表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/95

Chapter92. Highway Sodium Lamp

タイトル【ナトリウムランプ】


横浜の本牧を出ると高速道路は未踏の地、海上を回りながら東京都心へと接続している。

その道中で、川崎を沖から見る事が出来るのだが、ここでの風景は一線を画す。


——京浜工業地帯

GRRR………


突如として陸に現れたのは星空。

いや、銀河だった。


工業地帯ということもあって、21世紀でも星座は見えないと言うのに一面広がるのは天の川。


しかし光だけではさほど珍しくない。


人の手で造られた星明かりに照らされて、細胞のように張り巡らされた建造物が縋らを現す。

そして血管のように入り組んだ配管や鉄骨が浮かび上がる。


これらは再現されたミニチュア玩具ではない。

全て稼働している工場である。


川崎で栄えているのは石油精製コンビナート。

人工島を埋め尽くすように広がった鋼鉄のジャングルが、世界中の重工業を支えているのだ。


この星空や鬱蒼とした機械の森に休む日は存在しない。


24時間365日、昼夜交代しながら労働者が行きかい、煙を吐き、ひたすら製品を生み出すのである。


毎日が造り・造られの繰り返し。

ありとあらゆる現代文明はココを通って生まれてくると言っても過言ではないだろう。


石器時代、まだ人間がサルだった時代から、一度文明が退化しながらも中世へ。

そこからファルケンシュタインのような近世から現代まで一気に駆け抜けてきた。


日々数万・数十万トンもの資材を加工し、多少の都市を維持できるだけの電力を喰らいつくす。

しかも一帯にある工業地帯だけで。


これが人類のたどり着いた境地、現代文明の源である。


費やした時間は20万年。

20万年もの気が遠くなるような歳月を経て、ここまでやって来た。


まだ「途中」なのだから恐ろしい。


その傍ら、遠方で煙突から炎が巻き起こる。

全てが機械化された情景で、聖火のように燃え盛るフレアスタックと呼ばれる構造も、魅力の一つ。


広く茂った金属の森。これら全て、人間が積み重ねて造って来たのだから驚きである。


魔導ではない、もう一つの可能性「化学」と「重工業」の見せる極地。

別方面に進化してきた証か。


此処には未来があり、そしてあり続ける。



濛々と白煙を吐き、常に無害化のためにひたすら燃える炎の上には、地上の灯に照らされ曇天の切れ間が顔を出した。


如何に機械が地表を覆ったとしても、所詮は地球にあることを思い知らせてくる。


目を奪う光景が120キロで走っているにも関わらず、ゆっくりと過ぎていく。

まるで永遠のように。


ガリーは上の空になりながら、こう呟いた。



「光が全部白い……」



ファルケンシュタインにも電灯ならぬ「魔力灯」が存在する。

あくまでも炎魔法の延長線上であり、どこか温もりを感じる光を放つ。


だが一面に広がるのはLEDによる純白の輝き。


微妙な光の色彩は違う印象を抱かせることを、忘れてはならない。



「そうか……ナンノリオンのはもっと、燃えるような光だものな……」


世界が違えば、あるべき色も違ってくる。

虹の色が7つあると思いきや、半分以下やそれ以上と言う事もあるように。


そんなことは些細なものに過ぎない。本当に壮言な光景や芸術は価値観や色眼鏡を全て吹き飛ばす。



「はっきりいってそんなのどうでもいい、これは……この風景はなんて言葉にしたら…」



学を重ねてきたガリーでさえ、言葉に出来なかった。

胸を直接プレスで押し出したかのような感動をどう形にしろというのか。


言伝て。圧倒的に足りない。

写真。これでも足りない。

絵でも、まだまだ足りない。


真実は実際にやってみせ、見てみせて初めて伝わる、理解することができるのだ。


これだけ強く「百聞は一見に如かず」という慣用句を突き付けてくる風景はないだろう。


正しく学術旅団の真意だ。

耳にすることも重要、文献で知ることもまた重要である。


しかし忘れてはならないのは、実物に目で見て触れる事。そうでなければ記録に残せず、後世に伝える事はできないのだ。


短くも長い旅を締めくくるため、海原はあることを問う。



「そう、か。なら最後に一つだけ、ガリーに聞きたいことがある」



「何?」



「なんだかんだ言って、私の世界は最悪だ。だが人に言われず実際にみた感想はどうだった?」



やはり難しい質問だったらしく、投げかけられた側は顎に拳を当てて深く考え込んだ。

出張に行って来て、即座に答えを出せというようなもの。


今出せないなら、と彼は口を開いた瞬間。



「やっぱり、見てみないと分からない。聞いてばかりだと偏って来るから。久々に大事なことを教えてもらった、かな」


ガリーは軍曹時代よりも、はるかに成長していた。

人生何があるか分からない。自分が全力で挑みたいと思うものに、彼女は出会えたのだろう。



「お世辞じゃあ……」


分かり切っていることだが、海原は意地悪も兼ねて言葉尻を立てる。

が、刃を返すが如くこう突き返された。



「あるわけないじゃん。言ってもウナビー相手に意味ある?」


「……一応教授やってんだけどなぁ…」



なんとも締まらないやり取りでも、時間はひたすらに進み続ける……




—————




しんみりとした会話はそこまでで、横浜から川崎。

そして東京をぐるりと一回りするツアーは目新しいものは余りなかった。


しかし降り立ったのは首都東京都心。

省庁や官邸が立ち並ぶこともあって、自然と暴れた話題と化していく。



「東京都心!よし、ミサイルのタダ券があるから文部科学省と財務省に撃ち込もう」


横浜から都心にある大学に通っていた先生は、ここに苦い思い出があるらしい。

嫌な記憶を1つでも掘り起こされると、連想ゲームのようにつながっていくものである。



「ギドゥールにしとこうよ。……今んとこ制御が効かなくて、どうなっても本当に知らないけど」


軽戦車を容易くテツクズにするものを提案するガリーもガリーだとは口にしてはいけない。



「ミサイルよりマシな分、有情だと思うんだがなぁ。———どう思う?私の成果を全部台無しにしたのはあの連中だ。なんだか腹が立って来た。ちょっとぐらい焙っても文句ないだろう」


「いやダメでしょ」



強いて際立ったものと言えば、悪口大会と化していたことだろうか。

決してご機嫌になったチーフから魔力が大漏洩し、海原が充てられたと言う事ではない。



決して。




——後方 SOYUZ覆面活動車


彼らの車をさも当然のように盗聴しているSOYUZの尾行車に居るスタッフ。

いや、このような痴話を聞かされている哀れな男たちの身にもなってほしいものである。


「何話してんだアイツら……」


「ピザ頼む感覚で言いやがって……あれ1発ウン百億もするんだぞ……」





—————




12時になる前にシンデレラが城を出なければならない様に、二人にもタイムリミットが迫っていた。

東京から横浜に帰る時がやって来たのである。


西に下るためには、乗って来たものとは別のハイウェイに乗り換えなければならない。



———東名高速



ドライブというものは高速道路と長く付き合う羽目になる。

一面灰色か、ナトリウム灯で橙色に包まれた筒をひたすら飛ばすような、退屈な情景。


違うものと言えば地名の書かれた看板が違うぐらいのものだが、文字があまり読めないガリーにとっては全て同じものに見えて仕方がない。


ただでさえ取り留めのないと言っても、突飛な内容になっていくのも当然の成り行きだった。



「でさ~……なんでウナビーは身を固めなかったの?戦争起きないド平和ならさ、別に死にはしないでしょ?」



自身に対するセクハラは絶対許さない主義の彼女だが、だからと言って他人にするのは如何なものか。

そんなものはどうでも良い。


海原は男女間の隔絶とは別の事で深く考えていた。


結婚。

最期のチャンスを逃してはや何十年になる。


就職氷河期という絶望の時代を経験した彼にとって、婚姻は手にしたくても手に入らないものだった。


もちろんそれは日本の価値観に過ぎない。

ただの島国の指標でしかない。



昨今、そのころよりも景気が上向いてきたとはいえ、電子世界というものがより世界を滅茶苦茶にしている。


医者や成金にヤドリギの如く寄生し、若さを使って金を巻き上げ売れなくなったら被害者面。

最近はそんな醜悪なのが増えてきた。


人の形を取った欲望に見られないよう、ガリーには細心の注意を払ったものである。


男女とは一体なんなのか、最近はますます不明瞭になってきている世の中。


所詮、それは一部の国が押し付けてきたものとも解釈できるが従ってしまう自分がどこかに居る。

つまらない色眼鏡を付けているのは彼女ではなく、自分なのかもしれない。


だが、価値観とは人間の抱く一種の偏った考えだ。


無言を貫く彼に女神が問いかける。



「ウナビー?」


人間はそのようなちっぽけものを抱いてしまう。

そのことからは逃れられないのだと察した海原はこう答えた。



「———いや、何でもない。」


自分にとっての幸せとは、ガリーにとっての幸せとは何なのだろう。

考えても答えは出ない。だからこそ、親密な間柄だとしても最後の一歩が出ないのだ。


良くも悪くも、カーナビが迷いを消してくれる。


———PONG


『まもなく 500m 料金所 横浜青葉ICです』



「もうこんな所まで来てたのか!」


「飛竜くらいブッ飛ばしてたし、そりゃそうなるよ普通」



横浜市瀬谷区にあるSOYUZ本部基地の近くと言う事もあって、彼は急いでハンドルを取った。

何時かは答えを出さねばならないだろう。


そうして二人はまた元ある鞘、異世界へと戻るのだった……

次回Chapter93は1月31日10時からの公開となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ