SF作家のアキバ事件簿223 ミユリのブログ メカゴジラ-2.5編
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第223話「ミユリのブログ メカゴジラ -2.5編」。さて、今回はアキバで萌える以前のテリィとミユリの出逢いの物語。
"覚醒"したスーパーヒロインがミュータントとして差別されていた時代。死体に光る手形を残す殺人事件が発生、真っ先にミュータントが疑われますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 アキバで働くミユリのブログ
"今日からブログを始めるわ。アキバで働くメイドは、ブログが必修科目になってきたし…私は、今は期間限定のコンカフェにヘルプで入ってる。"メカゴジラ-2.5"、もう見た?今年のアヲデミー賞を総ナメにした日本お家芸のSF怪獣映画。御屋敷は、もう世界中からインバウンドが推し寄せて超満員ょ…"
窓辺から顔を出し星空を見上げながら、流行りのブログを描くミユリ。
手すりに巻かれた、季節外れのXmasライトがチープに明滅している。
"…実は5日前、私は死んだ。そして、私の世界は一変したの。あの日、あのカフェで…"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリは、銀のミニスカSFスーツ&黒サングラス。"メカゴジラ-2.5"の侵略宇宙人のコスプレだ。
「物販コーナーにスペースチタニウムで出来た獅子の置物があった!はるばるベトナムから来た甲斐があったYO!」
「あ、御主人様。ご着席ください…お待たせしました。こちらが黒岩司令ランチ、そちらの方はR-1号セットですね?他にご注文は?御一緒に金城冴子シェイクはいかがですか?」
「金城冴子シェイク?!どうする?」
サー姫風情のアジアン腐女子は、首を横に振る。
「うーん要らないみたいだ…残念だけど」
「お2人も"2.5レイブ"に?」
「そうだけど…貴女は秋葉原の人?」
「YES。曽祖父の代から」
すると、褐色肌のカップルは身を乗り出す。
「じゃ君の家族で"ブラックホール第2.5惑星人"のUFOが撃墜された時のコトを覚えてる人はいるかい?」
「実は、曽祖母からは誰にも見せるなと口止めされてルンですけれども…」
「わお!パンナコッタ…じゃなかった、何てこった!」
セピア色の新聞の切り抜きを見せる…その時、カフェの奥の席で激しい口論が始まる。激昂スル男達。
「何だと?!」
「待て!だから、俺は…」
「言い訳なんか聞きたくねぇ!」
うっかりサービスのコーヒーを注ぎに逝ったウェイトレスが怒鳴られている。よく見たら…スピアだw
「コーヒーのヲ代わりは?」
「要らねぇ!引っ込んでろ"ブラックホール第2.5惑星人"の女スパイ!」
「おい!メイドさんに謝れ!謝ってサッサと金を払いやがれ!」
憮然とした顔で引き下がるスピア。一方…
「これ、撃墜されたUFOを特別区が接収スル前に曽祖母が撃墜現場で命と引き換えに撮った写真です」
「何だってー?」
「貴女!コレ、誰かに見せたコトある?」
ヲタサー姫は、小鼻を膨らませて興奮。
「いいえ、誰にも。貴女が初めてよ…あ、ごめんなさい。また後で来ます。(顔を近づけ小声でw)誰にも見せないでくださいね。命を狙われるから」
「わかったわ」
「絶対に秘密は守るょ」
仲良く口チャックしてみせるアジアンカップル。苦笑しながらキッチンに戻るとスピアに小突かれる。
「また何も知らないインバウンドを騙して…テリィたんが見てるわょdelta tango bravoの方向」
「ヤメてょウソでしょ。ソンなコトある訳ナイじゃない。あの国民的SF作家のテリィ様が私を?いいえ、絶対にアリ得ナイわ」
「またまた。顔がニマニマしちゃってるわょ」
「ヤメてってば。第一、私にはカレルってTOがいるのよ。彼は誠実で、私にデレでテリィ様と違ってDDじゃナイし…」
「でも、今のミユリがハッピーには見えナイし」
一方、ホールの炎上は続く。
「ワンチャンスくれ!俺は、ただもう1日待ってくれと言ってるだけだ」
「だから、もう待てねぇと言ってる!」
「何だと?」
片方の男がテーブルのカップやソーサーを荒々しく払いのける。床に落ちた食器が割れ悲鳴が上がる。
「今日中にカタをつけやがれ!」
「無理だと言ってンだろ?」
「コレでもか?」
男が銃を抜く。銃口がラッパ型に開いた流行りの音響兵器だ。普通は痴漢撃退用で女子の持ち物だが…
甲高い発射音!弾かれたように倒れるミユリ。
「ミユリさん!僕を見て。しっかり…スピア、救急車を呼べ!」
「あ、はい…神田消防?救急車をお願い!コチラは"メカゴジラ-2.5カフェ"よっ急いで!」
「ああ。何てこった」
彼女を抱き起こす僕の脳内に、突然誰かの記憶が流れ込んで来る。彼女は…地底王国"パンティラ"の王女だ。王冠を斜めにかぶって微笑む。彼女の前を突撃隊形で行進スル地底戦車隊。ドリル付きのハンティングタイガーだと?僕はハッチを開け閲兵席の彼女を見上げて敬礼…コレは誰の記憶だ?
「あぁ何てこった!ミユリさん!」
銀のSFスーツの前をハダける。青い血がドクドクと流れ出す傷口にソッと手を当てる…ピクつく彼女。
「もう大丈夫だょミユリさん」
「テリィたん!ケッテンクラートのキー!」
「受け取れ」
声をかけて来た知らないメイドにキーを投げ、ピクつく彼女の水玉ブラにケチャップをかけ真っ赤にw
一部始終を見ているスピア。
「彼女は銃声を聞いて驚いただけだ。OK?」
「勝手なコトを言わないで。テリィたん、姉様の血は何で青いの?ってか、貴方、姉様ともつきあっていたの?私とつきあう前?後?」
「忘れた。エアリ(誰?)、逝くぞ」
店の前ではワイン色のケッテンクラートがエンジンを全開にして待っている。僕が飛び乗るや急発進。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ハダけたSFスーツの前を手で合わせヨロヨロと立ち上がるミユリ。乱れた髪が萌え…いや、セクシーw
「ミユリ、怪我したのか?!」
「YUI店長。違うの、ケチャップをコボしただけよ。私ったら倒れた時にコボしちゃって」
「そうか…怪我はナイのか?」
コンカフェのYUI店長が駆け寄る。スピアは駆けつけた万世橋の制服警官の聞き込みに全力対応中w
「ラッパ型の音波銃を持ってたのはマッチョなビーバス。もう1人は太めのバッドヘッドみたいな感じ」
「アメコミ?もっとマシな表現で頼むよ。 犯人は2次元じゃないんだから…おい!何だソレ?」
「アロマオイルょストレスが消えるの」
小瓶からアロマの香りを嗅ぐスピア。
「現場はココ?ウェイトレスにケガは?」
「あ、ラギィ警部。大丈夫、一瞬気を失っただけです。容疑者は2人共インバウンドで逃走しました。盗まれた物や怪我人はいません…おい!外に出てろと言ったハズだぞ!客のほとんどは、レイブ目当てのインバウンドです」
「あの有名な万世橋警察?しかも、警部さんだナンて。ねぇ聞いてください。絶対何かが変ですよ」
例のベトナム系ヲタサー姫が割り込むw
「変と言うと?」
「銃を持った男は、あそこでモミ合い、ソコからコッチに向けて発砲した。だから、そこら中を探したけど、弾は何処にも見当たらないの」
「そりゃ見つからないわ。アレは痴漢撃退用の音響兵器ょ。ブザーみたいなモンだから音はしても弾は出ないの」
ヲタサー姫はヒルまズ新聞記事を振り回す。
「でも…事件の直前、めっちゃ怪しいウェイトレスが私達にコレを見せたの。"南秋葉原条約機構"の極秘資料だと言って」
「…あらあら。YUI店長、こーゆーのヤメさせて」
「あちゃー。以後、気をつけます。おーい、ミユリ。ダメじやナイか」
ミユリを呼ぶYUI店長。コレは、レイブで世界中から集まるインバウンド相手のメイドの悪戯なのだ。
「またインチキ写真でインバウンドを揶揄ってるのか?マジで困ったメイド達だ」
「あ、はい。でも"2.5レイブ"期間中は、全てのドリンクについてるオプションなので…」
「何コレ?ケチャップの空瓶?こんなに…」
テーブルの上の空瓶に気づき指差すラギィ警部。敏腕で前任地では"新橋鮫"と呼ばれ恐れられてる。
「おまわりさん!ソコには、彼女と同じ位の年齢のメイド女子が2人、座っていたわ!」
「でも…アキバでは見ない顔だから、きっとインバウンドね」
「マジ?どう見ても、メイド達とツーカーな秋葉原のヲタク同士に見えたけど」
インバウンドカップルに押され気味のミユリさんはバックヤードに退却し、扉を閉め灯りを点ける。
誰もいないのを確認し、も1度ブラジャー姿になり傷口を見る。オヘソ周辺に光るグーパンチの手形。
唇の端、数mmで微笑むミユリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テリィ様!ごめんなさい、ちょっと通して…テリィ様。お話がアルのです!コチラへ」
外神田における文化活動の拠点"カルチャーセンター"は"2.5レイブ"を控え、あらゆるサークルが全館を使用中だ。僕は比較的利用頻度の薄い音楽準備室に引っ張り込まれる。何と先客のカレルがスネアを叩いてる。
「カレル?」
「ミユリ!何してる?…ってかテリィたんも?」
「や、やぁ」
思いがけない出逢いに顔を輝かしたカレルは、僕を見て、手にしていたスティックをポトリと落とす。
「…ミユリ。カフェで発砲事件があったらしいね」
「もうびっくりょカレル。でも、大丈夫。コレから2人で相談スル場所を探してたワケ。ほら、もうすぐ"メカゴジラ-2.5レイブ"でしょ?テリィ様と私、コス合わせスル予定だから」
「そうか。なるほどね。じゃ邪魔者は消えるとスルよ。ところで、僕達も"コス合わせ"が必要だけど…」
「カレル。私達コレからドライリハなの。その話はまた今度」
「わかったよ。じゃカレル、じゃなかった、帰る」
親父ギャグをカマして去るカレル。
「彼はミユリさんの池袋時代のTO?池袋時代の元カレル、じゃなかった、元カレ?」
「親父ギャグのお返し、ありがと。元カレっていうか、付き合ったってほどのモノではアリません。そんなコトより、テリィ様に真面目にお伺いしたいコトがあります」
「何かな…わぉ!hallelujah」
突然ヘソ出しチラ見せポーズのミユリさん…何と夜光塗料で塗ったようにグーパンチ型の手形が光る。
息を飲み…ムセる僕。
「あの、コレは…特典サービスとかではなくて…おバカなコトを申し上げてるのは百も承知ですが、テリィ様が私に何かをされた日からこーなりました。ヲ嫁に逝けないカラダになったので責任を取ってください…じゃなかった、テリィ様。貴方は何者?」
「僕は…え。僕か?…えっと、実は、あの、僕は、君達とは違うンだ」
「宇宙人なのね?どの星から来たの?」
ミユリの胸は高鳴る。だが、僕が指差すのは地面w
「(え?下?普通、ココは空を指差すのがお約束でしょ?)もしや、秋葉原のお生まれとか?」
僕は、もっと下を指差す。
「ソレってまさか…"ワレワレハ地底人ダ"なんて言い出すのは禁止」
僕はうなずく。
「ウソ…マジそーなの?」
「どうせなら"地底人類"と呼んで欲しいな。口に出すと変な感じだけど。僕は、君達セカンドインパクト以降の人類とは根本的に異なる」
「…行かなきゃ、私。次の店のシフトに遅刻だわ」
突然、他人の顔になって歩き出すミユリさんw
「ちょっち待ったー!ミユリさん、お願いだ。僕が地底人類の地上制圧作戦の尖兵だってコトは、誰にも話さないで。家族にも。スピアにもだ!もし、この秘密が"南太平洋条約機構"に漏れたら…ワカルょね?君だけの胸に留めておくんだ」
黙って準備室を出て逝くミユリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"のニュースでもやってた。確かに発砲はあったけど、怪我人は皆無だったって」
パーツ通りの"マチガイダ・サンドウィッチズ"で今週のお薦めドッグ"ネバー"を頬張るスピア。
「じゃ今年度"萌えクイーン"のミユリはどう?何か私を避けてるし、昨日も、あのパームと同じシフトでお給仕したのよ。私の元カレのアイクとつきあってるパーム。あり得ない。ねぇラギィ、聞いてる?」
「モチロン聞いてるけど、例によってスピアの考え過ぎじゃナイの?ソレにスピアの元カレはテリィたんでしょ?貴女、テリィたんの元カノ会の会長だとか言ってなかった?」
「だ・か・ら!アイクはテリィたんの次の元カレなの。元カレ№306がアイクなの!」
じゃ僕の元カレ№は…305?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通りを疾駆するバイク式の半装軌車。カーラジオからヲレの、お気に入りのワラッタニュース。
「さぁヲタクども、いよいよ週末は"メカゴジラ‐2.5レイブティバル"だ。"ブラックホール第2.5惑星人"コス(プレ)の準備は良いか?コスプレ優勝者には50万円の賞金が出るぞ。みんな張り切ってコス(プレ)しよーぜ!」
片手ハンドルしながらラジヲを止めるマリレ。
「地底人類?ドリル付きの巨大突撃砲?良くもまぁ次から次へとソンな妄想が浮かぶわね!」
「だろ?僕の妄想力、マジ素晴らしいょな。ところで、突然登場のメイドコンビは何者サンかな?」
「答える必要ナイわ。しかし、原始力かしら…ミユリ姉様、眼を醒まして欲しいわ!こんな妄想を取ったら後にカスしか残らないヲタクの何処が良いのかしら」
テイルゲートに座った僕は、メイド達のボヤきを聞き流す。あ、突然現れた2人組はメイド服ナンだ。
まぁココはアキバだからな。
「信じられナイわ!やっとヲタクぶりっこも板について来たのに。マリレ、何でミユリ姉様を止めなかったの?」
「エアリ、私に八つ当たりは禁止ょ」
「ごめーん」
エアリ(誰?)の言葉にマリレ(誰だょ?)が軽く逆切れ。
「ごめん?人前で超能力は使わない。このルールを破っちゃったのは姉様ナンだけど」
「あれ?君達"覚醒"してるのか?アメコミみたいなセクシーなコスプレしてないからワカラナイな」
「メイド服じゃ御不満?ココは秋葉原でしょ?」
「せめて"悪の女幹部"でキメてくれ」
応えずにホットドッグに手をかざして次々と"焼き上げ"るマリレ。出来立ての熱々ドッグをくれる。
「姉様を現場に残してきちゃったけど、警察には何て説明してるかしら。まさか、全て打ち明けたりはしてナイわょね?」
「あの新任のラギィって警部は、割と粘着質で手強いぞ。前の職場じゃ"鮫の姉御"とか呼ばれてたからな…実は僕の元カノだけど」
「え?彼女も元カノなの?さっきのコンカフェにいたスピアとか言う彼女も元カノなんでしょ?テリィたん、いったい何人と…あちゃーもうおしまいだわ!」
大袈裟に天を仰ぐエアリとマリレ。
「運転中は前を見ろ!…まぁ何だかワカラナイけど心配ナイさ」
「ヤバいでしょ。ミユリ姉様を呼んで直ぐに秋葉原を出なきゃ」
「秋葉原を出るなんて無理だわ…いつかこの日が来るとは思ってたけど、今は無理!」
僕もテイルゲートから一言。
「アキバを出るって、出て何処へ逝く?君達はメイドだろ?ココはアキバだぜ?」
「ソンなの関係ナイ。確かに私はメイド服を着てるけどヲタクじゃナイから。一緒にしないで」
「一緒ょ…エアリ、貴女の御屋敷の店長は優しいから。私なんか失業者雇用手当を稼ぐための頭数ナンだから」
マリレ(誰?)はヒートアップw
「落ち着けょマリレ。とりあえず、今は目立たないコトが第1だ。普通に生活したらどーかな」
「とりあえずって…初めて会ったヲタクに言われたくナイわ」
「とにかく!私達は、正体がバレると"南秋葉原条約機構"に突き出され、体中をズタズタに切り裂かれた末に歴史の闇に葬り去られる運命なワケょ…過去に"覚醒"した仲間達と同じように」
結論は無いママ各々(おのおの)の妄想にフケる3人。イタズラにケッテンクラートのアクセルを踏み込むエアリ。
第2章 blood type BLUE
今日も"メカゴジラ-2.5カフェ"は世界のインバウンドが推し寄せ大繁盛。女子トイレで水を流す音。
スピアが出て来る。
「スピア?」
「ミユリ姉様。私、37回も電話したのに」
「ごめんね」
銀のミニスカSFスーツに黒サングラス同士の女子トークだが、傍目には不気味な井戸端会議に見える。
「昨日、何があったの」
「何があったって…一緒にいたじゃない。スピアも一部始終を見ていたハズょ」
「でも…コレは絶対ケチャップじゃないわ。だって…青いし」
"青い血"に濡れたカフェのメニューを見せる。
「コレ、ミユリ姉様の血でしょ?姉様は"覚醒"してたの?でも、ソンなコトより…テリィたんは、姉様ともつきあっていたの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子がスーパーヒロイン化し、超能力を持つ例が多発スル。彼女達はミュータント?或いは人類進化の新しいカタチ?その判断は、歴史に委ねられる。
ケッテンクラートで昭和通りを南下中のメイド3人。
「マリレ。超能力は使わないでと逝ったでしょ?」
「自分の恋人ゲットのために超能力を使った姉様に言われたくないわ」
「私は、どーしてもテリィ様と…」
突然、万世橋の覆面パトカーが追越して…前を塞ぐ。
「あら。もうバレたのかしら」
「ヤバいわ、姉様。逃げましょう」
「逃げる方がもっとマズいし。大丈夫。何もバレてナイから」
パトカーから降り立つのは…万世橋のラギィ警部。
「免許証と登録証を拝見」
ラギィは差し出された免許証をチェックする。
「メイドさん達。昨日"メカゴジラ-2.5カフェ"で発砲騒ぎがあったのは御存知ょね?みなさんも気をつけて」
「わかりました」
「それじゃ…命は大切に」
FPCは走り去る。エアリはケッテンクラートのエンジンを切ってキーを抜く。 両手を広げて天を仰ぐ。
「エアリ。問題ナイから大丈夫ょ」
「何が?私達の正体がバレつつアル。その内に全員捕まっちゃうわ」
「ソレは、未だワカラナイ。"覚醒"して"青い血"を持つ者が全てミュータントと決まってワケじゃナイし」
鼻で笑うエアリ。
「今の人類が魔女狩りや異端裁判の名の下に何をして来たと思う?どーして"覚醒"した腐女子達は素性を隠し、超能力を隠すの?そーしなかった連中はどうなったの?みんな姿を消したわ。きっと"南秋葉原条約機構"に殺されたのょ」
目を伏せるミユリさん。
「少なくともテリィ様は他の人とは違うから」
「で、テリィたんは姉様の正体を知って、果たして何と言うかしら。雪の女王がお友達になってくれて嬉しいわ、秋葉原を氷の国にしてね、レリゴーって?甘いのょ姉様は」
ケッテンクラートを降りて昭和通りの人混みの中に消えるエアリ。ソレを見たマリレは半泣きになる。
「ミユリ姉様、もうムリょ。どうスルつもり?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
悪いコトは重なるモノだ。その夜"コス合わせ"を終えたミユリは街灯の下でカレルに絡まれる。
「じゃおやすみなさい。ココで」
「そうだね…ミユリ、昨夜は心配した。でも、君はずっと上の空だったね」
「わかってるわ、カレル。ごめんなさい…ねぇ私と一緒にいて何か不思議な気持ちになるコトはある?」
意味深な目つきで見上げるミユリ。自称"別れ際の魔術師"のカレルは、100%誤解して舞い上がる。
「もぉしょっちゅうさ。ビンビン感じてるょ」
「そーゆーの全部忘れて欲しいの。嫌だわ、私ったら何を逝ってんだか。きっと疲れてるのね。もう寝るね。じゃコレはサービスょ。おやすみニャンニャン」
「萌え…あれ?ソレは?」
ミユリがサービスのつもりでニャンポーズをしたらヘソ出しになって、ソコには光るグー手形の痕跡w
「あ。おやすみ!」
「ま、待てょその光るグー手形…」
「おやすみ!!!」
ミユリの剣幕に推され、何度か振り向きつつも歩き去るカレル。想定外のへそチラに唇を噛むミユリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリさんがアパートの窓辺から顔を出して月を探してる。その横顔に見とれていたいけど…このママ、ヲタクなロミヲ&ジュリエットになりたかったけど…
「ミユリさん」
今宵は急いでいるので路上から声をかけ空調ダクトを伝って這い上がって、窓から彼女の部屋に侵入w
おどけて"夜の訪問者"を迎えるミユリさん。
「おかえりなさいませ、御主人サマ」
「話があるんだ。あれから、ずっと僕はミユリさんのコトばかり…」
「ずっと私のコトばかり考えていたのですか?」
明らかにミユリさんは何かを期待し小首を傾げる。ソレは彼女最凶の萌えポーズだ。僕は…思考停止w
「何?」
「ごめん。確か…ミユリさんは、ポケットがカップケーキの形をした、おかしなマイクロミニのドレスを着ていたね。その絵が脳内を無限ループしているので、つい」
「何それ?…あ。テリィ様、困ります。まさか、あの幼女ポルノ寸前のパンチラ強要コーデを思い出してたナンて。でも、ソレって私が"腐女子'Sパンツァー"の(コスプ)レイヤーだった頃より遥か昔、そもそも、今の人類が誕生する遥か以前の、私が"地底王国パンティラ"の第2.5王女だった頃のコトです…ひょっとして、テリィ様は乙女の心を読まれたのですか?激ヲコです」
ミユリさんは、茶目っ気タップリにプンプン。
「違うょ。ミユリさんの傷を直そうとした時に、あの画像が勝手に脳内に洪水みたいに流れ込んできたンだ。その時の素直な気持ちさ」
「私の気持ちですか?」
「ミユリさんはパンチラになるのをスゴく恥ずかしがってた。でも、あの服は王家伝統のドレスで、国民はミユリさんが着るのを楽しみにしてた。 だから、ミユリさんは、王国のために着たんだね…ひょっとしたら、あの時のミユリさんの心象風景を再生出来るカモしれない」
1歩近づく。僕を見上げるミユリさん。
「ミユリさん、触っても?」
ミユリさんは拒まない。黙って目を閉じる。彼女の耳の後ろに手を回し…今ならキス出来ちゃうカモw
「深呼吸して。心を僕に向かって開放するんだ」
再び不思議な画像が、僕の脳内に流れ込んで来る。地底の暗闇の中、ドリル付きハンティングタイガーのヘッドライトに照らされ手をつないで歩く2人の幼児。全裸?児童ポルノかょ?振り向くと…あれ?僕じゃナイかw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その瞬間、私の心の中にテリィ様の心象風景が流れ込んでくる。ソレは母性に飢えて孤独に震える心。私は、テリィ様の視線で私自身を見ている。テリィ様の目に映る私は、ナゼかとても輝いて見えたわ。
私は私に敬礼スル。パレードで行進中。ドリル付きハンティングタイガーの戦車長キューポラから私を見上げる。嫌だわ、あのパンチラの服…
「テリィ様…」
「ミユリさん。君は君を見たか?」
「はい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
テリィ様と出逢った日から、私の世界は一変スル。ソレは、私にとってはスーパーヒロインに"覚醒"したコトなんかよりも、遥かに大きな出来事。 この世界の何もかもが、以前とは違って輝いて見える。
テリィ様のコトが気になって仕方ない。 生まれて初めての、この感情を率直に喜びたいのだけれど…まさか、相手がよりによってアキバのヲタクだなんてw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"メカゴジラ-2.5カフェ"のバックヤード。
「スピア。私のバック見なかった?」
「知らないけど。姉様、ちょっと話があって」
「え。何なの?」
振り向くとスピアの探るような視線。
「私は、テリィたんの元カノ会の会長で、姉様とはヲ友達ょね?だから、姉様がテリィたんにウソをついたら、私にウソをつくってコトになるわ」
「(何で?)テリィ様から何を聞いたの?」
「よくワカラナイわ。だって、何しろ彼はテリィたんだから。姉様が持ってたメニューに青い血がついてた、とか言ってたけど…どーゆーコト?」
「知ってるでしょ?テリィ様は、人一倍妄想力が豊かで、何でもかんでも都市伝説にしちゃうの。 またそうやって騒いでるだけよ」
「私もそう思ったんだけど、私は姉様が心配なの。マジで大丈夫?ケガは?」
「バッチリよ」
「そっか」
あっさり騙される元カノ会長。
「じゃ心配するようなコトは何もなかったって思っても良いかな?」
「良いともー!心配してもらうようなコトは何もナイわ。コレで全て解決よ」
安心?してヒラヒラ手を振りお出掛けするスピア。入れ違いでYUI店長が制服警官を連れやって来る。
「おまわりさん、あの子です」
「ありがとう…ミユリさん。万世橋警察署までおいでください」
「え。私?」
息を飲むミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署。窓のナイ会議室。ラギィ警部はメイド服で任意出頭して来たミユリさんに声をかける。
「こんにちわ、ミユリさん。YUI店長には許可をもらってる。この時間も時給は出るから。で、悪いけど、この写真を見てくれる?原因不明の変死体ょ。直接的な死因となる外傷がナイの」
解剖台の上に横たわっている女性の死体。巨乳だw
「ただ、胸の谷間に妙な手形が残っていた。貴女、この手形に見覚えがアルかしら?」
ラギィは指差す。巨乳だわ…微かに眉を顰めるミユリさん。そっと自分のツルペタを見下ろす。
「見たコトもありません。ところで、どーしてコレを私に見せるの?ツルペタいじめ?」
「ある人が、貴女のお腹にも同じような手形が光ってたと言うから」
「その人は、私のお腹を見たのね?誰?」
答えズ微笑むラギィ。
「そう。じゃ見間違いなのね」
「だわ」
「…この目で確認させて」
腰を上げる気配皆無のラギィ。
「警部。私、ケチャップをこぼしただけなの。もう何度もお話ししたのに」
「見せて。ミユリ」
「…神田明神も照覧あれ」
立ち上がるミユリさん。ゆっくりメイド服をたくし上げてヘソ出し。チラ見スル…手形は消えている。
「実は、その遺体の手形も消えたと記されているの。貴女、テリィたんを知ってるわね?」
「国民的SF作家の?ええ、知ってるわ。でも、個人的には(未だw)お付き合いはナイけど…」
「ミユリさん。貴女、あの日"メカゴジラ-2.5カフェ"にいたわね?」
即答で否定。
「いいえ」
「そう?そーなの?」
「もう帰っても?」
ラギィも即答だ。
「ダメょ質問が未だアル」
黒いバッグを差し出す。
「誰かが届けてくれたわ。貴女のかしら?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜、ラギィの方にも"夜の訪問者"が出現。
「音響兵器で撃たれたメイド服には穴が開いていた。つまり、彼女は"被弾"している…あら?レイカ補佐官、帰るの?」
アタッシュケースを閉じて立ち上がる紫ウィッグの女子。カラダの線モロ出しの銀色のボディスーツ。
月面基地の女司令官みたいだ。
「今朝、大須でUFOが目撃され、日本橋では自分を神と名乗るメイドが現れた。どちらも警部の話より大事件に思えるの…そのメイド服は預かっておくわ」
コートを手にドアのノブに手をかける。
「もっとマシな情報があったら教えて」
万世橋に設置された捜査本部を出て逝くレイカ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「待って!あの手形を見たってヲタクがいるの」
地下駐車場までレイカを追うラギィ。
「ソレでも疑うの?レイカ補佐官、そのメイド服をどーするつもり?」
「研究機関で検査スルわ…ソレから、ラギィ警部。この件には私情を交えナイで」
「私に手を引けというコト?私に捜査を指揮させてください。いや、せめて捜査に加えるだけでも…」
レイカは車のウィンドウを開けて語りかける。
「貴女のお母さんが"南秋葉原条約機構"で何と呼ばれてたか知ってる?"マダムUFO"ょ。貴女もそうなるカモ」
「レイカ補佐官。あの事件当時、私は8才で"リアルの裂け目"の謎に迫る母をズッと見てました。確かに自分の母親を変人だと思っていました。世間の人と同じようにね。でも…今は違います」
「わかった。後の調査は"南秋葉原条約機構"に任せて」
レイカ補佐官はシートベルトを締め直し車をバックさせ走り去る。ラギィは1人立たずみ、唇を噛む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日。"メカゴジラ-2.5カフェ"に御帰宅した僕に粘着スル…ミユリさん。本日、雨の日でPは2倍だ。
「テリィ様。お願いだから、ホントのコトを教えてください。でないと…私は万世橋警察署に駆け込んでラギィ警部に一切合切を全てお話しします」
「OK、ミユリさん。わかったょ」
「OK?…じゃ良いのですね?伺いますょ?」
何とiPadを取り出す。質問をまとめてる?意外にマジメな性格?いや、確か今は未だシフト中だしなw
「質問は…テリィ様はマジで、あの地底戦車、ドリル付きハンティングタイガーで地上に来たの?」
「ワカラナイ。気がついたらアキバにいたんだ。でも、多分マグマライザーじゃなかったと思う。ミユリさんは?」
「私は…地底王国"パンティラ"の第2.5王女です。エアリとマリレは…同じ王家の者」
「そっか。ソレでみんな一緒ナンだね?ミユリさん達はどんな力が使えるの?」
「記憶を共有出来ます。あと体内の発電器官で得たエネルギーを物体化し、その分子構造を操作して発射するコトが出来ます」
「待ってょ。ソレどーゆーコトかな?」
すると、ミユリさんは周囲をキョロキョロと見渡してから狙いを定め、軽く指鉄砲で撃つ仕草をスル。
「わっ」
次の瞬間、指先から迸った紫色の光線は壁に並んだ3本の翠の瓶を直撃し真っ黒に焦がす。
コレで彼女がメイド服じゃなくてビキニなら、まるで"うる性やつら"だ。くわばら×2w
「テリィ様。私のコトをヲタクの憧れ、ヤキモチ焼きの押しかけ女房ヒロインだと勘違いしてますか?」
「ま、まさか…他にこのコトを知ってる人は?」
「いません。"南秋葉原条約機構"のエスパー登録もしてません。命に関わる秘密なので」
人類の進化に逆らう反骨のスーパーヒロインだ。
「ミユリさんは、その危険を犯してまで、僕に思いを伝えようとしたのか?どうして?」
「テリィ様だから」
「…光栄の至り」
微笑むミユリさん。1歩、僕に歩み寄る。
「テリィ様。ラギィ警部が私に殺人事件の死体の画像を見せました。巨乳の谷間に光るグー手形がアル奴です」
「マジ?あり得ないょミユリさんはツルペタだろ?」
「余計なお世話death。カレルには、私のお腹に"光るグー手形"がアルことを見られました。その時に着てたメイド服も万世橋に押収された。で、その時にテリィ様が御屋敷にいただろうって。 ラギィ警部は元カレのテリィ様を疑っています」
ソコまで語ってクルリと振り返るが僕の姿はナイ。
「あれ?テリィ様、大事なトコロなのに…」
ミユリさんは、御屋敷の外へと飛び出す。目の前をコスプレした若者達を乗せた車が通り過ぎる。
手に手にメカゴジラのフィギュアや風船を手にし嬌声を上げる。彼等が去った後に僕の姿はナイ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
扉を開けると僕のベッドにミニスカで寝転び自慢の美脚を披露して銀色のブーツを履いているマリレ。
ふと初めて同棲した百軒店のアパートで、ラギィが裸エプロンで出迎えてくれた日のコトを思い出す…
「マリレ、アキバを出る時が来た」
マリレは起き上がる。銀ラメのコスモルック。スチームパンクな真鍮製のブラジャーを見せて微笑む。
第3章 真鍮ブラの饗宴
アキバ中が嬌声を挙げてる。怪獣フィギュアを手にした宇宙人コスプレの連中が通りや路地に溢れる。
ケッテンクラートに乗った僕達は、中央通りの大渋滞の中。エアリがマリレに自慢しながら胸を張る。
「どう?このブラ、素敵でしょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翠に輝くコスモルックのスピア。ミユリさんを見下ろし、ベッドの上で腰に手を当てて仁王立ちスル。
「ミユリ姉様。"2.5レイブ"に行く前にホントのコトを教えて。 さもないと、私はラギィ警部に何もカモ話すコトになるわ」
「スピア…貴女は何を知ってるの?」
「え。何をって…あの日、カフェで発砲事件が起きて、テリィたんが御帰宅してて、姉様が撃たれた時に姉様に何かをした。そして、その日以来、秋葉原でただ1人、絶対に信用しているメイド仲間が 私にウソをついてる!」
スピアは真剣だ。
「OK。じゃコレから話すコトは、誰にも喋らないと約束して」
「神田明神に誓います。だって、私が他の人に喋るハズがナイじゃん」
「実は、私は…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「きゃー!!!!!」
悲鳴を上げ路上へ飛び出すスピア。追うミユリは銀のコスモルック。メタルミニスカ同士の追いかけっこw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一方、ケッテンクラートの車上は論争中。
「テリィたん。ソレって他にも"覚醒"したスーパーヒロインがいるってコト?」
「少なくとも1人はね」
「そのヒロインを探し出せば"覚醒"した者同士で連帯出来るわ」
小鼻を膨らまし興奮するマリレ。
「マリレ。落ち着いて。未だ秋葉原が萌え出す前の話よ。ソレに…そのヒロインは連続殺人鬼の可能性もアルわ」
銀のアイシャドウのエアリが嗜める。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ミユリ姉様、何なの?姉様は、いつもそうやって優等生ぶってる。何で黙ってたの?」
G4型ベンツを片手運転するスピア。助手席のミユリさんに噛み付く。が、ミユリさんは涼しい顔だ。
「だって、おバカな友達役は私のハマリ役なのょ?姉様がぶっ飛んでたら、私の立場はどーなるの?」
「スピア。お願いだからハンドルから手を離さないで。落ち着いて」
「私は落ち着いてるに決まってるでしょ。姉様、良いから私に喋らせて」
僕達のケッテンクラートとすれ違う。
「テリィ様だわ。Uターンして」
「Uターン?どーやるの?私に命令しないで」
「こーヤルのょ!Uターン!」
助手席から手を伸ばしてハンドルを切るw
「ちょっと…姉様、何するの?」
「あのケッテンクラートを追って」
「無理よ。免許取り立てだし…キャー!」
ケッテンクラートは、車体をホボ転倒寸前まで傾けて中央通りを左折、地下アイドル通りへ突っ込むw
路地に宅急便トラックが止まってて急停車。後ろからはケッテンクラートが追っかけて来て道を塞ぐ。
ドアが開きミユリさんとスピアが降りる。
「元カノに…今カノ?最悪過ぎるだろ」
僕は天を仰ぐ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どうして?テリィたん、何でメイドを2人も連れてこんなトコロにいるワケ?」
「知らないょ。もう吐きそうだ」
「私だって知らないわ」
対峙する僕達とブラックホール第2.5惑星人2人組w
「スピアに話したわ」
いきなりミユリさんの爆弾発言だ。僕の左右にいるメイド達から、絶望のウメき声が一斉に漏れる。
「ミユリ姉様!何てコトを…気は確か?」
「何ソレ?私は、姉様から聞いた秘密を絶対に漏らしたりしないわ」
「どーでも良いから。今すぐ車をどけて」
責めるような口調のエアリ。ムキになり反論するスピア。呆れるマリレ。ミユリさんが1歩前に出る。
「今、アキバを出るのはマズいわ。今、逃げれば"私は覚醒しました"と公言スルよーなモノょ」
「姉様。"覚醒"はイケないコトなの?"覚醒"は腐女子の当然の権利でしょ?」
「マリレ…その通りだけど、今は時期が早いと逝っているの。ソンなコトより、私達が力を合わせれば、何とかウマくヤレると思わない?」
エアリは懐疑的だ。
「良い気なモノね。命がかかってるの。ねぇ早く車をドカして!姉様、一緒に逃げよ?」
「エアリ。いつまでも逃げ回ってはいられないぞ。ミユリさんの逝う通りだ」
「ヲ願い、エアリ。私達が"覚醒"したと逝う事実は変わらないけど、今、逃げればラギィ警部に警察の考えてるコトは正しいと自白スルようなモノょ。今後、私達は"覚醒"したと逝う事実を一生隠して生きて逝く、そんな人生を貴女は選ぶの?」
エアリは…うなずく。
「確かに…で、姉様は、コチラの国民的SF作家のおっしゃるコトを信じるのね?」
「テリィ様は…私のTOです」
「わかったわ。ミユリ姉様1人を秋葉原に置いてはいけないし」
エアリは、僕を振り向く。
「良い考えって何?」
第4章 メカゴジラ -2.5レイブ
秋葉原ヒルズのホテル棟。カレルが泊まるスイートの前に立つセーラー戦士。コスプレのデリヘルか?
「ミユリ?…あのさ。池袋時代とはいえ元TOを1時間半も待たせるナンてヒドい…わぉセーラー戦士のコスプレだと?!hallelujah!Blabo!万歳!」
「えっへん。セーラー戦士はヒロピンAV No.1だから…ねぇ私ったら、この頃どうかしてたわ、ごめんなさい。だから、今宵はサービス、サービス」
「舌チョロ最凶だ!まるでヒロピンAV嬢とコス合わせしてるみたいだょ全て許す!」
瞬デレのカレル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
RAVE。
野外で行われる1夜限りの音楽イベントのコトで、その多くは秘密裡に開催される…
ところが"誰もがマスコミ"と化した現代では、秘密裡の開催など望むべくもなひ。
「あら。テリィたん」
「…よくワカッタな。仮面をつけてるのに」
「ソレ"お面ライダーV2.5"でしょ?」
"メカゴジラ -2.5レイブ"会場には多数のインバウンドが推し寄せ、朝の虎ノ門ヒルズ駅並みの混雑w
肩をぶつけ合いながら歩くコスプレイヤーだけで国連総会が10回は開ける…おや?エアリとスピアだ。
犬猿の仲の2人は腕を組み僕とすれ違う。
「そのブラ、スチームっぽくてカッコ良いな。"虚乳ハンター"?」
無視される。計画通りだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一方、秋葉原ヒルズのスイートで瞬デレのカレル。眼下には、レイブの駐車場に車を誘導するメカゴジラのコスプレした係員がケシツブのように見える。
「ミユリ。レイブに出掛けるより、この豪華な僕のスイートルームで一緒に過ごさないか。その…セーラー戦士のコスプレでさドヘヘ」
瞬時に鼻と鼻が接する距離で誘惑モード。熱いパトスで誘う"セーラーM87星雲"コスプレのミユリ。
「ねぇ私、貴方と一緒にレイブに出掛けたいの」
「キャイーン!即OK!30分後だね?」
「もう待ち切れないわ…」
熱い吐息。安いキス。
「ソレじゃ30分後。ステージ前で待ってる。必ず"ブラックホール第2.5惑星人"のコスで来て」
子供のように激しくうなずき、コスプレしに部屋に飛び込むカレル。唇の端で不敵に笑うミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「Xアワーは30分後」
スマホにささやく"セーラーM87星雲"。
「ROG」
応答するマリレはベンツG4型を片手運転中。
「ヤルしかないケド…絶対コケるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
レイブ会場となった東秋葉原の和泉パークは大盛り上がりだ。アキバのセントラルパークとも呼ばれるパーク一杯に、色とりどりの宇宙人達が踊り狂う。
「何処にいるの?」
万世橋の婦警が指差す。
「アソコです。彼は国民的SF作家のテリィたんですょね?私、ファンなんです」
「私は元カノょ。貴女はもう良いから踊って来て」
「婦警の制服で?コスプレしてからで良いですか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ちゃんと汚れてょ」
「やってるじゃん」
「貴女…虚乳の反対なのね?」
和泉パークの地面の上をゴロゴロ転がるスピア。その度に…乳が左右に暴れて溢れ出しそうだ。眼福。
「ママもなの。遺伝」
「…OK。ソレで良いわ。キーをちょうだい」
「あのね。ベンツG4型は、世界の独裁者が乗りたがる特別な車ょ。もし壊したらデスラー総統に叱られるのは私ナンだからね」
砂を払いながら、起き上がってキーを渡すスピア。ニコリともせズにキーを受け取り歩き去るエアリ。
「せっかくの翠のコスモルックが…」
スピアは地面に大の字になり星空に溜め息をつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は、コンビニで買ったアメリカンドッグを食べながらステージのコスプレバンドを聞いている。
全員が"ブラックホール第2.5惑星人"のコスプレで邦楽みたいな曲を演奏し客を熱狂させている。
「テリィたん」
自衛隊の勧誘?振り向くと…ラギィだ。
「質問がアルの。例のコンカフェで発砲騒ぎがあった時、あのカフェにいたでしょ。アソコにいたミユリとか言うメイドに何をしたの?」
「ラギィ…僕は別に何もしてないょ」
「ウソょ。悪いけど逮捕スル」
突然、後ろ手に手錠される。
「おいおいおい。権利の告知は?そもそも罪状は何なんだ?君と同棲していた百軒店のアパートを飛び出したコトか?」
「そうよっ!…じゃなかった、貴方には何の権利もないわ。あと"覚醒"した腐女子にもね」
「"覚醒"した腐女子って誰だょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ああ!ごめんなさい」
"覚醒"した腐女子は、超混雑のレイブ会場で宇宙人コスプレの2人組と正面衝突し率直に謝る。
腐女子はミユリさん。ぶつかった2人組は宇宙人マスクを取ると…例のヲタサー姫のカップルだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突然レイブ会場に急ブレーキ音!会場の全員が驚いて音がした駐車場の方を振り向く。交通事故か?
「スピア!」
何と急停車?したベンツG4型の前で大の字になった人が倒れている。もちろんソレはスピアだが…
「スピア、(ホントは轢かれてナイけどw)轢かれたのね?大丈夫?」
スピアを抱き起こすミユリさん。ドサクサ紛れに姿を消す運転してたエアリ。駆け寄るさっきの婦警…
ん?早業でミニスカポリスのコスプレしてるw
「大丈夫ですか?私は、万世橋警察署の…あ、ラギィ警部!」
「(あら?何でミニスカポリス?)何があったの?」
「はい。駐車場内での歩行者との接触事故です。被疑者は"ブラックホール第2.5惑星人"のコスプレした恐らく男性。事故後、被害者に何かして、あっちに逃げました!アソコです!」
(ミニスカポリスの)婦警が指差す先に"ブラックホール第2.5惑星人"コスプレの恐らく男性が走る。
「巨乳の谷間に光る手形の痕だわ…後をお願い。事故処理は交通課を呼んで」
コスプレした野次馬を突き飛ばして"ブラックホール第2.5惑星人"の、恐らく男性を追うラギィ。
メタル服にパンダマスクの男は、トランス状態のインバウンドが踊り狂うレイブ会場に逃げ込む。
「コスプレだらけだわ」
往年の春麗みたいに会場中に惑星人が溢れる中、野鳥の会並みの視力でステージ前の男に声をかける。
「ちょっと、貴方!」
「え、誰?刑事コロンボ?」
「問答無用。逮捕ょ」
マスクをむしり取る…カレル?!
「逮捕?おい、待ってくれ!俺の推しを見かけなかったか?ステージ前で待ち合わせの約束をしてルンだ」
「何ですって?推しとコス合わせ?リア充、許せないわ!やっぱり逮捕よっ!…あら?何コレ。貴方のコスプレ、夜光塗料を使ってる?」
「当たり前だろ?俺は"ブラックホール第2.5惑星人"だぜ?巨乳に光る手形を残すのがお約束さ。お前らツルペタには用はねぇ」
厳重に逮捕されるカレル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。レイブ会場の臨時トイレで"ブラックホール第2.5惑星人"コスプレを脱ぐエアリ。溜め息。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのトイレの壁に激しく僕を押し付けるラギィw
「やってくれるじゃないの。コレは夜光塗料ょね?あの乙女ロードから来たヲタク、怒りに任せてツイ逮捕しちゃったけど、こんな姑息な手段で私を再び欺こうとしてもムダょ。あの日、テリィたんが一体何をしたか、必ず聞かせてもらうから」
「あの日ってどっちだ?同棲を解消した日か?ソレともコンカフェで…」
「両方よっ!」
ラギィ…涙目になってる。何で?
「落ち着け。話せばワカル。あの日、僕は音響兵器の発射音に驚いて逃げただけだ。他には何もしてナイ。ソレが同棲してたアパートから逃げ出すコトより違法行為なのか?それでも、僕を逮捕スルかい?君は…もしかして、ペッパー警部?」
首を振り僕の手錠を解錠するラギィ。
「逮捕したトコロでテリィたんは直ぐ保釈されるわ。でも、コレだけは言っておく。私は、なんとしても真実の愛…じゃなかった、真実をつきとめてみせるわ。テリィたん、貴方は確かに頭の良い元カレだけど、 私は絶対負けない」
もう負けてルンだよ、ラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バンドが演奏を終えたステージにタイムトンネルのオブジェが運び込まれ、カウントダウンが始まる。
「5,4,3,2,1…」
みんなが電光掲示板のカウントダウンを唱和スル。次の瞬間、トンネル内に爆煙と焔が噴き荒れる。
レイブの参加者達は、一斉に大声を上げ、焔に向かって拳を振り上げて、トンネルを囲み踊り狂うw
「見て!」
トンネルの奥から、焔をくぐり"ブラックホール第2.5惑星人"人形が投げ出されメラメラ萌える。
そのサマを、和泉パークのフェンス越しに、悲しげに見つめるエアリ、マリレ。そして、スピアも。
メラメラと萌えて逝く人形。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリさんは、コスモルックをミニスカver.にして街灯の下に立っている。レイブのざわめきが遠い。しかし、綺麗な脚だ。今年は生脚が流行るのかな。
「テリィ様」
言葉が思いつかない。とりあえず、やっておきたいコトを先にスル。髪をゆっくりと撫でたら…撫でられるママにして微笑むミユリさん。僕を見上げる。
「何?」
「ミユリさんの髪が乱れて…」
「大丈夫。でも、うまく逝きました。良かった」
僕の大好きな眼差し。
「ありがと。でも、ミユリさん。もうコレ以上僕の元カノ達に関わるのは危険だよ」
「構わないわ」
「うれしいよ。僕だって出来るコトなら、ミユリさんをもっと推したい。でも、ダメなんだ。だって、僕は…」
僕の話を遮る。
「地底人類だから?」
「あぁそうだ。だから、よく考えて」
「私は、地底王国"パンティラ"の王女です」
花火が消えて煙がたなびく。
「永い間お世話になりました」
「え。三行半キター」
「いいえ。コレは来月のお誕生日イベへの欠席却下の招待状です」
そっか。僕は、フランス人みたいに肩をスボめて、口笛を吹いて歩き去ろうとスル。背中から呼ぶ声。
「テリィ様。未だ御礼を申し上げていませんでした。私の命を…助けて下さって、ありがとうございました」
勝負角をキメ微笑むミユリさん。僕は敬礼を返す。
「こちらこそ。"第2.5王女陛下"」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"アキバで働くミユリのブログ 3月24日。数日前私は1度命を落とした。だけど、あの日から私のリアルは、ホントの意味で始まったのだ"
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"boy meets girl"をテーマに、アキバが未だ秋葉原だった頃(何とミユリがブログを始めた頃)を舞台に、主人公とヒロインの出逢いを描いてみました。少年少女SF全集的な、正にジュブナイル路線の作品です。
さらに、ヒロインの地底人設定など日頃温めてきた筋もサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、最後の円安?を謳歌するインバウンドの街と化した秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。