表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

農会

 日セ戦争終結後、新米州と新加州に残されたセーネス人は本国へ帰還するか、外地人として獣人と平等に大日本帝国へ隷従するかの2択を迫られた。

 多くの場合では集落の長に全体としての意思決定が任され、集落を捨てて帰還するか、それとも大日本帝国の下で集落を存続させるかを選択した。どちらの決定を下すにしても、セーネス人にとっては地獄が待ち受けていた。


 8割のセーネス人は集落を捨てて本国へと帰還する決断を下した。この場合、土地は大日本帝国に接収され、帝国農会が推薦する法人に譲渡されることになる。新米州、新加州の豊かな大地は帝国の管理の下で、商品作物生産に従事することになるのだった。

 一方、セーネス本国には帰還したセーネス人を受け入れる余裕は無かった。港町や首都ファルスには失業者が溢れ、物資不足によるインフレを加速させた。


 残り2割のセーネス人は帰還を拒否し、集落を存続させることを決断する。この場合だと、獣人奴隷の開放が大前提となる。セーネス人地主は獣人を帝国法準拠で再雇用するか、土地を渡して自作農民として開放するかを選択させられた。自作農民として開放する場合は、獣人が損をしないよう様々な規定を遵守する必要があった。

 更に彼らは、台湾の内地編入以来数十年ぶりとなる()()人として定義された。外地臣民に関する制度は新地球関連法によって改められ、内地臣民と差別化された様々な不平等条項が設定された。その最たることが農会への加入禁止であった。


「帝国市場では、一独立農家じゃ農会に対して太刀打ちできない。カンブル連邦やセーネス本国に輸出しようにも、関税がネックとなって売れない。元セーネス人への処遇はこれ以上ないほど厳しいものになっている」


 これは、新米州総督が新聞に漏らした言葉である。

 その言葉通り、残ったセーネス人や獣人、現地人だけでは金を稼ぐ事が叶わない制度が、帝国領新世界には構築されていた。


 ただ、獣人たちはそもそも自分たちで農園経営をするノウハウが無いため、早々に土地を帝国へと売り渡して日本企業への就職を決めていた。新米州、新加州農会では日本語学校が設立され、多くの獣人が日本語習得に向けて励むことになる。

 僅かに残る新世界現地人は保護対象とされ、彼らの自治区が設定された。自治区内では自由な活動が許可され、帝国に依存しないような仕組みが整備されていく。

 問題となったのは、プライドの高いセーネス人たちである。




——————————


「村長、もう諦めましょうよ! 魔法使いがこぞって連れ去られた今、肥料さえ作れやしない!」


 大日本帝国新米州ブンク村。ここは数少ない獣人開放を受け入れ、セーネス人が残った村だ。しかし、彼らの生活は限界に達していた。


 肥料を作る魔法使いは全員大日本帝国軍に捕らえられた。広大な畑を耕す獣人奴隷は解放してしまった。蓄えていたセーネスの通貨——()()()は円との交換で屑ほどの価値となってしまった。質の低い商品作物は売れず、麦の蓄えが底をついてしまったことでエネルギーは足りていない。

 村人全員が飢えていた。


「土地を、帝国へ売ろう……。そして、我々も雇われの身となるのだ。それしか生きる道は無い」

「村長……」

「おお、神よ。なぜ我々を見捨てなさったのか……」


 こうしてブンク村は、丸ごと帝国に売却されることとなった。




——————————


「村長、もう諦めましょうよ! 魔法使いがこぞって連れ去られた今、肥料さえ作れやしない!」


 大日本帝国新米州ピルキン村。ここは数少ない獣人雇用を受け入れ、セーネス人が残った村だ。しかし、彼らの生活は限界に達していた。


 肥料を作る魔法使いは全員大日本帝国軍に捕らえられた。広大な畑を耕す獣人奴隷はもう自由にはできない。蓄えていたセネンは円との交換で屑ほどの価値となってしまった。質の低い商品作物は売れず、麦の蓄えが早々に底をついたことでエネルギーは足りていない。

 村人全員が飢えていた。獣人も含めて。


「は、反乱だ! ……反乱だ!!」

「村長! 早く逃げ……グハァ」

「オマエ、ソンチョウ。オレラニヨコセ、メシ、カネ」

「そ、そんなものは無い、儂らとて飢えて……グッ」

「シネ、オマエ。ナイナラ、メシ」


 ピルキン村のセーネス人は、獣人たちの手で皆殺しにされてしまった。獣人たちは皆、この惨劇を発見した陸軍部隊に取り押さえられ、簡易裁判所へと送られることになる。

 ピルキン村跡地は帝国に接収された。




——————————


 残ったセーネス人集落で成功した事例は0、たったの0であった。帝国の課した制度はそれ程までに厳しかったのである。

 早々に帝国へ恭順した集落は、獣人たちと同様の待遇で受け入れられたが、抵抗したブンク村の様な集落の住民は暫く日本企業へ就業することが叶わず、極貧生活を味わう事になる。

 最悪なのがピルキン村のような事例だ。獣人を再雇用した村では、確実に獣人による反乱が発生した。魔法使いによる抑止が効かなくなり、単純な力による支配の逆転が起こったのだ。当然、帝国法の下では許される行為ではなく、獣人たちは罪人となり、誰も幸せにならない結果となるのだった。


……


「新米州全土及び、新加州サン=ドム島の測量が完了したとのことです」


 内閣総理大臣の元に新米州、新加州両総督からこの様な報告が来たのは、日セ戦争終結から半年ほど経った頃であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
セーネス王国にとって、『藪蛇の極致』で終わった対日戦争。 最初から勝ち目の無い戦いだったことは、セーネス人たちももう気付いているでしょう。しかし……。 日本がその気になれば、国は滅び、自分たちは『死ぬ…
「土地を渡して小作農民として開放する」? 明らかに間違っています。 小作農とは、自分の農地を持たない農民のことであり、自分の農地で自分で農業を営む農民は、「自作農」と呼ばれるはずですが。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ