一夜明けて
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握って__開く。
握って__開く。
ソレの繰り返し__
周りに何もない、やたらと白く輝いた空間で、私はソレを延々と繰り返す。
いつものように__
魔力を立ち上らせ、手の中で増幅と圧縮を繰り返したのち、掌に握り込む。
しばらくすると、何もなかったはずの掌の中に、幾つもの石ころを掴んだような固い感触が現れ、私は掌を開いた。
こぼれ落ちるのは、星の輝きを凝縮したかのような光の粒。
硬い音を立てて床に散らばるのは、渦巻き湯気たつほどに濃密な魔力が篭められた、燦然と輝く大量の宝石。
私が生まれ持った能力のひとつ、『魔力の結晶化』だ。
似たようなモノに宝石に魔力を篭めたモノがあるが、コレは違う。
この宝石は魔力を極限まで増幅し圧縮させ、固体として昇華させたもの。
だからこの宝石それそのものが強大な魔力を蓄えている。
名付けて『ブースト・ストーン』__魔力石と呼ばれる宝石で、魔力を超圧縮することによって固体化した『魔弾』。
基本的には『属性爆弾』として投げて使うか、魔力の温存や増幅に使うか、何かの触媒に利用する。
ブースト・ストーンを使用することで、魔法適正のない者でも魔法を扱えるようになり、魔物に持たせれば世にも珍しい属性魔法を放つ魔物が出来上がり、武具に仕込めばいわゆる『属性武器』として利用できる。
左腕があった時は一日に18グロス__つまり2592個__ほど生成できたのだが、失ってしまった今は14グロス__2016個__にまで生産量が半減してしまった。
次に私は、自身の翼から引き抜いた羽根を握る。
握った瞬間、羽根は鋭利な長剣に変わった。
そしてちょうど鍔と柄頭に空いた窪みに、生成したブースト・ストーンを嵌め込む。
その途端、噴き出した膨大な魔力によって長剣は鈍い光に包まれる。
いわゆる『業物』の完成だ。
フェザー・エッジ__
羽根を弾丸の速度で飛ばすか、あるいは鋭利な刃物として使用できる。要するに手裏剣や刀剣になる。もう一つの私の能力だ。
羽根は軽い上にブースト・ストーンと組み合わせることで、属性が付与された強力な魔法の武器として使用できる。
「飛翔鱗」
私の言葉に反応した尻尾の龍が身体をゆすると、鋭利に尖った鱗が舞い散る木の葉のように剥がれ落ち、幾つもの刃物が床に刺さる音が連続した。
「龍鱗武装」
呟くと同時に指を鳴らすと、鱗はそのカタチを変える。
それは盾と剣と槍が一纏めになった、鱗模様の武具だ。
構えれば胸から脛までが隠れるくらい大型で長方形の盾の内側には、槍としては少々短い幅広の両刃の槍と、肉厚で幅の広い小剣が専用のホルダーに収まっている。
スクトゥムと呼ばれる大盾を参考にしているが、その表面には剣山状に展開した夥しい数の逆棘が並び立っている。
コレも、私が生まれ持った能力のひとつ。私の尻尾の龍の鱗は、強靭な武具となる。
握って__開く。
羽根を引き抜く。
握って__開く。
鱗を剥がす。
握って__開く。
羽根を引き抜く。
握って__開く。
鱗を剥がす。
ソレの繰り返し__
__コレが、父である妖魔大王が私を生かし続ける『理由』。
才はあれど病弱故に武人にはなれず、女故に国を率いる王にすらなれず、子を成せないために政略にも使えない欠陥品。
病弱、脆弱、虚弱と三拍子揃った私の、唯一の存在価値__
即ち、強力な武具を無限に製造し続ける『道具』としての__……。
「ケホ……ケホッ」
異物感に、目を開けた。
「……え?」
見慣れたレンオアムの屋敷の部屋の内装でなかったので、一瞬ここがどこだかわからなかった。
アルス大帝国で私にあてがわれた、レンオアム家末席の道具でしかない私にそぐわない巨大で豪華な寝室だった。
__夢、か……。
たまたま横向きだったために目に入ったサイドチェストに据え付けられた時計を見ると、時刻はまもなく正午になろうとしている。
「ん……」
何かが顎の下で、もぞり、と動く。
「え__」
この真っ赤に熱した錐状の角が生えた小さな頭は見覚えがある__アルマトラスだ。
「なっ……なななな____ッ⁉︎」
寝起きな上に微熱で朦朧とした頭でそう判断した途端。
昨夜のベッドの上での出来事を思い出し、体温が一気に上がり、急激に上昇した血圧で失神しそうになる。
「なっ……ななな、何なされてるんですかっ⁉︎ ゲホッ、ゲホッゲホォ!」
陸に上がった魚のごとく、ものすごく咳き込んだ。
「で、で、殿下っ! 殿下__ゲホッ、ゲホッゲホ!」
「__うむ、良きに計らえ」
目をこすりながら、寝起きの声でアルマトラスは言った。
下から見上げる熾火色の瞳と目が合うと、彼女は、にっ、と笑ってみせる。
「うむ、紅蘭ちゃんは今まで出会ったどの女よりも暖かい。お陰で良く眠れたぞ」
確かに私は普段から微熱に浮かされているので、他の人に比べると体温が高い。日によっては内臓にまでダメージが行くくらいには、高熱を発することだってある。
それに、とアルマトラスは続ける。
「泣き言は昨日、ベッドの上で散々聞いたではないか」
にやり、と意地悪く笑う。
そこで初めて、自分の今の現状を理解して__
「__ぁ……っ!」
シルクの掛け布団をなんとか右手で引っ張り上げ、頭から被った。
二人分の体温と吐息で熱された布団の中で、密着している彼女と再び目が合う。
「やはり着痩せするタイプだったな」
再び、にやり。
__ぜ、絶対に……絶対に、こんな小さな子がしていい表情ではない!
それに、あんな__……
「……っ! ケホ、ケホッ!」
思い出して、燃えてしまうのではないかと錯覚するほど、発熱以外の理由で身体が熱くなるのを感じた。
「失礼致します。お薬と氷枕とお召し物の替えをお持ちいたしました」
「うむ、大義である」
ノックの後に入ってきた朱里に労いの言葉をかけたアルマトラスは、のっそり起き上がる。
「え、えっ⁉︎ ちょ……まっ……ゲホッ、ゲホッ!」
その際、一緒に掛け布団も持ち上がり、足元までズレた。
立ちこめた肌寒さが、彼女が動いたことによって発生した風に乗ってやってくる。
「湯殿の用意をせよ。__あと、紅蘭ちゃんに薬を飲ませたら、彼女に食事と例の物を」
「畏まりました」
用意されたドレスを身につけ、颯爽と部屋を出ていくアルマトラスに恭しく頭を下げた朱里は、
「おはようございます、媛様」
その後、何事もなかったかのように、笑みを向けてくる。
「お加減はいかがでございましょう?」
言いつつさりげなく、かつ手早くアルマトラスによって引き起こされたベッドの上の惨状を片付け、ついでに服を着替えさせてくれる辺り、たぶん、こう言った現状に慣れているのだろう。
あるいは見慣れ過ぎているのか__
手渡された薬は昨夜と同じく甘くてほんのりと苦みのある水薬で、やはり飲みやすかった。
調剤した薬師の腕が良いのか、薬の効きがいい。
「コホコホ……え?」
慌ただしい足音がこちらに近づいたかと思うと、突然ドアが弾かれるように開いた。
「思い出した! そう言えば紅蘭ちゃんは魔法少女とやらになれると聞いたのだが、本当か⁉︎」
興奮と走ったことによる身体的作用で頬を赤らめながら、キラキラした目でアルマトラスは言った。
「ぇ、ぁ__は、はい……ケホッ」
「うむ、余はソレが見たい! ついぞ魔法少女とやらにはまだ会ったことがないからな!」
「恐れながら殿下。媛様はまだお食事もお済みではございません。それにまだ、お身体の方も万全というわけでは__」
「ケホケホ……いえ、構いません」
見せるくらいならすぐに終わるし、そこまで体力を使うことでもない__まあ、多少、魔力は使うが。
「少々お下がりください殿下」
腰を降ろしていたベッドから、ゆるり、と立ち上がって、私は引き抜いた羽根と剥がれ落ちた鱗ごと指を軽く握り、開く。
掌の上に生成したブースト・ストーンを胸の前で構え、
「変身」
呟いた。
光が溢れ、結晶化していた魔力が私の身体の中で渦を巻き、嵐となる。
身体の底から全身にチカラが湧き起こるのを感じた。
身につけているドレスすら分解し、翼や尻尾すら違う物質に変換と再構築させるほどの膨大な魔力を放って、私は変貌を遂げた。
魔法少女とやらに__
ご拝読ありがとうございました!
今作は魔法少女×悪役令嬢×百合となっております!
次回もお楽しみに!