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2025年、大日本帝国は異世界へと飛ばされた  作者: ガーレ
第3章:帝国による大戦争
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コンピエイグンの戦い

 アミエン−レイム線に撤退したセーネス第3軍、第5軍、連合王国大陸派遣軍は決死の守りを見せる。ここを突破されれば直ぐ後ろにはセーネス王国王都——ファルスがそこにはある。合同軍としては絶対に突破される訳にはいかなかった。

 一方の帝国軍は、背後に東部戦線を抱えてしまった。優勢とは言え、2つの戦線を同時に抱えている状況は重く、どちらかの戦線を早期に終結させる必要があった。参謀本部としては西部戦線を早急に突破する必要があったのである。


 この両者の思惑から、西部戦線では命を互いに投げ捨てるが如く凄惨な戦場となっていた。


「反撃だ!」

「絶対に突破するぞ!!」

「突撃イイイィィィィ!!」


 連合王国大陸派遣軍によって行われた「第1次アベヴィルの戦い」は失敗に終わった。互いの犠牲者は1万5千人。


「もう少しでファルスだ」

「レイムへ入城する!」

「突破しろ!!」


 帝国軍によって行われた「レイム攻略戦」も失敗に終わる。犠牲者は4万人。


 その後、セーネス第6軍、大陸派遣軍の合同軍によって2度の「アベヴィルの戦い」を敢行。合わせて犠牲者は8万人。


 会戦を重ねる毎に犠牲者は倍々に増えていった。帝国軍の中央航空艦隊による突撃一辺倒の攻撃も対策され戦場は泥沼化した。


 この泥沼の状態を脱するべく、帝国軍は新兵器を投入する。「ステヒマクスクラット(脱魔力)ガス」——つまりは()()()である。

 これを生物が吸うと体内の魔力が空気中に霧散してしまい、即座に失神、痙攣といった症状を起こし、最悪の場合、死に至る。


 これが初めて用いられた戦いが「ソイッソン攻略戦」である。風上から流された毒ガスがソイッソンの街を襲い、塹壕では合同軍の兵士たちが眠る様に死んでいった。帝国軍は防毒マスクを付け、ソイッソンを易々と占領した。


 合同軍もやられてばかりではいない。連合王国は別の毒ガスを開発し、「第4次アベヴィルの戦い」に投入。2km程の範囲で突破に成功する。しかし、風向きの問題でこれ以上の成果は得られず、帝国の反攻作戦によって直ぐに元の塹壕線へと戻されることになる。


 合同軍の攻勢が上手くいかない中、帝国軍は尚も攻撃の手を緩めない。2026年の冬に入り、彼らは大攻勢の準備を進めていた。攻撃司令官であるフォン・ギレッセン、彼の名を取ってアトゥス帝国からは「ギレッセン攻勢」と呼ばれる戦い、「コンピエイグンの戦い」が始まろうとしていた。




——————————


 2027年3月。アミエン−レイム線の中程にある町——コンピエイグンへと大量の毒ガスが投下された。

 直ぐにセーネス軍の航空艦隊が派遣され、航空戦が始まる。


「これが最後の攻勢になる。心せよ」


 帝国軍参謀総長——アンワースのこの言葉はこの攻勢作戦に参加する部隊全体に共有されており、それを信じて帝国軍の兵士たちは必死に戦いに投じることになる。

 合同軍の防空網は強固であった。突出すれば集中砲火を受け、少しでも越境すれば地上からの対空砲火に晒される。帝国中央航空艦隊は決死の突撃を敢行した。


「行っけええぇぇぇぇぇ!」


 帝国艦隊決死の面となっての大突撃に、合同軍は()食らった。


「なんだあいつら!?」


 面になって突撃してくる帝国軍に対して、合同軍は標的が定まらず、散発的な反撃になってしまう。


「み、右からだ。右から攻撃しろ」


 合同軍指揮官はすぐさま無線にて全艦に対して指示を送る。しかし、その指示は帝国軍に盗聴されていた。

 帝国軍部隊は左(合同軍から見て右)を下がらせ、右からの突撃に陣形を変更する。合同軍はその動きに対応出来なかった。

 帝国軍航空艦隊は前線を超え、地上への攻撃を開始。攻撃されたのは前線ではなく、その後方にある前線司令部である。

 それに合わせて、地上部隊も突撃を敢行した。

 彼ら地上部隊も航空艦隊と同じく敵前線部隊を迂回し、対空陣地や後方部隊への攻撃を行った。


「て、撤退だ。撤退」

「し、しかしこれ以上撤退してはファルスまで……ア、ガ……ッ」

「し、死んだ……! っ、まさか!?」


「そのまさかだ。お前はセーネス軍の前線指揮官だな」

「大人しく杖を捨てて伏せろ」


 コンピエイグンのセーネス軍前線司令部は帝国軍によって制圧された。

 傷口は徐々に広がっていく。コンピエイグンから東西に、毒ガス→前線回避→後方制圧の流れで100kmにも渡ってセーネス軍の塹壕は突破されてしまった。


「ま、まずい……まずいぞ……」


 セーネス大陸軍(グランダルメ)大元帥——ベルトランは頭を抱える。

 王都ファルスから帝国軍までの距離は50kmを切った。


「第6軍を! 第6軍を北部から連れ戻せ。直ぐにだ。王宮親衛隊と第6軍で王都を守り切れ!」

「わ、我が軍も向かわせます」

「当たり前だ! 我が国が落ちたら次は連合王国だぞ!」


 2027年4月初旬。コンピエイグンの戦いから2週間後、セーネス王国最後の戦いが始まった。

 「ファルスの戦い」はセーネス王国にとって決死の戦いとなり、10万人近くの死傷者を出す地獄の市街戦となった。しかし、勢いづいた帝国軍を前に勝つ事は残念ながら叶わなかった。


 千年のセーネス王都——ファルスは、ここで墜ちた。

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