エスニア皇帝に従属するかの2択を迫った。これには日本も苦言を呈するが、警告等は行われなかった。
こうして中央世界で巻き起こった大戦争は終結した。これにより新地球では日本が主軸となる新たな国際秩序が形成されたわけだが、果たして栄光はいつまで続くだろうか。
無理矢理ではありますが、これが最終話となります。
この作品は暇を持て余した作者の落書きから始まったものであり、完結を考えていませんでした。それがエタッてしまった原因です。この作品を楽しんでくれた読者の方々には申し訳ないです。
この様な中で宣伝するのも恐縮ですが、この作品に登場する「新地球」の設定を流用……練り直したファンタジー戦記作品を書いています。「アグロンド王国物語(https://ncode.syosetu.com/n7826lq/)」というものです。ミリタリー要素はありませんが、気になった方はぜひ読んで下さると幸いです。
最後に、日本転移モノはまた書くつもりでいます。10年前に連載していた作品のリメイクです。そちらはちゃんと完結まで考えて書こうと思っていますので、ご期待いただきたく存じます。




