6話 決意
> 【サブミッション:近くのヘッドを倒せ】
対象地域:名古屋市西区
内容:暴力集団の“ヘッド”を撃破し、エリアの治安を改善せよ
状況:未着手
残り時間:24時間
【報酬】
・Skill Point+2
・新スキル習得(※詳細未定)
※本ミッションを放棄、または失敗した場合、
ペナルティエリアへの転送処理が発動します。
「……ペナルティエリア……?」
その言葉を読んだ瞬間、蓮の体がこわばった。
何だそれは。
刑務所? 罰ゲーム? それとも……もっとやばい“何か”?
画面を何度もスクロールする。
でも、その“ペナルティエリア”の説明は、どこにも書かれていなかった。
「隠してんのかよ……」
歯を噛みしめる。
このメニューは、時に説明不足で、時に冷酷だった。
選択肢はない。
放置すれば強制的に“どこかへ”飛ばされる──
それだけは確かな事実として、目の前に示されている。
「……クソッ……」
声に出しても何も変わらない。
けど、叫ばずにはいられなかった。
蓮は立ち上がった。
足元はまだ不安定で、全身に微かに残る疲労が重たかった。
(何なんだよ……さっきまで普通に大学通って、
たまに美桜と会って、それで……)
崩壊した日常の断片が、断ち切れたように頭を巡る。
そして今、自分は──
「……“24時間以内に殺し合いをしろ”ってことかよ……」
呆れにも似た笑いが、喉の奥でにじんだ。
それでも、メニューは淡々と“カウント”を続けていた。
> 【残り時間:23時間57分】
▶︎マップ:対象エリアの位置情報を表示
「位置情報まで出んのか……マジで“ゲーム”だな……」
いや違う。
もう、これは──ゲームじゃない。
でも、逃げられない“現実”だった。
「……行くしかねぇか」
蓮は、濡れたパーカーの裾を軽く引き直し、スマホをポケットに突っ込んだ。
その手は、まだ少しだけ震えていた。
「……彼女も失ったしな」
ポツリと呟く声が、部屋の静けさに溶けていった。
あの夜、あの場所で、
自分が動けなかったあの日から──すべてが変わった。
「……もう、なんもねぇか」
蓮は立ち上がり、部屋をぐるりと見渡す。
狭くて、汚くて、どこにでもあるようなアパートの一室。
だけど──ここが、唯一の居場所だった。
「……この家だって、安全ってわけじゃねぇ」
玄関の鍵はかろうじて生きてる。
けれど、外では暴徒がうろついている。
昼夜問わず、どこからともなく怒鳴り声やガラスが割れる音が聞こえることもある。
「……いつ暴漢にぶち破られてもおかしくねぇよな……」
メニューに表示された“サブミッション”の文字が、視界の端で点滅する。
> 【近くのヘッドを倒せ】
残り時間:23時間55分
「……近く、ってことは……」
蓮は息をひとつ吐き、ゆっくりと自分の周囲を見回した。
薄暗いカーテン越しの窓。
外の空気が、いつもより冷たく感じる。
「──つまり、俺の家の周り。
この辺を支配してる“ヘッド”ってヤツ……」
それを倒せば──
ひとまず、この家は少しだけ“安全”になるかもしれない。
「でも……」
言葉が喉で止まる。
「……たった2人の暴漢に、あのとき……俺は、殺されかけたんだぞ……」
拳がわずかに震えた。
あの絶望の感覚。
喉を絞められて、視界が狭まって、死の匂いが鼻を突いた瞬間。
(……本当に、俺に──)
頭の中で問いが巡る。
それでも、答えは出なかった。
ただ、ひとつ──確かなことがある。
「……今、逃げたら──俺、また後悔するよな……」
声にならない声で、胸の奥に呟いた。
少し間をおいて、再びメニューを開く。
> ▶︎マップ:対象エリアの位置情報を表示
「……とりあえず、近づいてみるか」
目を逸らさず、蓮はマップ表示をタップした。
画面には、現在位置とヘッドの“活動圏”らしき赤い円が、街の地図上に浮かび上がっていた。
「……なるほど。そこか」
場所は──自宅から徒歩10分もかからない場所だった。
「近ぇな……」
短く吐き捨てて、蓮はフードを被り直した。
“逃げる理由”も、“守るもの”も、すでにこの手には残っていない。
けれど──だからこそ。
「……やってやるよ、“ヘッド”」
そう呟き、静かにドアノブに手をかけた。
外はまだ、崩壊したままの日本だった。
* * *