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閃光とエアボーン

 日本がセーネス全土にビラを撒いてから、セーネス王宮では御前会議が毎日のように開かれていた。しかし、戦争継続派と停戦派の間で溝が埋まることはなく、対立は激化する一方であった。


「既に3つの属国と2つの属州が反乱軍によって制圧されました。もはや時間はありません、軍は国内に注力すべきです」

「でもだな……」

「でもじゃありません!」

「ではどうしろというのだ! パルサリョールを手放せというのか!」


 国王を始めとする中央の貴族や、パルサリョールに利権を持つ貴族、商人は戦争継続を望んでいた。今停戦しては日本と通じたパルサリョールの独立が確実となってしまうからである。

 しかし、地方貴族の間では停戦派が既に多数を占めていた。王都ファルスにいる間に自らの領地にまで反乱が広がるのを恐れたのである。また、海上貿易が滞ることで赤字が拡大している海洋商人ギルドは停戦派の先鋒に立っていた。


「国王陛下はこれ以上の損失をこの国に強いるお積もりですか!」

「陛下に対してその物言い、無礼であるぞ」

「いいえ、私は申し上げます。陛下、今が決断の時なのです」


 会議は紛糾していた。

 そんな時、王都に飛来したのは1機の、たった1機の重爆撃機であった。

 天気は快晴。その機体は挑発するかの様に王宮上空を旋回していた。ずんぐりむっくりな形状の巨大な機体は容易に地上から肉眼で捉えることが可能だった。


「何だあれは」

「日本軍の航空艦か!」


 セーネス国王も、軍も、閣僚も、ファルス市民も皆が空を見上げる中、機体は高度をぐんぐんと上げてゆく。鈍足な飛行艦艇では追いつけない。竜たちの攻撃も届かない。そうこうしている内に重爆撃機は東の方へ飛び去っていった。


「何をしに来たんだ……」


 軍人の一人が発した疑問。それはすぐに分かることになる。


 ファルスの東、山2つ超えた先にもう1つの太陽が出現した。

 日本軍は小型の戦術()()()()を投下したのだ。


「な、何だあ!? ありゃあ!?!?」


 ファルス市内で直接的な死者は出なかったが、その途轍もない爆音と閃光、全てのガラスを吹き飛ばす衝撃波に市民は恐怖、戦慄した。


 すぐに王室直属の近衛航空艦隊が現場の調査に派遣されたが、彼らは常識では考えられない光景を目にする事になる。


「地形が……変わってら」


 航空艦隊の船員たちは、幾つかの山を同時に禿山に変えたその攻撃の威力に凍りついた。


「もしあれが、あのままファルスの真上で炸裂していたら……」


 彼らは考えたくなかった。しかし、もしも起こり得たかもしれない酷い惨状が脳裏を過ぎらずにはいられなかった。




——————————


 2025年8月23日。なかなか白旗を上げないセーネスに対して、日本軍は強硬手段に舵を切る。

 その最初の1撃がファルス近郊への原子爆弾の投下であった。


 翌24日。西海岸沿いの港湾都市ブレース、ブルドーに巡航ミサイルによる無慈悲な攻撃が実行された。


 そのまた翌日の25日。連合王国内で日セ両大使による会談が行われたが、セーネス大使の高圧的な態度に日本大使は憤慨。交渉は決裂する。

 その日のうちにセーネス全土に大規模な弾道ミサイル攻撃が実行された。特に連合王国に最も近いカラリーの街には核弾頭が投下され、港町自体を一瞬で消滅させた。これは、中々日本側に協力する姿勢を見せない連合王国への示威の意図もあった。


「国王陛下、このままでは1週間と国が保ちません。一刻も早い停戦を」


 国土全体を数日のうちに焼け野原にされた事により、御前会議において継戦派は皆無となった。


「数日前まではあれほど啖呵を切っていたではないか貴様……」


 あれほどグランダルメ(己の軍)への自信に満ちていていた大元帥でさえ、今では停戦派にまわっている。それもそのはず、彼とて領地を持つ貴族。民をこうも一方的に焼かれてしまえば権力基盤は崩壊するのだ。


「大元帥アラン・デ・ベルトランよ」


 国王は力無い声で暗い顔の男の名を呼ぶ。


「はっ」

「今から連合王国へ向かえ。貴様には私に変わって全権を与える」


 中央集権の進んだ王国とはいえ、貴族、閣僚、軍、全てに逆らう決定を下せる程、王権は強くはない。王は、敗軍の将となる決意を固めた。


「……拝命しました」


 艦隊を失ってから1月もしない間の出来事に、みな理解が追いつかなかった。しかし、これだけは解る。日本を敵に回してはならなかった、ということだ。


 この重苦しい空気。これを破壊したのは血相変えて飛び込んできたグランダルメ参謀部からの伝令である。


「御前会議中失礼します、ご無礼お許しください。に、ニポン軍の、ニポン軍の航空隊が再び現れましたァ!」


 その伝令の顔は青く染まっていた。


「まさか」

「あの攻撃を」

「今度こそ、この王都に行うというのか!?」




——————————


 日本軍のスピードはいつだってセーネスの想像の遥か上をゆく。

 数日の偵察と()()()情報筋から敵航空部隊の配置を掴んでいた日本軍は、艦隊からの巡航ミサイルでこれを一瞬にして沈黙させた。


 刻を合わせて数分後に到着した航空隊の陣容は、護衛の戦闘機が32機に続き、輸送機が16機、遅れて戦闘ヘリが24機だ。


 同時に1000人近くの人員と16両の戦闘車を投下したエアボーン作戦はまさに圧巻であった。

 王宮殿の庭に集結した彼ら第1独立落下傘旅団は、次々と湧いてくる近衛兵たちを、機関銃の力で無力化していった。

 城外から集まってくる歩兵たちには戦闘機や戦闘ヘリからのロケット弾、重機関銃が浴びせられ、次々とひき肉に変えられていった。

 宮殿内に王侯貴族や閣僚たちを守る軍はもう居ない。


「大日本帝国軍だ! 全員その場に伏せろ!」


 日本軍の王宮制圧作戦が成功した事により、日セ戦争は終わりを迎えた。




——————————


「エージェント全員のファルス脱出が確認できました」

「よし、日本軍の占領下の間は暫く撤収だ」


 妖精たちの暗躍も一先ずの休息を迎えることとなった。


「しかし、ホントにたった数日で制圧しちゃうんだね、凄いや」


 荒廃したカラリーの街へ向かう彼らは、新たな世界の幕開けを感じ取っていた。

 一同、その恐怖とワクワクに羽をピクピクと震わせるのだった。

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― 新着の感想 ―
一つ疑問が残っています。 通常、小型の核兵器程度では、地形は変わりません。 山一つ吹き飛ばそうと思ったら、最低でも、地中貫通爆弾に仕込んで地下で爆発させないと。
「全滅の余波」で語られた「中央帝国」の出番が無かったのはなぜなのでしょう?  どうやら、火事場泥棒をやるつもりだったみたいですが。  日本側の動きが早すぎて、準備ないし侵攻が間に合わなかったのでしょう…
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