2話 メニューは“死の直前”に(続き)
「……っ、は……っ……」
肩で息をする。
手はまだ震えていた。血がついた支柱が指から滑り落ち、地面に鈍い音を立てた。
雨上がりの濡れた路地に、蒸れた空気と血の匂いがこもっている。
さっきまでいた暴漢は倒れているか、どこかへ逃げた。
蓮は、膝をついた。
「……なに、これ……」
目の前には、青白い光。
> 【スキル:反撃 Lv1】
【Skill Point:+1】
▶︎スキルツリーを見る
▶︎デイリーミッションを見る
「……これは、夢か?」
喉がからからだった。
ただの錯覚かと思って、目をこすった。
だが──消えない。
画面は、空中に浮いていた。
スマホも触っていない。視界の中に、はっきりと“存在して”いた。
「っ、ふざけんなよ……!」
蓮は両手で頭を抱え、乱れた呼吸のまま蹲った。
「なんだよ……なんなんだよ、これ……!」
自分が狂ったのか。
それとも、世界の方が狂ったのか。
今のスキル、あれは──
さっき、首を絞められたときに、反射的に使えた。
だとしたら、本当に“助けてくれた”のは──
「この……メニュー……なのか……?」
そう思うだけで、背筋が凍る。
ゲームのような見た目。
だけど、今この世界は「ゲーム」どころか「地獄」そのものだった。
蓮は、ゆっくりと立ち上がった。
足元がまだ不安定で、体がふらつく。
目の前のメニューは、何もせずとも“そこに”ある。
恐る恐る、指を伸ばした。
なぜか──触れられる気がした。
おそるおそる、画面の「スキルツリーを見る」をタップする。
指が触れた瞬間、視界が変わった。
青いラインが枝のように広がり、複数のスキルが「未習得」として並んでいた。
「……マジで、出てきやがった……」
頭がついていかない。
理解も、納得も、追いつかない。
でも──
「……さっき、俺は……あいつらに勝った」
それだけは、確かだった。
今までただ怯えていた自分が、今日、初めて“生き残った”。
「ふざけんな……俺は、もう……」
あの時、何もできなかった自分に。
今、震えながらも立っている自分に。
「──戻らねぇ」
そう、呟いた。
画面が、静かに次の選択肢を示していた。
> ▶︎デイリーミッションを確認しますか?
──基山 蓮は、まだ信じていない。
でも、抗うしかないと知っている。
だから、次へ進む。
* * *