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国交

 新地球において大日本帝国と最初に正式な国家間の会談を行ったのは「ダウナー連合王国」であった。

 この国はダウナー家が納める国家の連合であり、「中央世界(彼らが自称する文明地域)」にありながら大陸とは距離を置く国家とのことだ。


「我々は妖精族の国であり、大陸とは異なる独自の魔導体系、宗教、言語、風習を有しています」

(いちいち大陸とは違うことを強調してくるな……まるで英国みたいだ)


 日本の領海に侵入した複数国の船舶の中でも比較的穏便に対応できた国家であり、対話が容易であるとして最初に使節が派遣されることとなった。

 連合王国側の大商人がコネクションとなったのも幸いし、権力者との会談が実現したのだ。


「大日本帝国、と言いましたかな。まさか国ごと転移するなどとはにわかには信じられませんが……」

「ええ、我々としても困惑しているところです」


 連合王国側の権力者というのはこの時点での外務卿であった。彼は大日本帝国を計りかねていた。

 この国有数の大商人船隊と共に港にやってきたのは、島程にも思えるグレーの巨艦が5隻。降りてきたのは一見すると人間だが、驚くべき程に魔力が無い。普通であれば体を動かすのがやっとにも思える魔力量である。人間かどうかも分からない謎の生物が巨大な船を携えて国交を結んでくれと言ってきたのだ。


「『国交』、と言いますのは具体的にはどのようなものを考えているのですかな」

「まだ我々はこの世界を知りません。この社会に適応するには情報が必要であると考えます」

「ふむ」

「そのため、我が国から貴国へ留学生を送りたいのです」

「であるならば……」


 外務卿は事前に商人たちから日本についての情報を聞いていた。都市には摩天楼が聳えたち、無数の自動車が行き交い、飛行機械の技術も有していると聞く。

 この世界とは全く異なる知識と技術、これは大変に魅力的なものであった。動乱の中央世界で他国を出し抜くチャンスと捉えたのだ。


「我が連合王国からも使節を派遣したい」

「それはこちらとしても願ったり叶ったりです」


 こうして、大日本帝国はこの世界で初の国家間での協定を取り付けることに成功したのだ。




――――――――――


 その頃、南方ではある問題が発生していた。


「なんだ……これは……」

「おや、獣人奴隷をご存じありませんか? あなた方も人間ですからてっきり奴隷を買いにいらしたのかと」


 中央世界から遠く離れた南方の大陸、中央世界の人間からは南方世界と呼ばれる地は、無数の種類の獣人達がそれぞれのテリトリーを持つ多様性の世界であった。

 大日本帝国の南方派遣艦隊は、南方世界において都市と呼べそうな港へ赴いたわけだが、そこはセーネス王国の植民地であった。


「彼らは、翻訳魔法を扱えるのですか?」

「いーや、獣人の魔法使いは極々稀ですよー? でもね、でもね、いるんですよ、うちの在庫に1人だけ」


 派遣艦隊上層部の間では葛藤が生じた。奴隷を買うという非人道的行為を行うのはどうなのかと。しかし、最終的に情報収集のため購入することを決意した。


「こ、この様な精巧な細工のされたコイン、見たことがない。きっと大層価値のあるものなのでしょう? そうに違いない。うむ、交渉成立ですねぇ」


 こうして5円(史実における現代日本の500円相当)で日本側に初めて迎えられた獣人が、羊人族のラーナである。

 ラーナは当初ひどく怯えていたが、艦内の日本人と触れ合うたびに彼らに悪意が無いことを感じ取ったのか、徐々に心を開いていった。後に日本語で綴られた彼女の手記にはこう記されている。


『両親を殺され、幼くしてセーネス人に捕らえられた私。魔法使いだからと高い値をつけられたけど、どうせ禄でもない目に合うんだと、そう思っていた。でも私を買った……いや、迎え入れてくれたのはとても優しい人達だった。軍隊なのに女の人もいて、幼い私と一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、寝かしつけてくれた。これは、私の人生で初めての幸運だったんだ』


 一方、彼女から話を聞いた軍上層部、ひいては帝国上層部は頭を抱えた。この世界にに奴隷制が存在するという事実ではなく、大変惨い奴隷狩りの惨状にショックを受けたのだ。このような奴隷産業を有する国の価値観を理解することは出来ず、また大変危険であると認識された。

 中央世界に派遣されている東方派遣艦隊にもこの情報は伝えられることとなる。




――――――――――


「すみません、確認したいことがあるのですが」

「何でしょうか?」

「連合王国には、奴隷制は存在しますか?」


 この質問をされた高官は酷く渋い顔をしてこう答えた。


「数年前に廃止されました。そもそも、我々妖精も元は獣人と同じく人間によって虐げられてきた種族です。現在では全種族平等論が本国国民の主流となっています」

「安心しました」

「とはいえ――」


 連合王国の高官は渋い顔のまま話を続ける。


「我が国も南方世界や新世界に植民地を持つ国です。交易目的であるとはいえ、現地の人々を迫害しているのですから、なんとも」

「そうですか……」


 この新地球では、中央世界列強によるその他地域への侵略、植民が現在進行形で当たり前のように行われていた。また、日本から見て西に存在する新世界では、交易船を狙った海賊や空賊が跋扈しているらしい。

 魔法文明とやらがどの様なものかまだ大日本帝国は把握しきれていなかったが、植民地化の恐れがあることを認識し、対策を打つ必要に迫られた。

 また、帝国政府は国民に向けてこの世界の危険性をマスコミを通じて喧伝した。民間企業に対してはまだ海外に出ないよう強い規制が敷かれ、また沿岸部の住民に対しては漂着船を発見した場合は近寄らず警察に連絡してほしい旨が繰り返し要請された。国民はまだ大きな不安に包まれたままである。

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