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条約締結

「大日本帝国軍……だと……」

「貴方がセーネスの国王ですかな。であれば、今すぐに停戦の下命を。これ以上の被害を出したくなければ——」

「解っておるわ……その用意をしていた所に貴様らが飛び込んできたのだ」


 2025年8月26日。セーネス王国はその日のうちに全土に無条件降伏の報を発令した。

 大日本帝国からの攻撃が止んだ事で安堵した者、自国軍の不甲斐なさに憤慨する者、これからの生活に不安を感じる者、国民の反応は様々であった。しかし、一様に皆感じていたのは、異民族異教徒による支配に対する恐怖であった。


「神よ……我々の様な敬虔なアトゥス教徒をなぜ見捨てるのですか……」


 教会には大勢の人が詰めかけ、神へ祈った。神聖典派(正教徒)民聖典派(新教徒)問わず、一様に頭を垂れた。

 アトゥス教徒が新世界人に対して行った振る舞いは皆知っている。新世界人が報復しにやってきたというデマが巷で広まっていた。


「誰も目を合わせてくれませんね」

「そりゃあそうだ、俺らは占領軍なんだから」

「いや、それ以上になんか気味悪がられているというか……」


 日本軍に占領された王都ファルスからは多くの住民が逃げ出していた。残ったのは地方に伝手を持たない者達だけである。

 彼らは皆が緑の服を着て謎の鉄器を掲げる異形の軍隊を見て気味悪がっていた。


「あれが西の野蛮人か」

「シッ……聞かれたら殺されるわよ」

「魔法が使えないんだ、俺たちの言葉なんか解らないさ」


 言葉が通じないことも相まって、住民と占領軍の間で交流が行われることは全くと言っていいほど無かった。

 日本軍は鎮圧した王宮周辺のみを警備しており、市内の治安維持は今まで通りファルス市警が行っていた事で、日本人が市内に溶け込むことも無かった。


 その様な状況の中、ファルス王国と大日本帝国における正式な最初の会談が開始された。


「我が国が貴国に求めるのはこちらです」


・大日本帝国の主権を認める

・大日本帝国への賠償

・大日本帝国による為替設定権を認める

・大日本帝国のセーネス王国に対する投資権を認める

・大日本帝国人民のセーネス国内における治外法権を認める

・新世界領土の放棄

・奴隷制度の即時撤廃

・パルサリョール臨時共和国、ネアスポリス臨時共和国の独立

・カラリー港の大日本帝国による99年租借

・魔法技術研究への惜しみない協力


「——貴国の外交問題や内政にこれ以上の口を挟むつもりはありません。戦争も短期に終わった事ですし、貴方方としてもこれ以上の条件は無いと思われますが、どうでしょう?」

「こんな賠償金……払い切れるのか内務卿」

「む、無理でございます! とても、とても、国家予算50年分を優に超える額ですぞ」

「であれば、我が国からの借款という形で毎年一定額というのは、どうでしょうか?」


 大日本帝国が求めたのは、経済的な隷属と言っても良いものであった。

 「地球」での資本が紙切れとなった今、大日本帝国は投資に用いる海外資本を求めていた。これをセーネスからの賠償金で調達することにしたのだ。


「仕方あるまい。我が国は無条件で降伏したのだ。これを飲もう」

「国王陛下……」


 2025年9月1日、セーネス国王アン6世は降伏文書に調印。正式に日セ戦争は終結の運びとなった。今後の戦後処理は、日本本土よりやって来る外務省の使節団に一任されることになる。




——————————


「さて、河合殿。通商条約の話し合いを始めましょう」


 ところ変わってダウナー連合王国、王領ドウナー。こちらには外務副大臣河合が派遣され、通商条約締結に向けた話し合いが行われていた。


「まず、我が国といたしましては、大日本帝国と貴国——ダウナー連合王国は対等な主権国家同士あることを確認したい。宜しいですね」

「異論はありません」


 両者の会談は翻訳魔法のおかげでかなり円滑に運んだ。通訳の必要がないことがこれ程までに便利なのかと、外務官僚たちは驚くことになった。


「ではまず、両国への入国条件について——」


 両国のパスポート、ビザ、旅客に関する規定といったものから始まり、商業活動に関する規定、国際船舶ルールの擦り合わせなど、様々なことが徐々に決められてゆく。

 「新地球」の国際ルールに則る形で日本側が譲歩する場面も多々あった。


「これは国内法の改正が急務ですね……」

「我々はまだこちらの常識を知らなすぎたか」


 日本側は新地球で初の外交交渉に手こずることになる。特に頭を悩ませたのが、「円」と連合王国の通貨「ポフ」の為替相場の設定である。


「ええ!? 『錬金術』とやらで金が増やせるのですか!?」


 日本側は当初、不変資産の王道「金」を基軸とする為替取引を提案した。しかし、連合王国側からすれば幾らでも量産できる金属などただのガラクタに過ぎなかった。

 対して連合王国側から提案されたのは、「魔鉱」を基軸とする案だ。魔鉱本位制はこの世界ではごく一般的となっている国際取引の制度である。しかし、日本側は流石に反対せざるを得なかった。


「『魔鉱』なんてもの、我々は1gたりとも保有していないのです。それが基軸となれば、我々はまず魔鉱を高値で買い付ける必要が出てくる。それはあまりにも不公平だ」


 熱い議論の末、最終的には固定相場を2ヶ月に1度見直しながら調整するという案が取られることになる。経済規模が不明瞭な両国において、最初は混乱必至であるが、手探りで地道に修正していこうということになったのだ。

 その後は、日ダ間の小麦などにかかる関税協定も結ばれた。


 2025年9月、カンブル連邦や独立したてのパルサリョール共和国、ネアスポリス共和国とも同様の通商条約が結ばれることとなる。

 大日本帝国の「新地球」における貿易が始まったのは2025年10月4日のことだった。

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― 新着の感想 ―
常識的に考えて、日本がセーネスを「奴隷制度撤廃」だけで許したとは、とても思えないのですが。 獣人や魔法が使えない者に対する差別を、完全に無くさないと、満足するとは思えない。 もっとも、それをやると「…
気付かなかったのが迂闊でしたが、この回の日本とセーネスの条約、肝心なことが抜けていませんか? 普通に考えて日本は、セーネス側に差別撤廃を要求したはずです。 獣人や魔法が使えない者を、今後一切差別しない…
そう言えばセーネス人、日本人が宗教のことを問題にしなかった。そのことについては、ほっとしているのでしょうか?
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