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魔法と誓い〜理想を貫く覚悟〜

王都アストリア――煌びやかな大理石の大通りを進む真斗の胸中に、新たな覚悟が芽生えていた。貴族と民衆の視線が交錯するなか、彼はふと足を止める。


「恋愛魔法……使わないって決めたのに、本当に大丈夫かな」


頭の片隅に、ラグナが授けた「恋愛誘引アムール・アトラクシオン」──使えば相手の感情を自在に揺さぶれる禁断の魔法。だが真斗は、「自分の力で、本物の感情を得る」ことを至上命題に掲げた。便利なチートを一度放棄した以上、もう後戻りはできない。


──学院の中庭。石造りの噴水を背に、アリシアが待っていた。


「真斗さん、今日はお話があるの」

「……アリシア?」


金糸をあしらった白銀のドレスが春風に揺れる。彼女の横顔には、いつもの気高さとは異なる切実さが滲んでいた。


「私の政略婚約が、本格的に動き出すわ。父が相手に選んだのは、隣国ヴェルデールの皇子──レグナ公。来週、正式な婚約式が執り行われるらしい」

「それは……君の自由が、ますます奪われるってことだな」

「ええ。でも、真斗さんに出会ってから、私は初めて『自分の意思で愛し、愛される』ことを考えた。だから、逃げたいの――」


アリシアは震える声で指先を重ねる。真斗がそっと手を伸ばすと、彼女の瞳は一瞬だけ柔らかな光を帯びた。


「もし君が私の側にいてくれるなら……政略も、魔法も、全部拒んで、二人で戦いたい」

「アリシア、約束する。俺は魔法にも、政治的な駆け引きにも頼らない。君の本心を信じるだけ――それが俺の理想だ」


──その誓いを告げた瞬間、真斗の胸に暖かな確信が宿った。



====

春の陽射しが差す魔法学院の講義室。今日は「政略結婚と社会構造」の授業だ。教授の厳かな声が響く。


「中世アストリアにおいて、婚姻は最も強力な同盟手段である。愛情は二次的要素……だが近年、若き王族たちが運動を起こしつつあるのも事実だ」


教室の空気は重い。リリィはノートを取りながらも、何度もこちらを見ている。放課後、彼女を誘い――真斗は静かに話し始めた。


「リリィ、俺はアリシアの婚約式に行くつもりだ。見届けて、彼女の本心を知りたいんだ」

「真斗くん……それって、大変じゃない? でも……私も一緒に行きたい!」


リリィの瞳には、決意と迷いが交錯していた。天然な笑顔の裏に、小さな覚悟の炎を燃やしている。


「ありがとう、リリィ。でも、もし危険があったら……」

「何言ってるの! 真斗くんが選んだ道なら、私も全力で支えるって約束するよ!」


彼女の声に、真斗は静かに頷いた。



====

その夜――王宮の庭園。淡い月明かりの下、皇子レグナ公と向き合うアリシア。豪奢な馬車と警備兵に囲まれた異様な空間で、真斗とリリィは遠巻きに見守る。


「フォン・エルメリア家の姫君、アリシア・フォン・エルメリア。私は、この婚約を快諾する」

「……あなたの考えを尊重します。しかし、私の心は、あなたではなく――」


アリシアの声が震え、皇子は冷たい微笑みを浮かべた。と、そのとき――


──闇の魔法陣が庭園を包み込む。皇子の側近たちが騒然とし、アリシアは身を硬くした。


「貴様ら、何を――!」


混乱の最中、真斗はリリィから預かった小瓶を取り出す。それは、感情解放の香油エモーション・エリーサという秘薬。使えば相手の感情を一時的に素直にする効果があるが、あくまで『魔法』ではなく『薬学』の範疇だ。


「これなら……」


真斗は躊躇いなく小瓶の蓋を開け、柔らかな匂いを風に乗せた。アリシアの頬がひそかに紅潮し、揺れる花嫁衣装の裾が震えた。


「真斗……?」


彼女の瞳に、これまで見たことのない素直さが宿る。だが真斗は、これを一時の手段と心得ている。


「アリシア、君の本当の声を、俺に聞かせてくれ――」



====

――月明かりの下、乱れた絹と香油の残り香に包まれて、アリシアは小さく笑った。


「ありがとう、真斗さん。これで私、自分の声を取り戻せたわ。婚約式は中止にする。私は、この政略を断固拒否する」


皇子の怒声が響く。しかし、そこへセリスが現れ──


「その決断、妨げる権利は誰にもないはずよ」


王族としての威厳を振るいながら、セリスは周囲の重装騎士たちを制した。真斗、アリシア、リリィ、セリス。四人が月の光を浴びて立つ姿は、まるで新たな時代の幕開けを告げるようだった。


「私も同じ――国のしがらみに縛られることなく、心から愛し、愛されたい」

「その思い俺たちが守る」


真斗は固く拳を握った。魔法に頼らず、魔法でも壊せないほど強い「絆」を、この手で築いてみせる――。


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