魔法魔導管理局
新地球関連法に基づき内閣官房に新たに設置された「魔法魔導管理局」。これは、魔法魔導の情報収集及び、魔法魔導犯罪にあたる府県警察部に対する指導、魔法魔導に関連する法令整備を目的に設立された組織である。
「こちらがドレイツ魔導式で動く連合王国製のライターです」
「ライター、ですか」
「使ってみてください」
「……問題無く着きますね」
設立したての日。彼らは「日本人が魔導具を使用する事は可能か」という実験を行っていた。
「では、こちらはアトゥス魔導式で動くセーネス製のライターとなります」
「ふむ……こちらも動きますね」
日本人にも微量な魔力は存在している。それはつまり、魔導具を扱えるということである。とはいえ……
「ではもう少し消費魔力量を上げてみましょう」
「というと?」
「これは空気中の水分から純水を作り出す桶です。スイッチを入れてみて下さい」
言われるがままにスイッチを入れた男。その男は1秒も立たないうちに地面へと倒れこんでしまった。生成できた純水はほんの僅かである。
「魔力缶を! 早く吸わせて!」
「わ、分かりました」
魔力缶を一瞬吸わされた男。今度は顔を赤らめ、昏倒してしまった。
「たったこれだけの吸入でも魔力過剰を起こしてしまうなんて……」
「魔力過剰? 説明を」
「人は魔力を受け入れられる器のような物を持っています。それの許容量は人によって異なるのですが……少なくとも、この男は平均的な連合王国人、中央世界人の1/20、いや、1/50以下です」
魔導具の指導を行っているのは連合王国から来た使節の男である。その男は、日本人のあまりの魔力量の少なさに驚いていた。
「情けないわねぇ、日本人というのは」
やれやれ、と首を振るのは、硫黄島沖の戦いで活躍したパルサリョールの大魔法使いフアナ。彼女はパルサリョール本国への帰還を断った数少ない捕虜の一人である。自身の卓越した魔法の才を活かし、魔法魔導管理局の顧問の1人として登用されていた。
「人自体がこのレベルってことは、日本の文明って圧倒的に優れた機械に支えられてるのねえ……この携帯電話ってのも魔法程じゃあ無いけど魔信機に比べて圧倒的に使いやすいし」
子供用スマホをフワフワと浮かせて遊ぶフアナ。
「魔導の方でも私の防御魔法を破るだけの気概を見せて欲しいわ」
んな無茶な……、と苦笑いを浮かべる官僚たち。
彼らはフアナをただの少女とは見ていない。皆、彼女の武勲を知っており、むしろ怖がっているフシがある。
「フアナ殿、皆引いておりますぞ」
「えぇ? 冗談ヨ、じょ・う・だ・ん」
フアナはお付きの爺に窘められると、頬をプクーと膨らませる。これだけ見ると本当にただのラテン系の少女だ。
「お゛っほん。つまり、日本人が魔導具を用いるには、個人個人の魔力量が少なすぎる、ということですな」
話を戻すために咳払いをした男に、連合王国からの使節は頷いた。
「そうですなあ。或いは魔鉱を直接補給して動かす大型の魔導機械であれば動かす事は可能でしょう。しかし、これも実際に運用するとなると、難しいでしょうなあ」
航空船舶や農業、工業機械、魔導砲といった中大型の魔導機械は、魔鉱を直接投入することで動作している。
魔鉱を放り込んでボタンを押しさえすれば動くものではあるが、一部機械では運用の際に技師による調整が必要であり、そうで無くても技師によるメンテナンスは不可欠である。その技師になるには魔力の流れを見る力が必要なのだが、日本人にはその素質が欠けている。
「そうですか……やはり日本人に魔導を扱うのは難しそうですね……」
扱うことが困難となると、国としては当然、規制の方向に動く。
「なにせ、魔力を過剰消費ないし過剰摂取させると人体に影響が出てしまうことが分かりましたからね。これは危険です」
既に警察や軍に届け出の無い魔法魔導の使用は厳しく制限されることになっていたが、それに加えて、これからは魔導具や魔鉱の国内流通も厳重に管理されることが決まった。
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一方の新米州。この地の魔鉱埋蔵量は新地球において1、2を争うものである。魔法魔導に疎い日本とて、これを利用しないのは勿体無いと考えていた。
よって、新米州においてのみ魔法魔導の使用規制が緩和される事が決定された。
「これから俺ら、どうなっちまうんだろうな……」
魔鉱山で働いていたセーネス人技師達は、本国へ送還されることは無く、日本によって抑留されていた。
「おい、お前ら、仕事だ。魔鉱山を再稼働させるぞ」
ひたすら暇を持て余していた彼らに声がかけられたのは、日本によって新米州が制圧されてからおよそ1ヶ月後のことであった。
カンブル連邦資本の企業に輸出用魔鉱の生産が許可され、新米州の魔鉱山が彼らに売却されたのだ。セーネス人技師たちはその企業に強制的に雇用され、魔鉱山の再稼働に従事させられることになった。
また、カンブル系企業に魔鉱山が売却される際、新米州内で産出される魔鉱の流通ルートは、新米州総督府によって厳格に管理される協定が締結されている。
2025年10月。魔鉱の豊富な新米州に、魔法魔導管理局の主導で「帝国魔法魔導研究所」が設立された。そこでは、魔法魔導の可能性についてや、活用機会についての研究が、広大な大地を利用して大規模に行われることとなる。
魔鉱山からの魔鉱の融通協定も締結されたことで、資源に困ることはない。連合王国やパルサリョールといった魔法列強からも顧問を招聘した。ここから日本においての本格的な魔法魔導研究が始まったのである。
また、魔法魔導研究所に続き、こちらは商工省の主導で「錬金魔法研究所」も開設された。日本の工業に不可欠なレアメタルを錬金魔法によって生成しようという試みで、連合王国から顧問技師を招聘した。後にこの研究所には住友鉱山や三井鉱山といった民間資本も参入し、次第に設備も大規模化、日本の工業を支える新たな柱——錬金工業のパイオニアとして成長していくこととなる。
この様に、新米州はその豊富な資源を特別制度を活かし、日本の魔導産業の第一線を走り出したのだ。




