影が潜む舞踏会〜真実の求婚〜
王都の夜空に満天の星が輝く中、アストリア王家の舞踏会が開かれた。政略結婚を断ったアリシアを庇護する大義名分として、王宮は「新たな同盟」を祝う場を設けたのだ。だが、その華やかさの裏には、さらなる陰謀が蠢いていた。
舞踏会場の大広間には、シャンデリアの光が乱反射し、貴族たちの絢爛な装束が浮かび上がる。真斗はタキシードの右ポケットに、手作りの小さな花飾りを忍ばせていた──アリシアへの真実の求婚の証として。
「真斗さん……随分と緊張してる様子ね」
リリィが囁く。淡い桜色のドレスに身を包み、彼女の眼差しはどこか心配げだ。
「……大丈夫。今度こそ、俺の言葉だけでアリシアを守る」
真斗は深呼吸し、大広間の中央でアリシアを待つ。
そこへ、絹のドレスに銀の刺繍を施したアリシアが現れた。髪をまとめた後ろ姿に、真斗の胸は高鳴る。
「真斗さん。今日は……ありがとう」
アリシアは小さく微笑むと、一歩また一歩と歩み寄る。
舞踏会が始まると、貴族たちは社交の輪を広げる。が、その傍らでは、冷たい声が囁かれていた。
「フォン・エルメリア家の姫が、ついに自由恋愛を選ぶとはな……王室の面子が潰れたようなものだ」
「だが、その背後には異邦の者――真斗という名の恋愛狂がいる。奴を排除できれば、元に戻せるだろう」
耳にしたのは、旧貴族連合の影の主導者、ベネディクト伯爵の言葉。彼は密かに忠臣を王宮に送り込み、反乱の機会を窺っていた。
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音楽が一段と高まると、真斗はアリシアの手を取り、踊り始めた。リリィとセリスはその周囲で見守る。
「アリシア、俺は君を守る」
「ええ……信じてるわ」
真斗は息を整え、胸の内に秘めた言葉を紡ぐ。
「君がどんな困難に遭おうと、君の意志を尊重する。俺は魔法も政治も使わず、ただ君の声と言葉と笑顔を守りたい。そして……」
真斗はポケットから小箱を取り出し、アリシアに差し出す。
「これを受け取ってほしい。俺の真実の誓いだ」
箱を開けると、そこには淡い月光を湛えた白銀の指輪。アリシアの瞳に、喜びと驚きが交錯した。
「真斗さん……これは?」
「君に心から伝えたい。僕は君を愛してる。政略も魔法もいらない。君が君でいてくれるだけでいいんだ──アリシア・フォン・エルメリア、僕と結婚してほしい」
静寂の中、大広間の時計塔が終着の鐘を鳴らす。全員の視線がふたりに集中し息を呑む。
だが、その瞬間、場内の扉が乱暴に開かれ、重装騎士が飛び込んできた。
「緊急事態! ベネディクト伯爵派の刺客が城壁を越え、王都へ侵入を開始しました!」
ざわめきが広がる中、真斗はアリシアの手をそっと握りしめる。
「リリィ、セリス、君たちも……!」
「もちろん。あなたと一緒なら、どこまでも――」
セリスが毅然と言い放つ。
「行きましょう、真斗さん。あの伯爵の野望を、私たちで止めるのです!」