僕の幽霊は、顔が見えない。
僕には幽霊が見える。
正確には、1人の女の子の幽霊が見えた。
覚えている限り幼稚園の頃から。
その理由はわからない。
ただこちらを見つめてるだけで
害は無さそうだから放っておいた覚えがある。
時々笑顔が見えるような気がするけど、
僕の見間違いだったのかはわからない。
彼女の顔は黒で塗りつぶされているように、
顔が見えなかったから。
母に1度その事について話したことがあった。
「僕ね、女の子の幽霊が見えるんだけど。」
少し喉が震えた。何故か震えた。
「そうなの?どんな幽霊さん?」
「三つ編みで、赤色のかちゅーしゃ付けてた。」
その時の母の顔は今でも覚えている。
「そうなのね。」
母は虚構に向かい悲しげに言った。
それからというもの
幼稚園を卒園してから
入学式、運動会、遠足などに現れては
ランドセルを背負って僕の後を着いてきたり
腕を降って50m走に出た僕を応援してた。
僕の人生を傍観する彼女は、
楽しそうで嬉しそうだった。
ある日、母と僕は
田舎のじいちゃんとばあちゃんの家に行った。
墓参りをするための準備を
そこでするとかしないとか。
僕の腕では持てない程ある菓子折りを持つ母と
みかんジュースを持つ僕は
太陽に見られながら墓地へ歩いていった。
蒸し暑いにも程がある夏に抱きしめられ、
ミンミンと声が響く静かで寂しさを持つ墓地は
どこか懐かしさを持たせてくれた。
「イオリくん。ママは少しお墓を拭くための水を
用意してくるから、少しお菓子さん達をどこか
置くか考えておいてね。」
そう言い水汲み場の方向に
トットッと歩いていった。
それを見送った後
ちゃっちゃと働きますか!と張り切った表情で
色々なものを取り出してはこれはここに置く!
と計画を立てていた。
ガタ
硬い音がした。
僕はビクッと反応して
菓子折が入っている袋の中の
それを確かめようとした。
「...絵?」
そこには小さな可愛らしい絵画があった。
可愛らしい女の子の絵画があった。
「どうしたの?」
「えっ?!」
母が水の入った桶を持ち後ろに立っていた。
「いや、この絵」
「あぁ、それも飾るものだから。
ちゃんと置く所考えてくれてた?」
こくんと首を動かし、
入道雲のような白い雑巾でお墓を一緒に拭いた。
僕は絵について聞こうと思った。
でも喉が震えて何も言えなかった。
その理由は、もうわかっていたのだろう。
あの可愛らしい女の子はきっと
きっと
学校をバックに桜の木が咲く中
赤く染ったランドセルを背負い
少し緑がかった黒の丸筒を持つ
三つ編みで赤いカチューシャを付けた少女。
その顔には涙が含まれていた。
「卒業証書授与。」
そして今、僕は卒業手前の小学生最後の時間を
有意義に過ごしている。
「意折理くん。」
「はい。」
勢いよく立ち上がった僕は、
少し笑われた気もしたが
そんな事はどうでもいい。
彼女は赤いランドセルを手に持ち、
母の横に座っていた。
母は泣いていた。
嬉しいように見えて悲しいようにも見えた。
「卒業。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
校長先生の方向を向いた後、
僕は体育館を見渡す方向に向いた。
彼女が笑っていた。
「また会おうね」
そうして消えた。
後日、僕は母に勇気をだして言った。
「あの女の子は誰だったの。
三つ編みで赤いカチューシャを付けていた。」
「イオリくんのお姉ちゃんだよ。
ごめんね。今まで言えなくて。」
薄々感じてはいた。
お姉ちゃんである椛姉さんは
流産で亡くなってしまった子だと母は言った。
あの子が成長した様子を描いた物が
あの女の子の絵だという事も。
顔が黒く塗られていたのは
胎児だった頃に顔も創られないまま
別れてしまったからかも、と母は言った。
僕はあの絵を母と一緒に。
僕のランドセルに入れた。