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国内の現状

 2025年4月に起こった大日本帝国の「新地球」への転移。それから約1年たった今、国内は回復の一途を辿っている。

 そこで、今回は様々な業界の現状についてつらつらと語っていく。




・東京株式取引所


 転移以来、「東京株式取引所(東株)」は取引を停止していたが、セーネス王国に勝利して戦時体制が解除された後に取引を再開した。

 再開と同時に売り注文が殺到し、主要銘柄が軒並み暴落するのがアナリストの見立てであったが、帝国政府による上手いコントロールの結果か、投資家たちの反応は予想よりも冷静であり、日産経平均株価(日産経とは日本産業経済新聞のこと)も東株株価指数(TOPIX)も最悪の暴落とまでは逝かずに済んだ。とはいえ、一部銘柄は紙くずとなった。


 新米州、新加州などの新たなフロンティアへの期待や、帝国政府による価格規制の解除の兆しがあることから、最近では上昇基調になっている。




・海運


 転移の結果、海運業界は最悪の打撃を被った。何しろ膨大な海外資本や、多くの船舶を転移によって失った上、国際貨物輸送そのものが消失したからである。

 帝国政府の指示の下、転移から半年の内に業界再編が進み、結果的には三菱財閥傘下の「日本郵船」、三井財閥傘下の「商船三井」、川崎重工業傘下の「川崎汽船」という3社体制に落ち着く事になる。


 日セ戦争後は、「海軍による護衛付きの船団を組織する」という条件の下での外洋航行が許可され、新米州、新加州、国際路線といった様々な定期貨物航路が新たに就航を果たす。徐々にではあるが、復活の兆しが見え始めてきた。




・航空


 海運と同様、航空業界の打撃も深刻だった。こちらはコロナショックからの復活を目指す時期だったこともあり、より打撃は大きいと言える。

 東急グループの傘下であった「日本エアシステム(JAS)」が経営破綻した事により日本の2大航空会社体制は終焉を迎えた。


 現在ではJASの路線は全て大日本帝国のフラッグキャリア——「大日本航空(DNK)」に引き継がれたものの、DNK自体経営状況は最悪であり、帝国政府からの補助金で何とか最低限のインフラとして生き存らえているに過ぎない。


 新米州、新加州共に、野良竜の駆逐作戦が完了次第、飛行場へDNKの乗り入れ構想が存在している。




・農業


 転移後、農林省と帝国農会はとある決断を下した。それは、放棄された畑という畑全てで麦とコーンを育てるというものだった。


 日本の食糧事情において最も不足しているものは何か、それは飼料だ。

 炭水化物なら米を食えば良い。米の自給率は100%だ。

 ビタミンが足りてないなら野菜を食えば良い。日本は案外、野菜の自給率も足りている。

 だが、タンパク質を支える畜産業の飼料。これが絶望的に足りていなかった。

 そんな中、大日本帝国はセーネス王国に勝利。新米州と新加州を手に入れる。この広大な大地は、畜産業界から見ると宝石のように映ったであろう。

 種まきの時期は迫っている。帝国政府は半ば強引にセーネス人から土地を取り上げ、ごく一部ではあるが作付けを開始した。第1号の収穫時期は6月を見込んでいる。


 因みに、旧地球に類似する作物や、日本にとっても有用とされる作物は諸外国から輸入することが決定している。果たして、新地球での日本は食料自給率を上げることが叶うのだろうか。




・漁業


 転移から1年が経つ今でも、排他的経済水域(EEZ)外での漁業は規制されている。また、解禁の見込みも立っていない。何故なら、帝国軍の監視から外れた海域では海賊の危険が付き纏うからだ。

 また、新地球の未知の海洋生物の漁獲高が徐々に増えてきており、各地の漁協は頭を抱える状況にある。

 新地球において最も魚食が盛んなのはパルサリョールであり、かの国のシェフから新たな海洋生物の調理法を教わろうという試みが始まっている。




・建築


 「大林組」「鹿島組」「清水組」「大倉建設」「竹中工務店」のスーパーゼネコンを始めとした建築業界は、国外案件が消失したことよりも、建築資材不足の方で苦しめられることになる。


 転移直後、旧地球の海外製品の入手が不可能になったことで、商社の取り扱う様々な商品の価格が急上昇。それは建築業を始めとする大口の消費者にクリティカルなダメージを負わせた。日本の建設は凍結したのだ。

 しかし、何時までも凍っているわけにもいかない。設計変更であったり国内で代替を模索する商社、サプライヤー側の努力であったりで、次第に建設業は再開していくことになる。


 因みに、建築において最も不足したもの——それは、()だ。




・鉱業


 大日本帝国では鉄鉱石の100%を海外に依存していた。都市鉱山のリサイクル鉄だけでは、帝国全土の膨大な需要を賄うには到底足りていない。また、鉄の精錬に必要な石炭だって日本国内の転移当時の生産量では全く足りていない。製鉄業界は危機に瀕していた。また、それは非鉄金属業界も同様であった。

 その状況を何とかすべく立ち上がったのが、明治日本の工業化を支えてきた鉱山企業であった。


 「三井鉱山」や「日鉄鉱業」、「住友鉱山」、「三菱マテリアル」は転移当時、1つも国内に鉱山を有していなかった。しかし、この未曾有の危機に直面した事で、彼らは嘗て所有していた国内鉱山を買い戻し、操業再開の試みを始めた。

 技術者の殆どは当時海外に居た。国内にノウハウは残っておらず、1からのスタートである。それでも、彼らは転移から約9ヶ月の間に人員と機械をかき集め、大赤字を抱える中で帝国の支援も受けつつ、国内での鉱物資源の採掘再開に成功したのである。


 とはいえ、現状では需要に対して生産量は全く足りておらず、更なる増産が求められている。

 そこで注目されているのが新たに獲得した領土である「新米州」「新加州」、そして新地球の特殊な技術——「()()()」だ。

 錬金術とは、魔力を用いて原子構造を組み替える夢のある技術だ。旧地球では迷信となったそれが、新地球では技術として存在する。それを工業的に利用しない手は無かった。「錬金魔法研究所」——新米州に開設されたそれは三大財閥の後押しを受けつつ今日も研究を続けている。




 大日本帝国は新地球の一員として、生存の為の1歩を着実に歩み始めていた。

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― 新着の感想 ―
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