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魔法少女

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 筋力や瞬発力と言った、単純に自身の身体能力を向上させる、もっとも初歩の強化呪文【エレメンタリー・フィジカル・エンチャント】が時間経過とともに数%ずつ上昇する術式が組み込まれているコレは、元々は高速戦闘用の特殊装備として()()()()()6()()()()に考えたモノだ。

 風圧抵抗を極力ゼロに近いものにするために服は身体にピッタリとしているし、腕や脚の可動域の幅を増やすため、スカートは短く、袖はない。


 __つまり、()()()()()()


 まさか後の十年で自分がここまで成長するとは思わなかった。

 (かかと)の高いハイロングブーツに包まれた太腿はほぼ剥き出し、肩も同じく丸見えで、コルセットの下から押し上げる胸元も大きく開いている。


 とん、と酷く浅く軽やかな靴音を立てて、


「ケホケホ……い、いかがでございましょう……?」


 隠せないのはわかっているのだが、それでも右手の長杖を身体に引き寄せ目線をそれとなく外しながら、私は言った。

 同性とは言え、見られるのは、やはり恥ずかしい……。


「……フッ__クククッ……フハハハ! アーッハッハッハッハッハッハッハァッ‼︎」


 子供の笑い声にしては邪悪な笑い方が、室内に響く。


「実に愛い! 美しい! 余はお前のその姿に妖艶さを感じる! うむ、()いぞ! 実に()()()!」


 耳飾りとして耳たぶに付けたブースト・ストーンの翻訳機能が()()()()()()()()()()()()()()()

 何やら言語に()()()()()()()

 ところで、と言いながら、アルマトラスは、つい、とその小さな指先を長杖に向ける。


「その杖はなんだ? お前の雄大なる翼と宵闇を固めたかのような龍はどこに消えた?」


 駆け寄り背後に回って翼と尻尾を探すアルマトラスに、私は応える。


「ケホケホ……はい。これはあたくしの尻尾の龍と二対の翼をブースト・ストーンを使って分離させ、杖として()()()()()()()()()()()()()()にございます、殿下。この姿の時は、やはり邪魔になりますので……」


 一定の間隔で竹の節状の突起物がつけられた鉄鞭(てつべん)のような杖の先端部分は、二対の翼で身体を隠した龍の形をしている。

 __ちなみにこの翼は開くことで力場を発生させ、あらゆる空間に足場を創る。


「……あ、あの、殿下? も、もう、よろしいでしょうか……?」


 視線は私に固定したまま、周りをぐるぐると回るアルマトラスに、私は言った。

 翼があった名残りで、大きく開いた背中や、胸や、お尻や、太もも、と言った部分に刺さるねっとりと絡みつく視線がイタイ……。


「うむ、大義である。戻るが良い、余が許す!」


「は、はい……ケホケホ!」


 言われて、私は元のドレス姿に戻った。

 部屋の中央に置かれた、黒い大理石のローテーブルの前にあるベルベットのカウチソファまで(朱里に抱えられて)移動した私は、右隣に座るアルマトラスに手を握られる。


「ふっ……余と結婚しよう、紅蘭(こうらん)ちゃん! そのためにレンオアムの王宮から()()()()()()()()()()()=()()()()()してきたのだからな!」


「ラ……? ル……?」


 小さな両手で包むように私の右手を握る彼女の言葉に、私は小首を傾げる。

 やはり翻訳が上手くいっていないようだ。

 この分だと、首飾りとして付けたブースト・ストーンを介しての私の言葉も、上手く向こうに伝わっていない可能性がある__


「__カタフニアの言葉で『盗む・盗み出す』という意味でございます、(ひめ)様。頭に『ラ』が付きますと、意味合いは『強引に』となります」


 耳元に顔をさりげなく近づけた朱里(しゅり)が、こっそりと教えてくれた。


「あ、ああ、そういう事ですか__あ、あの、恐れながら殿下?

 結婚しようも何も、あたくしは貴女様にこうして(めと)られております故に。

 式を挙げていないだけで、もうすでにあたくしたちは結婚しておりますわ」


 その言葉に彼女は二、三瞬きをしたのち、


「なっ……ナニィィィィィッ⁉︎ そうだったのかァァァァっ⁉︎」


 アルマトラスは両手を頭の上まで振り上げて、大声を上げた。


 それに__


「……昨夜、何万回も『はい』と言ったではないですか……その……ベッドの上で、気をやるほど……」


 言いながら、視線を外した。顔はおろか耳まで真っ赤になっているのが、自分でもわかった。


「……アルマトラス殿下……」


 そのまま、私は続ける。


「……貴女様は、あたくしの『能力』が欲しくて(めと)ったのではないのですか?」


「うん? ()()? ()()()?」


 アルマトラスは首を傾げた。


「え……?」


 思わず、勢いよく振り返る。

 まさか__()()()()()()……⁉︎

 知らずに私を嫁にしたのか?


「え、えぇと……あたくしは__」


 私は自身の能力について説明し、実際にやってみせた。


「……フッ__クククッ……フハハハハハハハ‼︎」


 一通り見終わり説明を聞き終えたアルマトラスは、突然笑い出す。


「__おのれ、妖魔大王! 爆発しろッ!」


 だんっ! と音を立ててテーブルを拳の腹で叩き、皇女は続けた。


「なぁにが『余り物の小娘で良ければくれてやる』だ! おのれェ、あのおっさん、余の紅蘭(こうらん)ちゃんに()()()()⁉︎

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」


 (たけ)り狂うアルマトラスを中心に、燃え盛る火焔(かえん)として可視化された高密度の王気(オーラ)が、ずどん、と大気を震わせ、物理的な衝撃波となって放たれる。


「……ひっ……⁉︎」


「殿下! おやめくださいッ‼︎」


 私を(かば)いながら、朱里(しゅり)が叫ぶ。


 放たれた衝撃波によって焼かれ、破壊された室内のあちこちから自ら形を成して『生まれた』のは、無数の火の精(ファイアエレメンタル)__ではなく、もっと上位の炎の精霊(イフリート)だ。


「何より気に食わん! うら若き乙女を兵器を開発するためだけに『道具』として生かし利用するなんぞ、同じ女としても(ゆる)せんッ!」


 アルマトラスの瞳孔が縦に狭まった。

 苛立ちを隠そうともしない彼女の口内が、(ほの)かにオレンジ色に染まり、高熱を帯びていく。


「殿下! この朱里(しゅり)めも同じ気持ちでございます! ですが、今はお気持ちを__その矛をお納めください! 紅蘭(こうらん)様が燃えてしまいます!」


 その言葉で、アルマトラスは幾らか王気(オーラ)の出力を抑えた。


「おのれ、妖魔大王ぉ……巫山戯(ふざけ)るなよ? このような事、飲み干せるものかッ!

 ()()()()()()()()()()! 毛先一本から爪先、細胞の一欠片、そして魂に至るまですべて余す事なく()()()()()()()()ッ‼︎ 美姫(びき)であるなら尚更(なおさら)だッ!」


 つまり、とアルマトラスは続ける。


紅蘭(こうらん)ちゃん! お前は美しい! そして愛い! (はかな)(とうと)い! 護ってやりたいッ‼︎ ()でて愛でて愛でまくりたいッ!

 (ゆえ)に許す! そして余は決めた! 決めたぞ!

 余の所有物となるが良い、紅蘭(こうらん)ちゃん! その生涯を()して余を(たの)しませてみせろよ__さすれば褒美を(たま)わすッ‼︎」


「しょ、所有ぶ__ゲホゲホッ! ほ、褒美……?」


 何を言っているのだろう、この人は?

 ()()()()()()()()()()()、この人たちは?


 今まで、能力以外で私に近寄ってくる男はいなかった。

 道具として以外、誰にも必要とされなかった。

 女として、ちゃんと見てくれる人はいなかった。

 血色(けっしょく)の悪い蒼白(そうはく)で、猫背で、何処(どこ)と無く病人の匂いが(ほの)かに漂ってくるため、寄ってくる男はいない。

 __いな、かった……。

 でも、この人は__


朱里(しゅり)! ()()、出来ておるな⁉︎」


「はい、殿下」


「うむ、大義である! 今すぐ持って参れ!」


(かしこ)まりました__」


 一礼した朱里(しゅり)は煙のように消え、再び戻って来た時、彼女はひとつの長い箱を抱えていた。

 テーブルに置いた箱の中身を見た時__思わず息を呑み、アルマトラスと朱里を見つめた。


「片腕だけでは不便だろうと、殿下がサイクロプスとドワーフに造らせたものにございます」


「うむ、コレが褒美であり婚姻祝いだ!

 __あ、ちゃんと指輪は(はま)ってるから」


 ()()()()

 それは、()()()()()

 ()()だ。

 手の甲に義眼が埋め込まれた義手は、二の腕までのマットな黒く細かい鱗で覆われたグローブを()めているかのよう。

 そしてその薬指には、輝く宝石が散りばめられた指輪が()められていた。


「ふっ……コレで()()()()()()()()()()()()!」


 屈託(くったく)なく笑うその顔が、(にじ)んで歪んだ。

 ()()()()()()()()事に気づくのに、たっぷり三秒かかった。


 __この人は、こんな私を『道具』としてでなく、ひとりの『女』として愛してくれる。


「は……はい……殿下……ありがとう、ございます__たくさん、繋ぎましょう。たくさん、触れ合いましょう。

 あ、あたくしの、()()()……!」


 冗談のような展開だが__

 私は彼女に()()()

 自分が案外チョロい性格をしているという事が判明した瞬間だった。

ご拝読ありがとうございました!

いかがでしたか?

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
百合カップル成立という事ですか…自分は好きです!!
これが紅蘭さんの魔法少女姿・・・・美しい✨✨✨✨ アルマトラス様、勢いが凄いけど、嘘偽りなくはっきりという姿勢がカッコいいですね(≧◇≦) 紅蘭さんの為に怒るシーンは、私も嬉しくなりました(≧◇≦)…
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