侯爵の策謀〜揺れる心と決断の夜宴〜
夜闇が深まる王宮庭園。月光を切り裂くように、ラルフ侯爵の密使が駆け込んできた。
「侯爵が次の夜宴を催し、各派の貴族を一堂に集めるつもりです。その席で、あなた方の自由恋愛保障法を、国家反逆行為と断じ、廃止を迫る計画とのこと――」
真斗は、三人の瞳を交互に見つめた。リリィの頬に一瞬陰りが走り、セリスは眉間に冷たい皺を寄せ、アリシアは静かに唇を噛む。
「きっと、夜宴の舞台裏には、侯爵の罠が張り巡らされている」
セリスが低く呟く。王女としての洞察と警戒心が、彼女の言葉を強くした。
「それでも、参加しないわけにはいかない。公の場で反論しないと、民の支持も揺らいでしまうわ」
アリシアは毅然と言い放つ。政略結婚を断じて拒んできた彼女の胆力が、その声に込められていた。
「僕たちは本当の愛の証人――この場で、侯爵の策略を暴いてみせる」
真斗は軽く拳を握りしめ、三人に向かって頷いた。
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夜宴の晩、着飾った貴族たちが玉座の間を埋め尽くす。煌めくシャンデリアの下、侯爵は余裕の笑みを浮かべ、真斗たちを迎えた。
「おや、真斗君、そしてその――お付きの美麗な皆様。よくおいでいただいた」
侯爵の声は甘いが、毒を含んでいる。
セリスが凛とした声音で応じる。
「侯爵、あなたの宴は民主的討論の場ではない。罠を仕掛けるなら覚悟しなさい」
侯爵は軽く手を掲げ、宴の開始を告げた。すると、周囲の貴族たちがざわめき、王宮衛士が廊下の扉を固く閉ざす。
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侯爵は壇上に上がり、声を張り上げた。
「自由恋愛保障法は王国の根幹を揺るがす。家族の絆を壊し、国家の安定を乱す暴挙だ! ここにいる皆、この法案の即時撤廃を求める!」
貴族たちが次々に賛同の声を上げ、真斗たちを包囲しようとする。だが、間を置かずにアリシアが立ち上がった。
「侯爵、その発言は誤りです。私はエルメリア家の長女としてここに立っている。民の声を聞き、彼らの幸福を願うのが本来の誇りではありませんか?」
彼女の声は震えず、毅然としていた。だが、視線の先では真斗が無言の応援を送っている。
次にリリィが歩み寄り、可憐に手を掲げた。
「私たち学生も、この法のおかげで恋の選択を学べるようになった! 誰だって愛する権利があるって、教えてもらったんです!」
可憐な笑顔と真っ直ぐな訴えは、貴族たちの心に小さな揺れを起こす。
最後にセリスが静かに歩み出た。
「王女として、この国の未来を見据えます。国家繁栄と個人の幸福は相反しない。むしろ、本物の絆が強固な同盟を築くのです」
彼女の威厳ある言葉は、廷臣たちの視線を釘付けにした。
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壇上に戻った真斗は深呼吸を一つ。そして、侯爵を真正面から見据えて言い放った。
「侯爵、あなたは家名と権力を守りたいだけだ。本当の国家の安定が何か、理解していない。法案は暴挙ではなく、人の心を尊重する――国を強くする礎です」
彼の一言に、会場は静寂に包まれた。侯爵の顔色が一瞬強張る。続いて、衆議の声が割れ始める。
「本当に、この法を廃止すべきか?」
「民の意見を聞いてみようではないか」
貴族たちの大半が改めて思案し始め、侯爵の勢いは止まった。開かれた議場で培った討論の力が、この場にも波及していく。
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夜宴は閉会を迎えた。廊下の扉が再び開き、衛士が席を解放する。侯爵は無言で退廷し、そのまま何事もなかったかのように宰相の控え室へ消えた。
庭園へ出た真斗たち四人は、深呼吸を共にする。月明かりが水面に揺れ、夜宴の熱気が静かに冷めていく。
「君たちのおかげで、本当に議論が変わった」
真斗は三人に礼を述べる。リリィは輝く笑顔で、セリスは静かに頷き、アリシアは微笑んで言った。
「これからも、私たちの恋と政治を貫いていきましょう」
三人の瞳がきらりと光る。
真斗は再び拳を握りしめた。
「約束する。この国の未来も、君たちの想いも、俺が守り抜く――恋の駆け引きは、まだ終わらないんだ」
夜風が吹き抜ける庭園。四つの影はひとつになり、次なる試練へと静かに歩み出した。