新地球関連法
「新地球関連法」
大日本帝国が迷い込んだ異世界——「新地球」の常識と国内法を擦り合わせるため生み出されたこの法案。これの審議が委員会によって開始されたのが9月上旬である。
戦時下の特例により、帝国議会での審議をパスするなどしてこの法案はスピード承認が進み、天皇によって制定、公布されたのがなんと9月下旬のことであった。そして、それが施行されたのが新たな記念日となる10月4日だ。
この日、大日本帝国は本当の意味で「新地球」の一員となった。
新地球関連法案の主な内容としては、
・国内における魔法、魔導使用の規制
・国内における科学技術の海外移転の規制
・新地球で流通している奴隷、魔薬等の商品購入の規制
・航空船舶の国内における飛行の規制
・海上船舶の航行ルールを新地球の慣行に倣う形で変更
・国内における新地球外国人の扱いについて
・国内における新地球外国人による商業活動について
——等が挙げられる。
これの制定により、大日本帝国の企業は正式に新地球諸国との貿易が可能となった。
「遂に『新米州』への開拓団が出港します」
日セ戦争の終結に伴って、国内は戦時体制から一段階引き下げられた準軍事体制となり、制限付きではあるものの自由な経済活動が再開された。
待ってましたと言わんばかりに、3大財閥を始めとした様々な経済団体による大船団が次々と編成され、大日本帝国が新世界に新たに獲得した領土、「新アメリカ州」「新カリブ州」への入植や、カンブル連邦、ダウナー連合王国との貿易活動が始まった。
特に、国家プロジェクトとして進められることになる新領土の入植、開拓事業は重要である。彼らの国家戦略的な目標は、「食料の安定生産」と「原油の探索」、「魔鉱の採取・研究」の3つに定められた。
食料の安定生産は、清国、民国といった広大な穀倉地帯を持つ隣国を失った日本にとって喫緊の課題であった。
本土の限りある農地だけでは1億数千万もの人間を満足には養いきれない。これまで通りの豊かな食生活を支えるためには、新米州の広大な土地を活かした大規模農園の開発は不可欠であった。
原油の探索、これもエネルギーその他諸々を原油に依存している日本にとって喫緊の課題と言える。
エスニア帝国から手に入れた情報でこの世界にも石油が存在していることは明らかになっている。また、テキサスに酷似した地形をしている新米州においては、石油地帯らしき存在が航空写真から確認されている。後は、現地に行って確認するだけだ。
魔鉱の採取・研究というのは、この新地球において最重要とされる魔法・魔導の技術を日本社会に取り入れる試みである。
日本政府はこの新地球に溶け込むためには、魔法・魔導の造詣を深めることが不可欠だと考えている。何も知らないままでは外交上の不利益を被る可能性があるためだ。カンブル連邦と連合王国で用いられるドレイツ魔法、セーネス王国を始めとする多くの国で用いられるアトゥス魔法の両方から研究する用意を始めている。
また、3つの戦略目標からは外れるが、日用品の大量生産という課題もある。
過去の地球において、日本で消費される日用品の殆どは、賃金の安い共産中国や東南アジアで生産されていた。それらが消失した現在、日本本土では深刻な日用品不足に陥っている。それを解消すべく、新加州やカンブル連邦の沿岸地域に大規模な工業地帯を開発する構想が誕生したのだ。
独立したてのカンブル連邦には連合王国植民地時代に開発された農業と魔鉱山採掘しか産業が無かったため、この日本による大規模投資構想は受け入れられるだろうと予想されている。
上記の目標を達成するためには多額の資金が必要となる。その資金を捻出したのは財閥だった。正確に言えば財閥傘下の銀行を始めとする大手金融機関であった。
外国の消失と戦時体制の引き締めによって各種金融機関は疲弊し続け、国内経済の冷え込みに伴い大手の金融機関は投資先を国に依存していった。
その様な状況下で国は戦争に完勝、殆ど人的ロスを出さずに大量の外資を手に入れた。これにより、国や軍に出資していた金融機関はフィーバー状態となる。このままの勢いで新地球に乗り出せとばかりに、大盤振る舞いの出資が次々と決まっていったのだった。
日セ戦争の終結、またそれに伴う新領土の獲得を機に、大日本帝国3軍も組織を再編することになった。
陸軍は3方面司令部と台湾軍司令部からなる本土総軍の他に、消失した大陸総軍に代わって新米軍、新加軍からなる新世界総軍が創設され、新世界領土の防衛を担うことに。
空軍も本土の第1航空軍、沖縄諸島・台湾方面の第3航空軍に加え、元朝鮮・満州方面だった第2航空軍の管轄を新米州方面、元上海方面だった第4航空軍の管轄を新加州方面に再編した。
海軍には大きな組織変更は起こらなかったが、セーネス王国から租借したカラリー港を始めとする新たな領土に基地守備隊と航空部隊を配置することが決定された。
大日本帝国3軍はこれから、安全に民間活動を行うための盾として日本本土を飛び出し、中央世界そして新世界の各地において活躍することとなる。




