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新地球石油

 2025年9月。衛星からの情報でセーネス領ルイージア植民地の南部や、イズミル世界の砂漠地帯に原油が湧いている可能性が明らかとなったことで、帝国による主導で日本石油、三菱石油、住友鉱山を始めとする石油系企業により出資を受けた合弁企業——「新地球石油」が設立された。

 その後、無事に日セ戦争が終結し、ルイージア植民地はカンブル連邦直轄地と大日本帝国新米州に分割、支配されることになる。また、帝国では新世界関連法が施行されたことで、民間の海外進出が制限付きではあるが可能となった。


「ここが、カンブリア大陸……ここが、新米州……」


 帝国軍工兵隊が突貫工事で修復、改造した新米州最大の港——ヌヴァ・オレンズ港に初めて上陸することになった民間人は、新地球石油に出向を命じられた元日本石油社員の男であった。


 彼を始めとする新地球石油の社員たちは、陸軍兵士の男に促され次々トラックへと乗車する。


「まずはヌヴァ・オレンズで1泊でしたよね」

「ええ、その予定ですね」

「戦争で全て破壊されたと聞きましたが、実際どうですか、街の様子は」

「現地の獣人たちに頑張ってもらって復興の最中です。もう少ししたら見えると思いますよ」


 トラックは整備中の港のゲートを抜けると、かつては発展していたのであろう焼け野原をガタガタと走っていく。

 車から外を眺めてみると獣人たちが瓦礫の撤去作業を行っていた。


「ほう……これが獣人ですか」

「種族によって言語が異なるみたいで、魔法使いが居ないと互いに意思疎通が取れないんです。ですから、我々日本人も含めてボディランゲージで何とかしているのが現状です」

「大変そうですが、それでも、皆さん笑顔ですね」

「そうですね……彼ら自身の街を作るのが楽しみで仕方ないんだと思います」


 銃を持って助手席に座る気さくな男と話しながら、トラックに20分ほど揺られると、再びゲートが現れる。中に入るとそこは、コンテナ住宅が立ち並ぶエリアであった。


「ここが我々陸軍と、空軍さんの臨時宿舎になります。皆さんはここに1泊していただきます」

「ホテルは無いんですか?」

「そんなものある訳ないじゃないですか」

「ですよねぇ」

「これからはもっとしんどい生活になりますよ! はっはっは」


 新世界石油の社員一行は、目的地を目指す前にヌヴァ・オレンズの陸空軍宿舎で1泊することに。

 宿舎の窓からは昼夜問わず作業する空軍基地造成部隊の姿が見えた。手を振ってみると、振り返してくれる隊員もいた。


「本当に異世界にいるんだな……この日本は」

「野生の竜なんかも居るんですよ。ただ奴ら、ヒト様を餌だと思っているようで、見るなり襲って来るので注意が必要ですが」


 異世界らしい話を聞きつつ、宿舎の休憩室では日本らしい自販機が設置中であり、なんだかなあと思うのだった。


 この日の夜、護衛として同行する陸軍部隊との間で親睦会が開かれた。


「ほう、貴方は帝大出身なんですか! スーパーエリートじゃないですか!」

「いえいえ、私達としてはむしろ軍人さんの方が! 頭の上がらない思いですよ」


 飲みの会特有の謙遜合戦に盛り上がる男たち。特に、軍人たちは久々のビールに目を輝かせ、話題と共に酒のペースも加速する。

 が、しかし、麦が充分に手に入らなくなった現在、ビールは貴重品である。本土から持ち込んだ酒瓶はすぐ空になり、9時を回る頃には早々に親睦会はお開きとなった。




——————————


「よーし、それじゃあ出発しますよー!」


 新世界に到着した日の翌朝9時。遂に「オイルポイント」と称される天然油田と思しき場所に向けて一行は出発した。

 新世界石油会社の陣容としては、元石油会社の男が2名、元研究者の男女が4名の計6名。それを護衛する陸軍の分隊は11名。総勢17名での旅路である。


「ヘリで移動するんですか?」

「トラックが良かったですか? 地獄ですよ」

「い、いえ……」


 ヌヴァ・オレンズからオイルポイントまでは直線距離で450km程、多目的ヘリコプターであれば充分往復が可能な距離だ。また、現地は平坦な砂漠である為、着陸も可能である。

 それに、移動手段がヘリになった決定的な理由があった。


「ここルイージアは魔鉱が豊富みたいで、元の主のセーネス人は殆ど航空船で移動していたみたいなんです。だからか陸路が禄に整備されていなくって……」


 トラックでは行けないことはないが、陸軍からしてもオススメできないということであった。


「では、行きますか」


 こうして一行は、ヘリで目的地のオイルポイントを目指す事になったのだ。




——————————


 オイルポイントまでは4時間ほどで到着した。2機のヘリが砂漠地帯へと着陸し、乗っていた人員がぞろぞろ降りてくる。

 彼らの目線の先には、真っ黒な液体の溜り場があった。それも、そこそこの広さがある。


「これは……凄いな」


 新地球石油の社員たちは簡易的な検査機器を持ち込んでいた。彼らはドクドクと湧いている黒い液体を採取し、検査を始める。

 暫くした後、彼らの結論は一致した。


「間違いないですね。これは原油です。それも、高純度の」


 採取された原油は新地球石油の社員たちの手によって本土へと持ち帰られた。それは本土のラボで改めて高精度の検査を受けることになる。その結果、高純度の原油が確認された事で、その後の埋蔵量などの調査はトントン拍子に進められていった。

 最終的に帝国政府はオイルポイントに採掘プラントと、ヌヴァ・オレンズまで至るパイプラインの建設を決定。新米州における石油採掘事業は国家プロジェクトとして進められることになったのである。

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― 新着の感想 ―
町までのパイプラインをしいて送るやつかな?
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