Chapter93. Air Combat Instruction First
タイトル【空域戦闘学 1コマ目】
——ファルケンシュタイン ナルベルン州
———阿部たちの拠点
海原がガリーシア軍曹と絡み合っている傍ら、もう一つの学術旅団
通称ナルベルン支部では長である阿部がこんなことを言い出していた。
「戦争終わったんなら、向こうの超腕利きの飛竜乗りと話が出来るのでは?いや、話しをさせろ!」
いわゆるドラゴンナイトと呼ばれる兵種。
似非中世のような異世界 ファルケンシュタイン帝国には現実世界にはあり得ない「人工物に頼らない」航空戦力が存在する。
古代から近世までの古武器を探求する阿部にとって、これだけ興味深いものは早々いないだろう。
すると彼が雇っている雑用係こと、バイト君が事務イスを滑らせながらこんなことを言い出した。
「腕利きじゃないなら市民の会にいる騎手に取材してくればいいじゃないすか」
隣国ガビジャバンの血統を継ぐここナルベルンでは多くの騎士が在籍。
「ラムジャーを許さない市民の会」と姿を変えてSOYUZと手を組んで戦ったことも記憶に新しい。
何もわかっていない様子で苛立つ阿部。
そこで正規雇用、もとい子飼いの柳沢がこんなことを付け加えた。
「いいか、教授はその中でも伝説となっているような人間と会いたいんだ。
伝わるかどうかわからんが、その道の聖書を書いた先生がやる講演会に行きたいだろう?」
バイト君はただのアルバイトであり、アカデミックな人間ではない。
彼はこれでも納得がいっていないようだった。
頭の上でクエスチョンマークを浮かべ続けるヤツに痺れを切らしたのか、阿部は暴力的に分かりやすい揶揄を出す。
「———ハリポタ読破した後に、作者のJ.Kローリングが日本に来ていると聞いたら会いに行きたいだろう?」
決して短気な訳ではない。
「あ、それは確かに」
理解できたまでは良いが、先生の示す「伝説的ドラゴンナイト」などいるのだろうか。
ヒントを出すのはどうにも一言多いソーサラー バドラフトが現れた。
「だったら、ゲルリッツ中佐とかどうすか。あの人、教本にも出てくる上に、マジもんの不死身だし。
なんかどっかでSOYUZの捕虜になってるって聞いたことあるんで死んでないんじゃないすか、多分」
「どいつもこいつも戦争終わって暇だと思うんで、中佐も暇なんじゃないすか」
よりにもよって阿部の大好物であるカップヌードル チリトマトを食べながら
今だ輸入規制があるファルケンシュタインでは、日清カップヌードルでも一食の価値は意識高いラーメン1食分に匹敵する。
お値段1870円。
とんでもなく痛い。
「貴様!私のチリトマトを喰いやがって!煮て殺すぞ!」
激昂する阿部だが、バドラフトはさも当たり前かのように言い返す。
「ていうか大事にしてる割に名前書いてなかったじゃないですか。じゃあ自分、殺られる前に燃やして殺るんで。———遠慮なく全部喰っちゃいますね」
仕事は出来る。素養も十分でExcelで何故かVBAが使えると優秀なのだが
足りないものは配慮と人間性、そんな男がバドラフトである。
しかも魔導を使えない人間の事を、下に見ている節もあることを付け加えておこう。
「く、クソ。何も言えん……!いや、待てよ……」
しかし、いつまでも大人げない行動をしていられない。
振り返ってみると、教本に載っているレベルの偉人が生きていて、しかも会えるかもしれないという事実に直面する。
いわば阿部にとってのJ.Kローリングである。
呼びつけない理由がなかった。
さっそくソ・USEを手に取る。
【あ、もしもし?ナルベルン支部ですけど。あー……ゲルリッツ中佐とかいます?】
暫く間が起き、保留中を示すメロディーが流れ始めた。
そして数十秒後。
【————あ、いる!?今すぐ来てもらえません?なるほど?しばし待てと?いやぁマジか!わかりました、では!】
「中佐が来る!」
思い立ったが吉日。
阿部の良い所でもあり、悪い所でもある。
—————
□
———1時間後
——外
暫くすると、一騎のドラゴンナイトが拠点に降り立つ。
だが教本時代とはまるで違い、風格はそのままだがすさまじく変貌していた。
「私こそがファルケンシュタイン帝国空軍所属 ゲルリッツ中佐である。後ろにいるのは優秀な射手であるシム大尉だ」
「どうも」
竜騎士用の鎧などはそのままに、極めて珍しい後部銃手を連れているではないか。
バイクにおける二人乗り、タンデムだ。
一人乗りのワイバーンでは通常あり得ない。
なおかつ武器も槍や弓ではなく異世界版 携行ミサイルこと、空対空誘導槍射出器 と言う長ったらしい武器を持っている。
普通の対装甲ランチャーに槍に細工を施し、魔石による照準器を付けただけなのだが。
特に型式も何もなく、皆ヘンダーと呼んでいる。
一歩でシムは大弓ガロ―バンを携えている程度で、大それたようなものは無いようだ。
「うわホントに来たよ……」
顔をしかめるバドラフト。
「え、なんかすごくSFっぽいんですけど」
「こ、こら。バイト君、やめなさい」
普通の竜騎士についていないはずの「光球」を4つ引き連れている姿に困惑を隠せないバイト君と柳沢。
世界観が思わず違うのではないかと嘆きたくなる物体であり、場違いにも程がある。
そもそも今まで、このような武器を持ったドラゴンナイトは今まで見たことがない。
このファンタジーとサイエンス・フィクションが混ざり合っている光景はシュールとしか言いようがなかった。
むしろ、他に何を言えばいいのだろうか。
「おぉ……!」
そして芸術品を見ているかのような声を上げる阿部。
これでは珍妙軍団と言われても仕方がない。
しかし当のゲルリッツ中佐は、困惑する民間人に目をやることもなく、思い切り嫌な顔をしているバドラフトへと向かっていき……
「貴様、なんだその態度は。所属と階級を名乗れ!」
底冷えするような声で怒鳴りつけたのである。
絶対的パワーハラスメントを前にバイト君と柳沢も凍り付く。
思わず横に居た後部機銃手のシムも顔を真っ青にしながら様子を見守るしかない。
「はっ!フェロモラス島守備隊所属 バドラフト伍長であります!」
「そうか、バドラフト伍長。フェロモラス島ではそのような品のない態度がまかり通っているのか?」
伍長は何も答えられない。
「答えろ!」
「はっ!大変な無礼を働き、大変申し訳ありませんでした!」
「———これは最初で最後の通告だ。もう一度私にこのような態度を取ってみろ。灰になってもらうからな。後ろにいるシム大尉にも無礼は許さんぞ。良いな!」
「えっ!?旦那、俺もすか?いや俺は————」
「当然だ。お前も私の大事な部下だということを忘れるな」
ゲルリッツは戦争が終わっても尚、軍人仕草が一切抜けていない。
いわば面倒な男なのである。実力は折り紙付きなのだが。
そして振り返り、旅団支部長の阿部に挨拶をする。
「では、アベ氏。私で良ければ飛竜乗りの真髄をお教えしよう」
「是非とも!」
そうして二人は拠点へ向かっていったのだが、ゲルリッツが見ていない事を確認したシムがバイト君と柳沢に駆け寄り、こう耳打ちした。
「旦那、すげぇめんどくさい人だから気を付けて。あと俺、ほんとはその辺の雇われで大尉なんて階級貰ってるけど、そこまで気にしなくていいから。な?」
「大変だなぁ……」
「先生を上回る人間がいるとは……」
「こんなところ聞かれたら大変だ。バレたら殴られる。じゃあまた!」
苦労人は何処の世界にもいるものである。
—————
□
———拠点内
外にいる俗人連中を放置して、ゲルリッツ中佐いや教官によるレクチャーが始まった。
「竜騎兵という存在は知っている、ということを前提に話を進めていこう」
調査と言う事前学習を念入りに行っていた阿部は、暗記でもしていたかのように答える。
「勿論。空を駆け、斥候や万が一空で遭遇すれば叩き落す……」
しかし目の前にいるのは実戦経験の塊。
お題目通りの答えは中佐のお眼鏡に叶わないらしい。
「それは正しいが、模範的。教科書通りの答えと言える。それでは空を飛ぶ騎士と大差ない。ペガサスでは正解だろうが……竜に乗る意義というのはもっと別にある」
「支援のために降下することもある、ということだ。常に戦場は表情を変えている以上、常識は時として邪魔になることも往々にしてある。
竜は馬と違って矢を弾くことができるから、降下しても強力な戦力になると言う訳だ」
阿部は目を輝かせ、話を聞いている。
中世や近世でいた騎士はもう絶滅していて、どのようなことをしていたか書面でしか伺うことができない。
だが今はどうだろう。
貴重な体現者が、目の前で、ノウハウを語ってくれているではないか。
学者としてこれ程嬉しいことは無い。
「専ら私は空専門の飛竜乗りだが、事の次第によってはそうもいっていられないこともある。
連携を取りながら上手く渡り合う。
当然敵にとっては脅威である以上、常に狙われているということを自覚しながら立ち回らねばなるまい」
ゲルリッツの話に戻ろう。
ある程度の盾になり、矢や剣と魔法では瞬殺できない存在は敵にとって見過ごせないのも事実。
標的になりうるため、そこを頭に入れながら立ち回らねばならないのである。
「騎兵もそうだが、竜騎士は機動力を持ちながら多くの「対装甲兵器」が持てる。
ソルジャーキラー、ダールといった具合に。例外的にガロ―バンもあるが」
「———どのようなものか無論知っていることだろう。しかしそれらには欠点がある」
言わずもがな、人間には手がある。
ライフル・突撃銃・機関銃・地対空ミサイル・対戦車ミサイルと、持たせるものを変えれば多種多様なものが運用可能。
つまるところ、ドラゴンナイトは「対地攻撃機」にも「戦闘機」にも「爆撃機」にも武器を変えるだけでも対応できるのだ。
現にゲルリッツが持ち込んだヘンダーが非常に良い例と言えよう。
これさえあれば竜騎士という原始的な航空戦力から一転。
サイドワインダーを搭載した脅威になりうるのだから。
しかし、弱点もある。
「重荷になることだ。竜は積載量が多いとはいえ、機動力や速力に影響が出るのだ。そうなれば敵にとっては格好の獲物になってしまう」
「……狩る側が、狩られる側になる、というべきだろうか?如何に持ち込む獲物を考えるかも非常に重要となってくる」
良いものは性能だけ重さが増す。
人間でも致命的なのだが、揚力を得て空を飛んでいる彼らにとっては死活問題。
だからこそ取捨選択が必要となってくる訳で、間違った武器の選択はそれ即ち「死」を意味する。
中佐はそこの所思う所があるようで、深堀していった。
「竜騎士は基本的に槍を持っている事が多い。多種多様な戦況に対応可能だからだ。
だが私のような異端軍と戦う上では近接戦闘を捨て、飛び道具を持つようにしなくてはならない」
「そうでなければ蹂躙される。戦った上で実感した」
「なんと……戦闘機と戦って唯一傷をつけられた人間というのは!!!」
感銘を受ける阿部。
「そう、この私だ」
忘れてはならないが、ゲルリッツはこの世界で初めて戦闘機と戦って生き残った男である。
「いやはや……」
感極まったのか、メモを取るのを辞めてひたすら目頭を押さえ続ける。
だがゲルリッツにとっては取るに足らない事なのだろう。
「———続けるぞ。弓では集中力が居る以上、機動に支障が出る。魔導でも同様だ。弓に心得のない私には異端軍に対して歯が立たない」
「大尉を乗せてガロ―バンに専念させても、まだまだ足りん。……そこで選んだのは」
一人で弦を引きながら三次元機動をするのはまず不可能。
そこでシムを雇ったが、これでもまだ戦闘機には追いつけなかった。
悩みに悩んだ中佐の導き出した答えは一つ。
「大尉に、あの光球を使わせることだ」
果たして、あの光球とは一体何なのか。
次回Chapter94は2月7日10時からの公開となります
・空対空誘導槍射出器 ヘンダー
時速約60キロ以上であれば捕捉可能な誘導兵器。射程は1キロ程度と手狭。
対戦車兵器でもありMANPADSでもあるという極めて特異すぎるポジション。実は既存兵器に突貫で装置をポン付けしただけ。戦場では逆にそんなものが猛威を振るうのである。




