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異世界で、恋愛を学ぶなんて誰が想像した?

目が覚めたとき、俺――真斗まさとは見知らぬ森の中にいた。


「……え、どこだここ?」


頭を抱える俺の周囲には、見たこともない巨木や、カラフルな花が咲き乱れ、空には淡い紫色の雲が浮かんでいた。まるでファンタジーRPGの中に迷い込んだような光景。けれど、何より俺の心を揺さぶったのは、突然脳内に流れ込んできた情報だった。


『あなたは「理想の恋愛」を実現するため、このアストリア王国に転生しました』


意味が分からない。けれど、確かにそれは俺の願いだった。


高校生活では恋愛らしい恋愛もできず、告白する勇気もないまま卒業を迎えるはずだった。でも、チャンスは突如として与えられたのだ――この異世界で、「理想の恋愛」を実現せよと。


「やってやろうじゃんか……!」


目の前に現れた初老の魔導士――ラグナに助けられた俺は、王都へと連れて行かれ、彼の紹介で魔法学院に通うこととなった。魔法は初心者だが、俺には特別な「スキル」があった。


《恋愛観察眼》:相手の感情の揺れを視覚化できる


《共感触媒》:一定の距離と会話で、相手の心情に共鳴しやすくなる


恋愛ゲームなら最強のチートだ。けれど、すぐに分かる。この世界での恋愛は、そんな甘いものではないと。



====

「私はアリシア・フォン・エルメリア。あなたが、異邦の生徒ね?」


そう言って俺の前に現れたのは、透き通るような金髪と碧眼を持つ少女。貴族中の貴族、エルメリア家の長女であり、この学院のトップでもある存在。話すだけで緊張するほどの高貴なオーラをまとっていた。


でも俺のスキルは、彼女の微かな感情の揺れを捉えていた。


(彼女……寂しさを隠してる?)


どこか冷たい態度の奥に、孤独の色が滲んでいた。そんな彼女と、徐々に交流を深めていく中で、俺は知る。彼女にはすでに「政略結婚」が決まっているということを。


「私は……心で誰かを選んではいけないのよ」


その言葉が、胸に残った。



====

そんなある日、俺に元気よく話しかけてきたのが、リリィだった。


「ねぇねぇ、真斗くんってさ、好きな人いるの?」


彼女は魔法学院の後輩で、勉強よりも恋バナが大好きな少女。天然で明るく、まるで太陽のような存在だ。俺が恋愛に悩んでいると知ると、彼女は「じゃあ、私が練習相手になってあげる!」と笑顔で言った。


……その言葉が、どれほど俺を救ったことか。


彼女の明るさに触れるたび、少しずつ俺の中の理想が形を持ちはじめた。好きな人と、自然に笑い合える日々。そういう恋愛こそ、本当に欲しいものなんじゃないかと。


けれどリリィの笑顔の裏にも、小さな不安の揺れがあった。


(……リリィ、お前……本当に「練習」のつもりか?)



====

そして、ある日、王族の馬車が学院にやってきた。


そこから降りてきたのは、銀色の髪に深紅の瞳を持つ、荘厳な女性だった。


「久しいな、ラグナ。……そして君が、異邦の者か」


彼女の名はセリス。アストリア王国の第三王女でありながら、慈愛と理知を兼ね備えた、王族の鏡のような女性だった。最初は高嶺の花だと思っていたが、彼女は俺にこう言った。


「理想の恋愛……面白いことを考えるのね。けれど、この国では理想は踏みにじられるものよ」


政治的な婚姻関係に縛られ、心の自由を奪われた彼女。その生き様に、俺は激しく心を揺さぶられた。


「俺は、諦めたくない。たとえこの国の文化がどうであろうと、自分の気持ちだけは……本物を貫きたいんです」


そう言った俺に、彼女はふっと笑った。


「ならば試してみるといい。この現実に、どれだけの理想が通じるのかを」



====

学院の中でも、俺の存在は徐々に注目され始めていた。異世界から来た恋愛狂と噂され、貴族たちからは侮蔑の視線を浴びることもある。けれど、それでも俺は進む。


アリシアの苦悩に寄り添い、リリィの無邪気な想いに触れ、セリスの覚悟に対峙する。


理想と現実のはざまで、心は揺れ続ける。


けれど、それこそが、恋愛というものなのだと。


だから、俺は誓う。


この異世界で必ず見つけ出す。


「心から誰かを想い、想われる――そんな恋を」


それが、俺がこの世界に転生した意味だから。


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