Chapter94. Air Combat Instruction Plus
タイトル【空域戦闘学 補講編 】
——外
閑話休題。
ゲルリッツの言っていることは兎も角として、誰もがマトモな説明をして欲しいものがあった。
如何にもパワーアップの末に得られそうな光球のことである。
バイト君はシムに問う。
「ちょ、ちょっと。だいたいなんでこんな、どう見てもオカシイもんを持ってきてるんですか」
竜騎士までは良いが、この浮遊している異物は一体何だ。
現実世界にこのような類のものは無いだけに、バイト君どころか柳沢もそう思っていた所である。
言わないだけであって。
するとシムは、ロッチナのように「軍事機密だ」と一点張りすることなく素直に答えてくれた。
「ああ、これ?帝国の試作兵器。なんでも旦那にもらったんすよ。これなら敵に勝てるだろって。そうそう、マジモンの軍事機密」
まるで近所に飯屋が出来たかのような気概でさらりと出てきた機密の文言。
SOYUZも含むあらゆる国はこれを隠すために躍起になっているのは言わずもがな。
知ったら最悪消されるかもしれない、そこまでしても守りたい秘密である。
「えぇ」
「いくらなんでもダメでしょ」
ひたすら困惑を隠せない二人。更にシムはダメ押しにこう続ける。
「これ、オプティムとか言ったかなァ。魔力で浮いて操作できる浮遊砲台。
———旦那がそろそろ手持ちの武器じゃあ厳しいって言うんで、引っ張りだしてくれたんすよ」
魔導の力をもってすれば、飛翔するのに揚力は必要としない。
現にそのような生物がちらほら居る中、応用されるのも時間の問題だったのだろう。
だが。
やはりと言うべきか、喋っても良いのには訳があった。
「そこまでは良かったんですけどねェ、ちょっとあの人、説明書あるから使える様にしとけとか無茶苦茶言い出して……
コイツ。1つ1つ視点は違うわ、それを片目の視界だけで場所とか配置するもんだから無茶苦茶難しくて」
「———ま、どうにかしたんですけど。」
何を隠そうこのオプティム、操作難易度が恐ろしく高いのである。しかも各々視点が違う。
分かりやすく言えば、片目で4つのモニターを見ながら戦闘することを強いられるのだ。
空、それも常に敵に狙われている中で。
凄まじい所業に柳沢は思わず食いついてしまう。
「えっ、コレ4つあるのに全部一人で操作するんですか!?」
「そうだけど。————あ、思い出した。旦那とかなら問題ないんですけど、そもそもこれ光ってるのは構造の欠陥らしくて。夜は目立って使えやしない。まぁ出来る事も多いんだけど、見た方が早いな」
早速シムは飛竜から操作盤を下ろして地面に置くと、何の変哲もない取手を握りこんだ。
「オプティムを使うには、コイツを握るだけでいい。あとは……センスすかね」
練度を求め、なおかつ煩雑極まりないオプティムを使うだけの価値は当然ある。
一体それは何か。
シムは片目をつむったまま、何も言わない。
—————
□
彼が桿を握り、念を入れた途端。
球は一斉に意思を持ちながら空高く浮かび上がり、各々違う方向へと飛び散っていく。
それもつかの間の事に過ぎない。
シムが目を剥くのと同時に、刀を振るうような鋭さで4つ全てのオプティムが動き出した。
————KIGON!! KIGON!!! KIGON!!! KIGON!!!
虚空を、豪雨のような量の熱線が飛び交う。
そこで光球に目を向けてみると、どうだろうか。
各々UFOのような機敏さで、なおかつ子機も1つとして同じ動きをしていないではないか。
下に・上に・左に・右と自由自在。
たかだか4つしかないにも関わらず、多方面から極めて正確な攻撃が飛んでくる。
しかも機銃やミサイルといった点と線ではなく、空間での動き。
後ろから飛んできたと思ったら、右下から。
ロックオンでオプティムそのものを補足したとしても、それぞれが独立して動いていることを忘れてはならない。
まさに避けようと思っても不可能。
そう、操っている人間の思考を直接読まない限り。
人間の感性を利用し、機械の性能を発揮させる。
まさに両者が融合した兵器。ファルケンシュタインの開発してきたものとは一線を画す。
「まぁ、これはおあつらえの動きっすね。こんなの実戦でやったら旦那に殴られる。オプティムを見世物にするな、こちらが丸裸になるって」
集中力を限りなく必要とする機動をさせておいて、シムの口ぶりは全く変わらない。
「えぇ……なにあれ……キモい」
バイト君は完全に置いていかれ、困惑しか出て来なかった。
「はぁ……」
異世界にも、まして現実世界にも存在しない兵器を使うかを中佐は分かっているのだという。
柳沢はそう分かっていても、あまりにも次元が違い過ぎる所業でバイト君の二の足を踏むことに。
異能がある者はこうやって蔑まれてきたのだろうが、当たり前すぎて慣れているシムの反応は素っ気ない。
「そんなんよく言われますよ、具体的に言えば35回目。じゃあどうしてるかっていうと」
実際問題、ゲルリッツに殴られない様に使うにはどうしているのか。都合の良い位切り替えの早いバイト君も、そこが気になるらしい。
「気になる」
「私も」
確かに4つしかない砲台を自由自在に飛ばすことも手だ。
しかしシムやゲルリッツのように、この世界の人間はとにかく順応が早い。
人間離れした兵に遅かれ早かれ、カラクリが見破られてしまうのだ。
そうなれば全滅させられてしまうことも十二分に考えられる。
それにマッハで飛ぶジェット戦闘機や攻撃機が相手になる以上、限界も見えてくること請け合い。
取り囲むのにも無理があるだろう。
「オプティムを空中に置く。悩みに悩んだ結果がコレなんす。だいたい旦那側に2つ、あとは雲とかに隠して。————ま、どうせ戦いなんてすることもないし、無駄になると思うんですけどね。」
「?????」
超次元的な事にバイト君の頭は再び理解不能の領域に突入してしまった。
—————
□
「つまり……2手に別れて、一方は騎手側。もう一方は待ち伏せとかに使う……ということなんですか?」
頭でようやく理解できた柳沢が事実をまとめ上げて確認する。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
熱光線。つまり対抗できる武器を喪失することを恐れているものの、結局使わねば持って来た意味がない。
シムが360度撃てる戦闘機の機銃として使いながらも、罠がある所にゲルリッツが誘い込む。
これこそ異端軍、つまり現用航空機に立ち向かう戦法なのだろう。
ビームをワイヤーの様に張っておけば追いかける必要もなく、勝手に罠にかかる。
車もといジェット機は急には止まれないのだから。
阿部がその辺にいる騎手ではなく、トップクラスの竜騎士に話をしたかった理由を柳沢は理解した。
バイト君は相変わらず上の空のようだが。
「あ、そうそう!ソレソレ。言いたい事を良く分かってるじゃないの!」
それはシムも変わらない。
揃いもそろって抜けている人間しか居ない事実は相変わらず君臨し続ける。
だが現代航空戦において忘れてはならないことが一つ。バイト君の空気を読まない無慈悲な指摘が飛ぶ。
「これミサイルに狙われたらどのみち終わりじゃないですか?」
どれだけ強力な装備を搭載しようと、今の時代は空対空ミサイルで勝敗が決まる。
この残虐な真実は一般市民の彼にも理解できるくらいに浸透しているのは言うまでもない。
「たしかみさいる?で一回旦那が叩き落とされてんのに考えてなかった」
シムもこの有様である。だが衝撃的な一言が飛び出してきた。
「けど、あのバカでかい空飛ぶ城で戦ってた頃……その「みさいる」が撃たれるトコは確かにあった。
でもなんか追っかけてくるだけなら多分叩き落せるかも。見えるには見えたし」
「何言ってんだコイツ」
「私もそう思ったが、それでもバイト君、その口は止めなさい!」
ごもっともである。
いくらオプティムがあらゆる方向から撃てるとはいえ、現代の悪意をこれでもかと集めて開発された空対空ミサイルを侮ってはいけない。
接近された時点で起爆、無数の破片をばら撒いて敵機を落す。
ミサイルアラートもない中、爆発される前に迎撃することなどできるのか。
普段のちゃらんぽらんな口調でも、流石に許容範囲というものがある。
「いやーでも、あんなのが無数に飛び交ってるんじゃあ無理っすね。ていうか下手したら死ぬような真似、俺はしたくないっす」
だが如何にいい加減な大尉でも死にたくはない。そのことが確かめられた柳沢はホッとする。
「まぁそうですよねぇ……」
だが、何かを忘れてはいないだろうか。
—————
□
そんな他愛もない会話がしばし繰り広げられた後、シムはようやく此処に来た目的を思い出したようで、オプティムの電源を切ってバイト君や柳沢にこう切り出してきた。
「あ、そうだ。俺、あんたたちに見てもらいたいものがあって来たんだわ。オプティムに変な刻印があって、あんたらなら知ってるんじゃないかと思って。よくわかんない文字っぽいから」
「変な刻印?」
光がなくなると、球体のようなベールが剥がれ武骨な砲台が姿を現す。その様はSF作品に出てくる衛星レーザー砲台のよう。
ファルケンシュタインの技術とまるで合致しない。
「そう。コレなんだけど……文字っぽいんだけど読めねぇし」
シムが指差した先にあった文字はヒエログリフや江戸時代の崩し字やキリル文字でもなんでもない。
柳沢やバイト君にとって身近なものの1つ、ローマ字だった。
「Presented by IMI……?」
「なんだこれは……」
異次元に存在するハズのない文字。
更にローマ字に似たようなものでもなく、明朝体ではっきりとした字体でそう記されているではないか。
問題なのはその意味だ。
Presented byはどこからの提供があったことを指し示す。
だがIMIという略語の組織は三人にとって思い当たる節が全くない。
「あ、これIHIで造られたヤツじゃないですか柳沢さん」
バイト君は空気を一切読まず、思い付いた言葉を口走る。
「それは石川島播磨重工業、船を作ってるところだ。こんなロマンあふれるものを作ってる所じゃあない。……あと、HじゃなくてMだぞ。」
そうやってたしなめているものの、IMIと言われて思い当たる節が一切ないのも事実。
「あんたらじゃわからないか……」
「ですね」
「いやはや……」
何とも言えない空気が漂う羽目になってしまったが、彼らはまだ「IMI」刻まれた真実をまだ知らない。
IMI
この忌むべき印がつけられた兵器たちが、遙か遠くのガビジャバン王国で大量に生まれていることを。
そして、殺戮の限りを尽くそうとしていることを……
執筆スタッフが多忙により、3か月休載いたします。
次回Chapter95は5月に再開予定です。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません




