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ダウナー連合王国

 大日本帝国にとって、最初に魔法の存在を確認したのが連合王国の航空船舶と翻訳魔法であったというのは、序盤で記した通りである。

 では、その連合王国と魔法がどう発達したのかについて、それを語っていきたいと思う。


 Antorly Kustui ow Dawnar(ダウナー連合王国)。彼らは中央世界にありながらアトゥス教圏に属さない、Ettenia Enstui(エスニア帝国)と並ぶ異教の大国である。

 この国の民は背中から羽根の生えた「Sprye(妖精種)」と呼ばれる種族であり、彼らが信仰するのは自然信仰(アミニズム)の特徴を持つ多神教——「Draidzuri(ドレイツ教)」である。


 古来には中央世界全体の森に棲息していた妖精種であるが、しかし、Romarrian(ロマーラ族)を始めとしたヒト種がAtuthy(アトゥス) Mor(魔法)を開発、それを行使して勢力範囲を拡げるにつれ、彼らは各地で迫害されるようになっていった。

 迫害から逃れる中で、彼ら妖精種は次第に団結していった。最終的に彼らはヒト種Senesian(セーネス族)によって中央世界最北西にある不毛の島——Barbaia(バルバリア)島に追い詰められ、そこで最後の王国を建てることになる。それが、現在でも連合王国の中核を成すAglond Kustui(アグロンド王国)だ。


 建国したはいいものの、すぐにセーネス族に上陸され、魔法使いの猛攻に晒され、風前の灯火となってしまうアグロンド王国。そんな中、奇跡的にアトゥス魔法の才を持った王子が誕生した。

 アトゥス教の12の星座から力を得て技を発動するアトゥス魔法は、ただの一般人に扱える代物ではない。アトゥス教徒ですら限られた者にしか扱えないものを、王子は大陸から流れてきた文献のみを頼りに習得してしまったのだ。


 国の戦士たちがセーネス族との戦いを続ける傍ら、王子は魔法の研究に没頭した。その結果、国が滅ぶ瀬戸際というタイミングで、アトゥス魔法とドレイツ教をうまく組合せた「Draidzumy(ドレイツ) Mor(魔法)」の開発に成功する。

 それは、12の星座の力をドレイツ教の4つのエレメントに置き換え、それを体系化したものだった。

 アトゥス教、アトゥス魔法に精通せずとも、ドレイツ信仰の下で魔法を使える。それは妖精種にとって非常に画期的な、まさに国を救う発明であった。

 魔法には魔法を。セーネス族に対抗出来るようになった事でアグロンド王国は次第に失地を回復。更にはバルバリア島西部、北部、Yrlond(イルロンド)島のヒト種原住民をも征服し、バルバリア諸島統一を成し遂げることになる。この頃から、1つの王家が2つの国と2つの属州を治める体制が確立し、「連合王国」と呼ばれるようになる。


 その後、連合王国妖精種の魔法使いは増え続け、ドレイツ魔法技術の研鑽は続けられる。それと同時に軍事的にも大国としての地位を得ることとなる。

 彼らは、隣に突如として爆誕したアトゥス教の大国——Senes Kustui(セーネス王国)からの侵攻を何度も何度も退けた。

 100年以上にも及ぶセーネスとの戦争の中で、連合王国には4つのエレメント——火、水、鋼、光に対応する4の天才魔法使い一族が現れ、その家には公爵の地位と広大な土地が与えられた。


 王家が断絶し共和制となった「護国卿時代」と呼ばれる頃には、長年のライバルであったセーネス王国と同盟を結ぶという外交革命を成し遂げ、共にアトゥス教の総本山であるEnstui(())に攻め入った。この際に、帝国の沿岸にある2つの妖精種、2つのヒト種領邦国家を征服している。


 今から凡そ200年前、護国卿時代を内戦によって終わらせたのがかの4公爵家である。彼らは弱体化した護国卿の支配を崩壊させ、征服によって手に入れた4大公国の1つ——Horlond Grad Dustui(ホーロンド大公国)からダウナー家を新たなる王家として招き入れた。

 ここから現在に至るまで、このダウナー家が6つの国と数多の属州、植民地を従えることとなる。


 凡そ30年前。魔法の世界に革命が起きた。これまでは、ドレイツ魔法にしろアトゥス魔法にしろ、魔法とは宗教に強く結びついたものであり、それを深く理解し、体系的に学んだものにしか魔法を扱うことはできなかった。

 しかし、とある連合王国人が、魔導具を用いる事で一般人にも魔法を使えるようにする技術——「Mortoc(魔導)」を発明したのだ。これにより、連合王国は飛躍的な生産性の向上を遂げる事となった。何しろ、一般人にも魔法のような技術が扱えるようになったのである。農業、工業、サービス業、全ての生産業の世界が変わった。

 この技術開発により彼らは中央世界で最初の「奴隷制廃止」を成し遂げることになる。

 また、軍事的にも攻撃魔法が魔導砲として一般兵にも扱える様になるなど飛躍的な進歩を遂げた。


 こうして、連合王国は他の大国の先を行く技術立国としての地位も手にしたのである。




——————————


「——というのが、大まかな我が国とドレイツ魔法の歴史です。アトゥス魔法も、イズミル魔法もそうですが、魔法を行使するにはそれに合った宗教を熟知している必要があるのです」

「となると……我が国に適合させるとすれば、それは『魔導』と言うことになるのですかな」

「もしくは、我々の祖先と同じく独自宗教から魔法を生み出すか、ですね。まあ、日本人の魔力量的に難しそうですけど」


 連合王国人によるドレイツ魔法講座を受けていた日本側の者たちは、坊主や神職が魔法を使っている姿を想像し苦笑いを浮かべる。


 彼らがもたらした魔法の知識は、魔力を感じ取ることさえできない日本人にとっては、それはそれは難解なものであった。日セ戦争の際にパルサリョールの捕虜から手に入れたアトゥス魔法の知識もそう変わらない。日本人が魔法を使うのはどだい無理だというのだろうか。

 ひとまず、大日本帝国は宗教関係者を連合王国、セーネス王国にそれぞれ派遣する事を決定、それは直ぐに実行される。


 また、それとは別に、一般人にも扱えるという「魔導」、これを活用できないかという検討が開始されるのであった。

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― 新着の感想 ―
気になっていることが一つ。 「全滅の余波」のラストで「中央帝国」の皇帝が、セーネスに向けて軍を派遣すると言っていましたが、この件、その後どうなったのでしょう?
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