表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

開戦! アルス大包囲戦‼︎

ブクマ感想評価お気に入りに登録などくださると励みになります!

 地面を震わせるほどの爆発音と(とき)の声が、硝煙(しょうえん)(かす)む大気に響き渡る。

 空が灰色になるくらいの、そこは戦場だった。

 裂けた大地、崩壊した建物、死に絶える()()()()()()()……。

 砲煙(ほうしょう)と爆発、灰色の戦場の空気が辺りを覆っていく。

 そこは掛け値なしの戦場だった。

 幾つも飛び交う砲弾が大地を(えぐ)り、投石や投げ槍、矢の雨に混じって、銃火器や魔法の(まばゆ)い閃光がそこかしこで点灯している。


「……なんて、(むご)いことを……!」


 玉座の間にあるルーフバルコニーから()()を見た時、思わず広い袖口で口元を覆った。


 風に乗って、声がする。

 ひいい、と引き絞る声。ぎゃあ、と魂切る声。ぐう、と潰れる声。

 呻き、泣き、叫ぶ声。

 悲鳴。

 絶叫。

 敵兵によって蹂躙される、城下に住まう町民と兵士達の断末魔。


 殺戮だ。

 これは、殺戮の光景に他ならない。


 未明の夜。アルス大帝国は、ウェスタムの大軍勢に陥落され掛かっていた__


「急ぎ住人の避難を! 兵も出せ!」


 ジールの檄が、玉座の間に響く。


「クソッ! ()()()()()()……最初から()()()()()()!」


 __絶望的な状況とは、まさにこの事を指すのだろう。

 曇天の真下を文字通り覆い尽くし、ひしめき合う大荒れの寒空に舞い上がる竜騎兵や魔導巨兵、航空魔導大隊。

 暴風雪の中で隊列を組んで展開する魔導戦車連隊と搭乗用ゴーレムの群れ、五十四の都市と数多の同盟国から派遣された選りすぐりの歩兵旅団が、雪化粧の上をカラフルな色彩で塗りつぶさんばかりに蠢いている。

 前後左右上下、あらゆる方向から、アルス大帝国は数千万の敵兵団に完全に囲まれていた。

 状況は、不利だった。

 圧倒的に不利だった。


 にも関わらず__


「……フッ__クククッ……フハハハ! アーッハッハッハッハッハッハッハァッ‼︎」


 突然、隣で惨状を見ていたアルマトラスは笑い出した。


「殿下……⁉︎」


 気が触れたのかと思った。

 だが、違った。


()いぞ悦いぞ家畜共ォ! そう来なくてはな! そうでなければ、()()()()()()‼︎」


 その可愛らしい顔に、似つかわしくないほど凶悪で邪悪な笑みを張り付けて__


「……だが、もっとだ! もっと余を(たの)しませてみせろ!」


 いつの間にか手にしていた身の丈ほどもある、片刃で僅かに反った大剣を肩に担いで脚に力を入れて、力を溜めるように低く構える。


「__さすれば褒美を(たま)わすッ‼︎」


 言い放って、アルマトラスは跳んだ。

 敵陣の真っ只中へと。


「だあああああああああああああああああああああああっ‼︎」


 ()えながら、二、三発で一国をも滅ぼす威力を内包したブレスを数十発、球状にして放つ。

 それだけで、数千ほどの軍勢がまとめて焼失し、ブレスを免れた軍隊にも爆炎が飛び散り、甚大(じんだい)な被害をもたらした。


「うッ……撃て! 撃てぇっ‼︎」


 という、上擦(うわず)った叫び声がいくつも聞こえた。

 大砲が一斉にアルマトラスを(とら)え、空中を自在に羽ばたく彼女を撃ち落とすべく、数千億をも砲身が同時に火を吹いた。

 砲声はひとつに重なり、空間を震わせるほどの轟音となって響き渡る。


「殿下!」


 アルマトラスは爆炎に包まれた。

 タガが外れたかのような甲高い悲鳴が、何処(どこ)からか聞こえる。

 それが自分の口から発している絶叫だとは、後になって気がついた。


「あなや……殿下ぁっ__ゲホッ、ゲホゲホッ!」


「大丈夫だ」


「えっ……⁉︎」


 見ろ、と言って、肩を掴んだジールに(うなが)される。

 もうもうと立ち込める砲煙(ほうえん)で姿が見えなくなるまで、大砲は集中砲火を浴びせる。


「やったか⁉︎」


 誰かが、(うめ)いた。


「いや……」


 恐怖の声だ。


「ふん」


 鼻を鳴らす声は、低くく、冷えた大気に嫌に響く。

 まとわりつく羽虫を払い落とすかのような、無造作な腕の一振りで立ちこめた砲煙が払われると、宙に浮いたまま佇むアルマトラスの姿が(あら)わになった。

 ()()()。不機嫌そうな顔を、さらに不機嫌に歪めて。


「嘘だろ……⁉︎」


「バカな……あり得ない! 無傷だと⁉︎」


 リオン=アルマトラス・プロイセン・グリセルダは、巨人族の膂力(りょりょく)と竜種の剛力を受け継ぎ、祖先であるバトラズ同様生まれつき灼熱と鋼鉄の身体を持つ。

 建国時に鍛治職人であるサイクロプスとドワーフ、そしてレプラコーンに、祖先と同じように鋼鉄の肉体を打ち鍛えられた事により、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 砲撃ごときなど、余裕で耐え切れるほどの防御力を誇るのだ。


「……っ」


 愕然(がくぜん)とするウェスタムの兵士たちに混じって、私も()()()()()()に口を両手で覆いながら目を見開いた。


()()が__」


 私が驚き声を失ったのは、なにもその防御力にではない。

 砲煙が振り払われた()()に、()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()


「__()()()()()()姿()だ」


 角も翼も尻尾も、全体的なシルエットは、アルマトラスのままだ。

 だが、圧倒的に()()()()()()()()()

 風になびく黒々とした長い艶やかな髪、炎を思わせる紅いドレスに包まれた豊かな胸元にほっそりとした腰。

 ウィンフィンの積雪よりも白い、伸びやかな腕に、艶やかな脚。

 熾火(おきび)色の大きな瞳は切れ長になり、怜悧(れいり)さを放っている。

 ()()()()()

 身長も年齢も、()()()()()()()()()()()の、()()()()()()()()()()()()__


「あなや……!」


 姿が変わったことに驚きつつも、彼女が無傷であることにひっそりと、私は胸を撫で下ろした。


 だが__

 効かないことは(わか)っているとは言え……伴侶(はんりょ)に暴力を振るわれるのは、やはり良い気がしない。


 私は臓腑(はら)の奥底から()り上がってきた怒りに、全身が熱くなるのを感じた。


「もっ、も……もう一度だ!」


「全軍! 再度砲撃準備ぃ!」


「竜撃砲も用意しろっ! 神通力も放つぞ!」


 ふん、と鼻を鳴らしたアルマトラスは、爆風の中で砲弾をその拳で殴り返し、尻尾の一振りで神通力を弾き返した。


「ヲイヲイ、この程度か?」


 ごきり、と首を鳴らす。


「ほら、どうした。余を殺すんだろ? この国を奪うんだろ? だったらもっと気合い入れて殺しに来い!」


 並いる魔導巨兵やゴーレム、魔導戦車を拳で叩き割り、至近距離からブレスを放ち、荒々しい剣筋で次々と切り裂いていく。


「フハハハ__ハハハハハハッ‼︎ ()いぞ悦いぞ家畜共ォ!」


 そう笑うアルマトラスは戦場を駆け抜け、襲いかかる兵士を殴り、腰が抜けて立てなくなっている者を蹴り、背中を向けて逃げ出す者を切り裂いて行く。


「ぐぉ!」


 お尻で這いずって逃げようとする兵士の、その腹を踏みつけながら、


「ほら、どうした。皆殺しにするんだろ? だったらもっと気合い入れて殺しに来い。余を(たの)しませてみせろよ__さすれば褒美を(たま)わすッ‼︎」


 アルマトラスを中心に、燃え盛る火焔(かえん)として可視化された高密度の王気(オーラ)が、ずどん、と大気を震わせ、物理的な衝撃波となって放たれる。

 その衝撃波によって焼かれ、破壊された兵器の残骸や大気や大地のあちこちから、自ら形を成して無数の炎の精霊(イフリート)が『生まれた』。


『ひゃぁああぁあっ‼︎』


 その圧力に押し戻されるように、武器を抱えた兵士達が数百人、一斉に後退(あとずさ)った。


「心配するだけ無駄だ。元に戻ろうがいつもの姿になろうが、アイツは()()()()()()()()()()__って、え、を、をいッ⁉︎」


 私は()()を聴いていなかった。

 いや、()()()()()()()()

 全身が粟立(あわだ)つほどに(ほとばし)った怒りに任せて、手摺(てす)りに足をかけた私はそのまま跳躍した。

 他でもない、愛する人の元へ。

ご拝読ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アルマトラス様・・・・・・・なんて威風堂々として凶悪で邪悪で、とても美しいんだろう/// すごく痺れます!!!!!!✨✨✨✨
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ