幕間 営み
幕間です。本編とは関係ないです。
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私が発作を起こし、そしてその夜にアルマトラスと世界征服を宣言しあった日から、三日ほど過ぎたある日__
その日は珍しく晴れていて、気温も少し暖かかった。
聞けば、どうやら南方サウスプリングから吹く季節風が、灼熱の火山地帯を通って熱された暖気をウィンフィンに運んできているのだそうだ。
「全く、雪解けなんて厄災以外のなにものでもない!」
そう言って、ジールは城中を険しい顔で駆け回っている。
現在城下町では、解けて出来てしまった氷柱の落下事故や、地面の凍結よる転倒事故などの報告が相次いで、その対応に追われた兵士や大臣達の往来で、ノワークラ城は朝から慌しかった。
「急ぎの書類の追加です! それからソレが終わったら城下町の現状視察に行きますから、イチャついてる暇があるならさっさと目を通してハンコ押しといてください! ったくこのクソ忙しい時に何やってんだこのトカゲは……!」
ぶつぶつ言いながら、足早に部屋を出て行ったジールはどこかに消えて行った。
「あ、あの……殿下? ジールもああ言ってますし、そろそろ公務に戻られた方が……」
降ろした目線の先にいるアルマトラスは、いやいや、と頭を擦り付けてきた。
「ふん! 余は今こうして紅蘭ちゃんと至福の時を過ごしておると言うのに、空気の読めんタコめ!」
彼女は、魔法少女の姿に変身した状態で長椅子に座った私の膝の上__と言うか剥き出しになった太腿__に、頭を乗せて横になっている。
「ケホケホ__もぅ……この姿で膝枕をすればやる気が出ると仰ったのは、殿下ではありませんか……」
たまに頬を太腿に擦り寄せてくるアルマトラスに、私は呟く。
「うむ、良きに計らえ。いや、やる気はあるぞ?
だが……ああ、何ということだー。余は耳が凝っておるし、少々痒い。コレでは公務に支障が出るー。紅蘭ちゃんが癒してくれれば、余はもう少し頑張れるのだがー……?」
棒読みで呟いたあと、何かを期待するように、アルマトラスは私を見上げてくる。
「__ふふっ」
それが可愛らしくて、私はつい吹き出してしまった。
こうして求めてくれるのは、嬉しい。
「もぅ、仕方のない御方__」
言いながら、彼女の尖った小さな耳を軽く揉む。
「……ケホケホ……」
良くないとはわかっていても、つい、甘やかしてしまう__
「お耳__くにくにですよ、殿下……? あったかいお餅みたいです」
「うむ、苦しゅうない。もっと触るが良い紅蘭ちゃん」
嬉しそうに目を細めて口を少し開けているアルマトラスに、私は笑みを向ける。
__愛おしいと思う。
こうしていると、胸の中が温かいもので満たされていくような気がする。
「コホコホ……あまり掻くと傷ついてしまいますので、今日は溝をなぞるだけ__撫でるだけに致しましょう」
長椅子に立て掛けた長杖から引き抜いた羽根と鱗を幾つか、梵天付きの小さなヘラがついた棒と音叉に変える。
「うむ、好きにするが良い」
その途端、少し見開いたアルマトラスの瞳孔が縦に狭まり、顔が『早く早く』と期待に輝く。
「ふふっ」
一昨日くらいにやったレンオアム式の耳への施術が、よっぽど気に入ったらしい。
ふと、思いついて羽根をもう一枚引き抜く。
「あなや……ねえ、貴女様?
お耳が凝っていてお痒いのでしたら、本日はこちらのタワシになさいますか……?」
私は先端に螺旋状にタワシが付いた棒を、目の前に持って見せた。
「なに? タワシ? 痛くないのか、ソレは……?」
ギョッとした顔で、アルマトラスは聞いてくる。
「はい、殿下。幼き日に母様にして頂きましたし、あたくしも自分でたまにするのですが、程よい刺激で汚れも疲れも取れますよ……少し、お試しなさいますか?」
「うむ、良きに計らえ」
少し身構えて固くなった彼女の耳に近づけて、入り口のあたりでくるくると回す。
「あふん」
「はい?」
何か聞こえたので見ると、ぴくぴく、と小さく身体が震えていた。
「あ……申し訳ありません、殿下。痛かった、でしょうか?」
さすがに刺激が強すぎたか。
私はタワシを引っ込めた。
「いや、苦しゅうない__むしろ、悦い!」
耳元から離れようとした腕を捕まえて、アルマトラスは言った。
「それは良うございました。ですが、殿下?」
タワシを羽根に戻し、手の中に握り込んで隠した私は、耳元に近づいて囁く。
「__続きは公務が終わってからに致しましょう、ね……あら?」
耳に埃がついていたのに気づき、ソレを息で吹き飛ばす。
「あふん」
再び何か聞こえ、アルマトラスは身体を揺らす。
「ふふっ__」
それが可愛らしかったので、もう一度吹きかける。
「申し訳ありません、殿下。つい、イタズラしたくなってしまいました__ですが、これにて。
……続きは公務が終わってから__ね、あたくしの貴女様? __ふふっ」
物足りなそうな表情で起き上がったアルマトラスは、渋々、テーブルの上で山と化した書類に手を伸ばした。
ご拝読ありがとうございました!
次回もお楽しみに!✨