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公開討論〜愛と伝統の彼岸〜

遠くで鐘が鳴り始める。黎明はまだ遠いが、真斗たち四人の心には強い決意の灯火がともった。宰相と伝統派貴族の陰謀を打ち破るため、そして『理想の恋愛』をこの国に根付かせるための、最後の戦い──公開討論会が、間もなく幕を開ける。



王都中央にある「アストリア開かれた議場」は、夜明け前から大勢の民衆や貴族、商人、学者で埋め尽くされていた。


壇上には真斗、アリシア、リリィ、セリス、そして伝統派の代表としてラルフ侯爵と宰相グレイバーンが並ぶ。


上空から魔法で照らされた舞台は、まるで新しい時代の始まりを告げるかのように輝いている。



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議長の宣言で始まった討論会。最初にマイクを握ったのはラルフ侯爵だった。


「伝統とは血と歴史の結晶だ。この国の安定は、先祖から紡がれた習わしを守ることでしか保てない。自由恋愛などという実験的な概念は、家族の絆と国家の未来を破壊する危険な毒薬に他ならない!」


会場の一部からは拍手が起きる。一瞬の静寂を置いて、真斗がゆっくりと前に進み出た。



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「侯爵の言う伝統は確かに尊い。しかし、人の心を蔑ろにしてまで守る価値があるのか? 僕たちが求めるのは、血縁の鎖ではなく、互いが選び合う絆だ」


《共感触媒》をそっと働かせながら、真斗は聴衆の感情の揺れを視覚化し、自分の言葉が届いていることを確かめる。


「愛と選択の自由は、国を強く創造的にする。真実の誓いがあるからこそ、民は王を、王は民を信じることができるのです」



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続いてアリシアが声を震わせず、堂々と語る。


「私はエルメリア家の長女として、権力の重圧に縛られてきました。でも、真斗さんと出会い、本当の声を聴く勇気を得た。政略結婚ではなく、心を繋ぐ誓いこそ、家族の本質を強くするものです」


リリィは可憐にマイクを受け取ると、聴衆に向けてはじける笑顔で言った。


「学校でも恋愛を、学ぶ環境ができて、みんなが自分の気持ちと向き合えるようになった! 苦しくても悩んでも、それが、本当の私を育てるんです♪」


最後にセリスが静かに立ち上がり、凛とした声を響かせる。


「国の繁栄は、個人の幸福と相反するものではありません。むしろ幸福な民こそ国家の礎となる。令嬢も、平民も、誰もが尊厳と選択を持つ社会こそ、未来を切り拓くのです」



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宰相グレイバーンが最後の口を開く。


「理想を語るのは自由だ。しかし、制度は現実を前提に作られる。過去の事例を見よ、無秩序な結婚解約は混乱を招き、貴族家の相続も滞る――」


その瞬間、客席から地方領主や市民代表が次々と手を挙げ、データや実例を示しながら「実際に混乱は起こっていない」「むしろ旧制度の犠牲者が減った」という報告を始めた。グレイバーンの眉がぴくりと動く。



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夜が明け、東の空が紅に染まる頃、討論会は終幕を迎えた。最後に議長が宣言を読み上げる。


「討論を経て得られた賛成多数により、自由恋愛保障法は維持され、政略結婚登録制度の改良案が付帯決議として可決される」


会場に歓声が沸き起こる。真斗たちは互いに微笑み、肩を固く組み合った。黎明の光が王都を包み込み、まさに「愛と伝統の彼岸」を越えた瞬間だった。


だがその背後――陰から見守るラルフ侯爵と宰相の顔には、まだ消えぬ闇の色が残っている。王国の未来を揺るがす真の試練は、これからが本番なのかもしれない。


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