5話 現実逃避
──国の復興。
画面に浮かぶその言葉を、蓮は黙って見つめていた。
しばらく、息をすることすら忘れていた。
「……無理だろ……」
ぽつりと呟いた言葉は、何の説得力もなく、空気に消えた。
「無理無理……無理ゲーすぎるって……」
肩が震えていた。
どんなに体が回復していようと、頭の中は未だにぐちゃぐちゃだ。
「俺が……国を、復興……?」
笑える。
けれど笑えなかった。
「何かの罰ゲームかよ……いや、これ、マジで俺……もうダメだ……」
蓮は布団に潜り込むように、顔を枕に押し付けた。
視界を塞ぎ、音を消す。
現実を──遮断する。
「今日はもう……寝る……何も考えない……」
そう言い聞かせて、まぶたを閉じた。
──ピコン。
静寂を破る、短い電子音。
「……またかよ……」
頭に響くその音に、蓮は嫌々と顔を出す。
空中に浮かんだ新たなウィンドウが、淡く点滅していた。
> 【サブミッション通知】
『近くのヘッドを倒せ』
新たなサブミッションが発生しました。
詳細をメニューからご確認ください。
「……まだ何かさせる気かよ……」
渋々、蓮は布団から腕を伸ばし、空間に向かって手をかざした。
「メニュー……」
再び浮かび上がる光の画面。
> 【サブミッション:近くのヘッドを倒せ】
対象地域:名古屋市西区
内容:暴力集団の“ヘッド”を撃破し、エリアの治安を改善せよ
状況:未着手
残り時間:24時間
【報酬】
・Skill Point+2
・新スキル習得(詳細未定)
※ミッションを放棄、または失敗した場合は
ペナルティエリアへ強制転送されます。
「は……?」
今度は“時間制限”?
そして、ペナルティエリアという聞き慣れない単語。
「ちょ、待てって……何それ……」
画面を何度も見直す。どこかに“いいえ”は無いか探す。
でも──選択肢はどこにもなかった。
「強制かよ……マジで……ゲームじゃん、こんなの……」
蓮は頭を抱え、天井を見つめた。
* * *