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ファーストコンタクト

 転移が確認された翌日、帝国全土に緊急事態宣言が発令された。この措置によりメディアを始めとした全ての企業活動が国の監督下に置かれ、国民の移動も制限されることとなった。

 しかし、一度拡散された情報は瞬く間に広がるのがインターネットの普及した高度な情報化社会である。

 帝国外の世界が消えた。帝国が神隠しにあった。帝国が超常現象により孤立した。

 この様な情報は規制前に多くの国民が知ることとなっていた。


 大日本帝国は対外債権の保有額が世界1位の経済大国である。その資産が全て紙くずになった衝撃は計り知れない。

 また、近年では工場の海外移転が積極的に進んでおり、東南アジアや中華民国をはじめとした近隣諸国に日用品や食料の生産を強く依存している状態であった。


 帝国は阿鼻叫喚の地獄と化すことになる。とはいっても現代に残る唯一の成功した権威主義国家と呼ばれた国である。緊急事態宣言後は陸軍が国内各地の治安維持に素早く展開され、暴動や略奪などはほとんど発生しなかった。


 それに、大海原にポツンと日本だけが浮いているわけではないというのも政府は素早く把握していた。というのも、日本上空を無数に飛び交う準天頂衛星は一緒に転移してきており、通信が復活した段階で周辺の陸地を発見していたのである。また、その陸地には文明らしきものがあることも確認していた。


 帝国政府はこの世界を「新地球」と定義し、探検隊の派遣を決定。すぐ東にある大陸や、少々離れた西の大陸、また南方にある大陸の3方面へと艦隊を派遣することになった。

 また、この世界には船舶があることも把握していたため、万が一に備えた海空軍による本土周辺の警戒態勢が敷かれることとなる。




――――――――――


 この世界における最初のファーストコンタクトは、東に向かった艦隊であった。強襲揚陸艦1、巡洋艦1、駆逐艦2、輸送艦1で構成されており、万が一戦闘になった場合でも全滅は回避できるように編成が行われていた。


「司令、何か飛行物体のようなものが見えます」

「あれは……空飛ぶ船、か……?」


 帝国艦隊と最初に接触したのは、「連合王国」を名乗る国の商船であった。商船とはいっても空を飛んでいる不思議な飛行する船である。

 強襲揚陸艦の甲板で船員が大きく手を振っていると、その空飛ぶ船は甲板へと降りてきたのだ。もちろん、甲板に出ていたのは戦闘にたけた陸戦隊員であり、万が一の戦闘が発生した場合に備えていた。

 向こうも警戒していたようで、最初に降りてきたのは鎧を付けた兵士であったが、言葉が通じないと分かると杖を持った若い男が姿を現した。


「これは驚いた。あなた方、魔力をほとんど持ち合わせていないのですね」


 現場の兵士全員に衝撃が走った。なぜなら、言葉が分からないはずなのに、脳内に勝手に意味が流れ込んできたからである。


「何を驚いて……もしかして、翻訳魔法をご存じでない?」


 杖を持った男も驚きっぱなしのようであった。


「失礼、私『連合王国』に拠点を置くロビア商会のショーンと申します。何やら見慣れない島のような大きな船をお見かけしてつい降りてきてしまいました。あなた方はどちらからいらっしゃったのですかな」

「我々は大日本帝国海軍です」


 これが、この世界における最先進地域「中央世界」の人間との最初の出会いであった。


「お伺いしたいのですが、その羽って……」

「ああ、連合王国民は皆生えてるのですよ、ご存じありませんか? 妖精の国を」


 人間ではなく、妖精であった。




――――――――――


 一方その頃、本土にも船が複数やってきていた。海上の船も、空中の船もである。


「なんじゃあの島は。地図には乗ってないぞ」

「こちら大日本帝国海軍。そこの船、停止しなさい」

「でっけぇ声でなんか言ってる!! 意味は分かんないけど……歓迎はされてなさそうだな……」


 魔法使いが乗っている船とは情報交換がなされ、乗っていない船はその場で留め置かれた。

 1隻攻撃してきた航空船があったが、それは即座に撃墜された。


 様々な方面から集められた情報は大本営にて精査され、内閣へと届けられる。


「撃墜した空中船の旗を見せると『セーネス王国』という名前をあげていました」

「ふむ、こちらにも様々な国が存在するのだな」

「そんなことはどうだっていい。魔法とやら、それはなんだね」

「調査途中です」

「資源は、資源は地球と同じなのだろうか。石油が無ければ我が国は滅ぶ」

「石油らしきものがあることは確認できました。どうやらはるか東にあるとのこと」

「であればすぐに艦隊を派遣しろ」

「何もわからない状態で大規模派遣は危険だ」


 会議は紛糾した。帝国首脳部はこれからの重要なかじ取りを迫られているわけだが、あまりにもこの世界を知らな過ぎであり、方向性を決めかねていた。


「やはり、ここは穏便に情報交換から始めましょうか。言葉が通じるのは唯一の救いです」


 内閣書記官長の一声により、まずは強硬姿勢ではなく穏便な対話によってこの「新地球」を知っていこうという方針が閣議決定された。

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